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雨と逃げ道 #11

窓の外では、いつもより強い雨が降り続いていた。わたしは温かいカフェオレを片手に、目の前の麻美の言葉に耳を傾けていた。

彼女は静かに視線を落としながら、控えめに話し始めた。「私、どうしても恋愛が苦手で…相手の気持ちが分からないし、自分から動くことができないんです」

彼女の声には、どこか諦めが滲んでいた。わたしは彼女の言葉を飲み込んでから、ふと窓の外に目をやった。降り続く雨は、一見無害に見えるが、外に出る気を失わせるほどのしつこさがある。麻美の心の中でも同じような雨が降り続いているのだろうか。

「苦手、ですか…」わたしは言葉を噛みしめるように繰り返した。
「でもね、『〇〇が苦手なんです』って、自己分析とは少し違う気がするんです」

麻美は驚いたように顔を上げた。
「違う、んですか?」

わたしは静かに頷いた。
「そう。『苦手』って言葉は、実際にはただの言い訳であることが多いんです。自分を守るための逃げ道と言ってもいいかもしれない。もちろん、相手の反応を気にするのは自然なことです。でも、その気持ちを『苦手だから』と片付けてしまうのは、自分を縛ってしまうことになる

彼女はわたしの言葉を考え込むように受け取り、再び視線を落とした。わたしは続けた。

「確かに、何かを苦手だと感じることはあるし、それを認めることも大切。でも、それを理由にして動かないことが多いなら、それはただの言い訳に過ぎないかもしれないわ。雨の日に家に閉じこもっているように、安全な場所から出ないことで、本当に見たい景色を見逃してしまうことがあるんです」

麻美はゆっくりと頷いた。「そうかもしれない…でも、どうすればいいんでしょうか?」

わたしは微笑みながら、「まずは、自分の気持ちを正直に見つめることから始めてみませんか?」と提案した。「本当に何が怖いのか、自分が何を望んでいるのか。それを知ることが、最初の一歩かもしれません。自分に正直になれば、何かが変わるかもしれない」

麻美は深く息を吐き出し、少し考え込んだ後で、小さな声で答えた。「少し、やってみます」

その言葉には、どこか覚悟が感じられた。わたしは麻美が踏み出そうとする一歩を見守ることにした。彼女の中で何かが変わり始めた瞬間だった。

カフェの外に出ると、雨は少し弱まっていた。麻美は傘を閉じ、小さな一歩を踏み出した。わたしはその背中を見送りながら、彼女が自分の心に素直になれたことを嬉しく思った。

わたしもまた、彼女の姿に学びながら、自分自身と向き合っていくのだろう。小さな勇気を持って前に進むことで、どんな未来が広がるのか、それを楽しみにしながら。
麻里が見つけた勇気が、どんな風に彼女の人生を変えるのか、それをそっと見守り続けるのが、わたしの新たな一歩なのかもしれない。

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