静かな始まり #4
アキコは少し戸惑ったような表情を浮かべながら、話し始めた。
「最近、彼とよく会っているんだけど…まだよくわからないのよね」と、言葉を選びながら続けた。「特別に惹かれるわけでもないし、ドキドキするわけでもない。ただ、彼と一緒にいると、ちょっと楽しいなって思うことがある。それって、どうなんだろう?」
わたしはアキコの気持ちに思いを馳せた。恋愛といえば、情熱やときめきを求めるものだと多くの人は思う。でも、実際にはそんなに単純じゃない。
「一目惚れしたり、急に心がときめくのが恋だって思いがちだけど、それが全てってわけじゃないんじゃないかな?」わたしはアキコに答えた。「最初から情熱的になる必要はないのよ。むしろ、静かに始まることもあるし、それが本当に大切な関係に繋がることも多いと思う。」
アキコは少し驚いた表情で、わたしを見つめた。「でも、それって本当に恋愛なのかな?情熱がなければ、意味がないんじゃないかって思っちゃう。」
わたしは彼女に優しく微笑んだ。「情熱って、最初からあるものじゃないよ。彼と一緒にいて、『ちょっと楽しいな』って思うなら、それがまず大事なんだと思う。好きかどうかは、どっぷりハマってから見えてくるものよ。彼があなたのことを求めてくれているなら、まずはそれで十分なんじゃないかな。時間をかけて、彼との関係を深めていくうちに、自然と気持ちが育つこともあるから。」
アキコは静かに頷き、目を伏せた。「確かに、ちょっと楽しいし、悪くないなって思う。それに、彼がわたしのことを求めてくれているなら、それを大事にしないといけないのかもね。」
「そうよ。情熱は後からついてくるものだから、今は焦らずに、まずは彼との時間を楽しんでみたらどう?」と、わたしは優しく励ました。
カフェの帰り道、アキコは少し晴れやかな表情を浮かべていた。彼女がどう感じるかは、まだ時間が必要だろうけれど、彼女自身がそれを確かめるまで、そっと見守ることにした。
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