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第2回 今年こそは成功するぞ!ブロッコリーの病気対策についてコルテバの専門家の方に聞いてみた

新規就農してから2シーズン、主力としているブロッコリーに病気をまん延させてしまったさいこうファーム。第1回の記事では「今年こそは主力を主力たらしめる!」とブロッコリー栽培の大敵、ブロッコリーの病気についてリサーチしました。

リサーチの結果を総括すると、

1.ブロッコリーの病気はたくさんある!
2.多くの病気は暑くて湿度が高い時期に発生しやすい!
3.雑草根圏に存在する土壌常在菌(土に普通にいる菌)や虫害痕などが発生源になりやすい

昨シーズンのさいこうファームでは、大きな食害を及ぼす鱗翅目(チョウ目)害虫に対するケアはかなりしっかりやっていたけれど、それほど大きな食害がないように見えるカメムシ系へのケアが弱かったのが病気が広がりやすい一因だったのかもしれない、と振り返ったのでした。

兎にも角にも、農家にとっての大敵、病気についてリサーチできました。
第2回となる今回は、農家にとって野菜を守る盾「農薬」について学んでみることにします!

「彼を知り己を知れば百戦危(あやう)からず」なのです。


コルテバ・アグリサイエンス日本株式会社に潜入!

と、いうことで。

やってきましたコルテバ・アグリサイエンス日本株式会社!
場所は、大都会東京のど真ん中、永田町にあります。

数年前まで東京で働いていたとはいえ、オホーツクの美幌町での暮らしが板についてきたぼくは、しっかり地下鉄の降り口で迷子に。

「一体全体、どこの出口から出ればいいんだ……」

最寄り駅でさまようこと十数分。なんとかコルテバさんが入っているビルにたどり着いたのです。

コルテバさんが入っている山王パークタワー。大きい!

久々のオフィスビル。
行き交う人みな、ピシッとスーツで決めている中、少々場違いなぼく、少し不安になりながら待っていると、見知った顔の大橋さんが迎えに来てくれほっと一安心。

大橋さんもここではピシッとスーツ姿。やっぱりぼくもスーツがよかったかなぁ。

相談に乗ってくださるみなさまのご紹介!

大橋さんに連れられて、コルテバさんのオフィスに潜入。
MTGスペースには今回相談に乗ってくださる皆さまがいらっしゃいました。

相談に乗っていただいたのは、コルテバ・ジャパン株式会社で開発部門の責任者をされている播本さんマーケティング本部でブランドマネージャーをされている星野さん、そしてコルテバのSNSを担当されている江崎さんの3名です。
そうそうたるメンバー!
勉強させていただきます!

播本さん
・研究開発部 部長 日本・韓国
・博士(農学)
・専門は植物病理学。大学では植物病原菌の進化について研究していたそうです。
星野さん
・マーケティング本部 ブランドマネージャー(殺菌剤担当)
江崎さん
・マーケティング本部 デジタルコミュニケーションリーダー

右が播本さん。左はぼくです。MTGスペースがかっこいい!
星野さん(左)と江崎さん(右下)はオンラインで参加していただきました。

農薬を適切に使うだけで病気をバッチリ抑えることは可能?

豪華なメンバーに対応していただけることに感謝しながら、さっそく本題に進みます。

※ここから、会話形式で相談に乗ってもらっています。ささっと新規就農者の疑問の答えが知りたい方は、まとめに飛んでくださいませ!

──さいこうファームのブロッコリーに病気がまん延してしまって困ってるんです。病気って農薬を上手に使えば完全に抑えられるようになりますか?

播本さん「なるほど。そうですね。病気や害虫を防除するのに農薬が非常に大事な役割があることは間違いありません。
ただ、やっぱり、大事なのは、病気に強い品種の選択、水はけや風通しを良くする栽培管理、そして適切な化学農薬や生物農薬。この3つの組み合わせだと思っています」

農薬だけでなんとかできればいいなというぼくの甘い考えは瞬時に打ち砕かれたのでした。
やっぱりそうなんですね、農薬を上手に使うだけで簡単に解決する問題でもないんだなぁ。
うん、品種選び、栽培管理も頑張ろう!

