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いま手の中にあるもの #16

窓際の席から外を眺めていると、風に揺れる木々の葉が、秋の訪れを告げているように見えた。

ドアが開く音がして、聞き慣れた声が耳に届いた。「ここにいたんだね。」

顔を上げると、そこには彼が立っていた。彼の表情には、いつもとは違う少し緊張したものが混じっていた。

「座ってもいい?」彼はそう言いながら、向かいの席に腰を下ろした。わたしは頷き、彼が何か話したいことがあるのだと感じた。

「実は、君に相談したいことがあって。」彼は少し戸惑いながら言葉を選んでいるようだった。「新しいプロジェクトの話なんだけど、どうも踏み切れなくてね。」

わたしは彼の言葉に黙って耳を傾けた。彼がこんな風に迷いを口にするのは珍しいことだった。それだけに、彼が真剣に悩んでいるのだとわかった。

「新しいことを始めようとしているんだけど、どうもうまくいく気がしなくて。これまでやってきたことと全然違うし、でもなにかに挑戦しなきゃいけないんじゃないかって焦ってしまうんだ。」

彼の言葉には、自己への不安とプレッシャーが含まれていた。わたしは少し考え込んでから、穏やかに言葉を紡いだ。

「無理に新しいことを始めなくてもいいんじゃないかな。これまであなたがやってきたことがあるでしょう?それを活かして、まずは今できることから始めてみるのも一つの方法だと思うよ。」

彼は驚いたようにわたしを見つめた。「でも、新しいことに挑戦しないと成長できないんじゃないかな。今のままだと、停滞してしまうような気がして。」

わたしは優しく微笑みながら、彼の手を取り、そっと握った。「成長って、新しいことに挑戦することだけじゃないと思うの。今持っているものをもっと深めること、得意なことを磨くことだって立派な成長よ。無理に自分を変えようとするよりも、今の自分を大切にしてみてはどうかしら?」

彼はしばらく黙っていたが、やがて少しずつ表情が和らいでいくのがわかった。彼はわたしの言葉を心に受け入れ始めているようだった。

「確かに、無理に新しいことをする必要はないのかもしれないね。」彼はゆっくりと頷きながら言った。「今の自分にできることを大切にして、それをさらに深める。それが今の自分にできる最善のことなのかもしれない。」

わたしは彼の手を軽く握り返し、彼に向かって微笑んだ。「その通りよ。あなたが持っている力は、まだまだ可能性があると思う。それを信じて、一歩ずつ進んでいけばいいんじゃないかな。」

彼は深く息を吐いて、肩の力が少し抜けたようだった。「ありがとう、少し気持ちが楽になったよ。君に相談してよかった。」

わたしは彼のその言葉に、心から嬉しく感じた。彼が少しでも前向きな気持ちを取り戻せたことが、何よりも嬉しかった。

二人で外に出ると、秋の風がわたしたちを包み込み、まだ夏の名残を感じさせる空気が心地よく頬を撫でた。わたしたちはその風に乗りながら、新しい季節へと一歩ずつ進んでいくのだった。

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