播本さん「その中でも、農薬の部分だけを考えてみると、適切なタイミングで、適切な量を散布することですね」

その、『適切』が難しいんだよなぁ……。
適切なタイミングについて、新規就農者のぼくがいつもふんわり悩んでいたことを聞いてみることにしました。

なごやかな雰囲気で相談会は進みます。

農薬散布、雨の前、雨の後、どっちなんだい?

──植物の病気は雨に関連して広がりやすいなと思っているんですけど、適切なタイミングって雨の後なのか、雨の前なのか、どっちなんですか!

播本さん「おもしろい質問ですよね」

ほめられた!

播本さん「これについては病気によるんですよね。例えばべと病。この病気は雨が跳ねていくことで雨滴に乗って広がっていくんですよ。こういう病気の場合はやっぱり雨の前に農薬を散布することが重要です。雨の前に植物表面を薬剤で覆っておくと、菌がどこかから雨滴に乗って跳ねてきたとしても、その菌を殺せるんですよね」

──でも、雨の前に散布すると農薬流れちゃいませんか?

播本さん「そう思われがちなんですけど、薬剤散布後にちゃんと乾燥さえしてしまえばしっかり固着しているので大丈夫です。もちろん落ちる部分がないとは言えないのですが、安心してくれてもいいと思いますよ」

──ちなみに、雨で広がる病気じゃないものってどんなものがあるんですか?

播本さん「そうですね、ブロッコリーの例ではないのですが、うどんこ病なんかは代表的ですね。うどんこ病は風によって広がる病気で、雨が降ったりして湿度が上がると病気は抑えられる方向に進みます。こういった病気の場合は雨の前にまくよりも、むしろ乾いているときにちゃんと散布したほうがいいと思います。」

第1回でリサーチした結果では、ブロッコリーの病気は基本的に湿度が高いときに広がるものばかりでした。

ということは、ブロッコリーの場合、理想の農薬散布タイミングは基本的に『雨の前』だと思って良さそうです。

展着剤っている、いらない?

──散布の話がでたのでもう1つ聞きたいのですが、農薬に混ぜて使う展着剤って必要なんですか?先輩農家さんによっても意見が結構われているんですよね。そもそも農薬のラベルを見たら展着剤になりそうな界面活性剤も入っていますし……

播本さん「そうですねぇ、ブロッコリーやキャベツみたいなものとか、ネギや玉ねぎのようなものは何かしら入れたほうがいいと思いますね。やっぱり、薬が乗りにくいですよね」

──乗りにくいっていうのは葉っぱがつやつやしていて水を弾く感じのものですが?

播本さん「そうですね。そういうものについては展着剤を入れてもらったほうがいいです。展着剤使用による悪影響がもし心配な方は、展着剤のメーカーさんに問い合わせてみると良いと思いますよ」

──なるほど。ちなみに、農薬に元々入っている界面活性剤成分だけではだめなんですか?

播本さん「あれは、展着剤的な役割を狙ったものというより薬剤の安定性を高めるような狙いで使われている場合が多いですね。
なので、ブロッコリーのように葉っぱのワックス層(クチクラ層)が発達していて水を弾きやすいものは展着剤を使ってもらうのが良いです」

※ワックス層(クチクラ層)についての説明はこちらの日本植物生理学会のサイトが詳しいです!

展着剤、必要だったのか。実はさいこうファームでは展着剤を使っていなかったのです……。これも病気が広がりやすい一因だったのかもしれません。
展着剤をあまり使わない先輩の農家さんの意見と、「悩むくらいなら使わない!」というぼくのちょっとしたケチ心がガッチリタッグを組み、使わないことにしていました。
少しでも病気のまん延を防げるのであれば、使うべきだったなぁ。

星野さん「補足ですが、薬剤によっては展着剤を使わない方が良いものもあります。ラベルをしっかり確認したり、メーカーさんに問い合わせてもらうことがおすすめです」

──メーカーさんってそういうのを細かく問い合わせてもすぐに答えてくれるものなんですか?

星野さん「もちろん答えますよ!そういうメーカーさんの窓口には、ベテランの方が対応している場合も多くていろいろと教えてくれると思いますよ」

この写真では少し分かりにくいですが、ブロッコリーはよく水を弾くのです。

ラベルの希釈倍率に幅がある農薬、本当はどの倍率がおすすめ?

──農薬のラベルについても疑問がありました。農薬の希釈倍率って例えば2000倍〜3000倍とか結構な幅がありますよね?あれって本当はどの倍率がおすすめなんですか?

播本さん農薬を開発している側の意見としては、一般的に濃い方がおすすめですね。病気の心配が小さい時期で、一応予防的にまいておこうかなという場合は薄めの散布でも全然問題ないと思います」

濃い方がおすすめだったのか……。
さいこうファームでは「薄くて良いのであれば、薄くまくでしょ!」とまたまたぼくのケチ心がばっちり存在感を発揮して、毎回一番薄い設定で散布していました。
ここにも病気のまん延を抑えられない理由の一端があったのかもしれません……。
でも、濃い方がおすすめなら、なんで薄い濃度も書いてあるのよ。

──濃い方がおすすめだったんですね。それではラベルに書いてある濃度の幅ってどのように決められているんですか?

播本さん「開発側からすると、作物で試験をした上で効果のある濃度の幅を決めています。ただ、技術的な面ではやっぱり濃度が濃い方を推奨しています。
薄めの濃度に幅を持たせているのは、どちらかというと営業や販売のサイドの意見による場合が多いですね。濃い濃度だとそれだけ農家さんのコスト高につながりますからね。
なので最大の効果を出すには濃い倍率がおすすめだけれど、ある程度の効果が期待できて病気も8割くらい抑えられる低めの倍率も設定しているという感じですね」

星野さん「マーケティング側としては、表記する倍率についてはコストももちろんですけど、生産現場での希釈しやすさも意識していますよ。切りの悪い倍率だと、現場で希釈する時に大変ですからね。それと、濃度については同じ薬剤であっても求める効果によって倍率が違う場合もあります。例えば殺虫剤のトランスフォームフロアブルはターゲットの虫によって倍率が変わってきます」

農薬の希釈倍率の幅は、開発サイドと生産現場の意見のすり合わせの結果だったのです。
この話を聞いて、まだまだ新米のさいこうファームとしては、今シーズンから気温が高くなる時期は迷わず濃いめの濃度で散布しようと心に決めました。

農薬のラベル。濃い倍率の方がおすすめだそうです。

ブロッコリーの農薬はどの時期にどれを散布したらいいの?

──農薬の散布はやっぱり予防が基本なんですよね?

播本さん「そうですね、殺菌剤はそれがメインですね。1つ病斑ができてしまうと、そこから一気に広がってしまいますからね。
あらかじめ作物の表面をガードしておければ、外部から細菌や胞子が付着しても守ってくれますからね。一度植物の中に入ってしまうとそれを止めるのはすごく難しいことなんです。
中に入ったものに対応する治療剤もありますが、やっぱり予防しておくのが防除としては一番簡単です。
作物の病気は『基本的に予防』と思っておいてもらうのがいいですね」

──なるほど、やっぱりそうなんですね。予防が大事というのは分かるのですが、新規就農者としては『何をいつまくの?』というのがすごく難しいんですよね。実際、昨シーズンはせっせと黒すす病の防除をしていたらべと病が出てきちゃって……。ジャガイモに関しては、農業改良普及センターが作った農薬のローテーション表(防除暦)があって、それを参考にできるから分かりやすいんですけど、ブロッコリーはなくて基本的に自分だけで考えてやっているんです

播本さん「そうですね。ブロッコリーなどに関しても一番いいのは研究機関や普及センターに相談してベースの流れをつくるのが良いと思います。
栽培地域によって、出やすい病気の種類と時期も異なってきますからね。それと、農薬については耐性菌を出さないことも重要なポイントです」

──例えばブロッコリーだと畑に植えてから2ヶ月くらいで収穫になると思うんですけど、そのくらいの比較的短い期間でも、同じ農薬を使い続けていたらやばかったりします?

播本さん「薬剤、病害、栽培体系などによって耐性菌の発生リスクは異なりますが、一般に同じものを何度も使うのは良くないです。違うものを組み合わせて使うのが防除のポイントですね。」

それぞれの病気が出やすい時期を想定しながら、耐性菌が出ないような農薬の使い方をする。
うん、これは自分だけで考えるのではなく、研究機関や普及センターに相談しよう。
まずは美幌町にある普及センターに行ってみることにします。

さいこうファームの農薬散布用スプレーヤー搭載トラクター、古い、いや味がありますよね!

どんな病気にも効く、夢の農薬ってできないの?

──実は以前から考えていたんですけど、例えばブロッコリー用に、あの病気にもこの病気にも全部効く、ブロッコリーの病気は全ておまかせ『ナンデモキク〜ゾ』みたいな農薬って作らないんですか?いろんな成分を混ぜればできると思うんですけど……。ぼくはあったら高くても使っちゃうかも

播本さん「そうですね。確かにアレコレ混ぜれば、そういったものができないこともないと思うのですが、どちらかというと1つの成分だけが含まれる単剤を望まれる農家さんもいらっしゃいます。
例えば2つの病気に対応するために2つの成分を混ぜると単純に値段が倍になってしまいますからね。なので、メーカー側としては、あれにもこれにも効くように成分を配合した農薬を作ろう、という方向性はあまりないですね。
あまりに高いと農家さんも買ってくれないですしね」

またもやぼくの甘い考えはもろくも崩れ去りました。
やっぱり病気を防ぐためには適切なタイミングを見極めて、適切な農薬を使えるようになるように自分をレベルアップさせる必要があるんですね。

コルテバさんのお力も借りて、農家としてのレベルアップに励みます!

新規就農者のお悩み相談会まとめ

──今日はいろいろと相談させていただきありがとうございました。また相談させてください!

播本さん「はい、吉田さんのようなバックグラウンドの方が農家になるというのはとてもおもしろいことだと思いますし、これからも一緒に勉強しながら何かできればいいなと思ってます」

──よろしくお願いします!

ということで、コルテバ・アグリサイエンス日本株式会社に潜入したぼくは、播本さん、星野さん、江崎さんのおかげでこれまで農業をやってきた中での日々の疑問を解消できたのでした。

<今日の質問とその答え>
Q.農薬を適切に使うだけで病気をバッチリ抑えることは可能?
A.農薬は大事な要素の1つではあるけれど、病気に強い品種選び、風通しや水はけを良くする栽培管理の2つとの組み合わせが重要。
Q.農薬散布、雨の前、雨の後、どっちなんだい?
A.雨滴で広がる病気に関しては雨の前の散布が良い。農薬散布後乾いてしまえば雨に当たっても効果は問題なし。ブロッコリーの場合は雨や高湿度で広がる病気ばかりなので雨前散布が良さそう。
Q.展着剤っている、いらない?
A.ブロッコリーやキャベツ、玉ねぎやネギなどワックス層(クチクラ層)が発達していて水を弾く作物に対しては使ったほうが良い。
Q.ラベルの希釈倍率に幅がある農薬、本当はどのラインがおすすめ?
A.開発サイドとしては基本的に濃い倍率で使うのが推奨。病気の心配が少ない時期に予防的に散布する場合は薄めの倍率でも問題ない。
Q.ブロッコリーの農薬はどの時期にどれを散布したらいいの?
A.地域ごとの差もあるので、研究機関や普及センターなどと相談して基本的な散布の流れを作ってしまうのがおすすめ。
Q.どんな病気にも効く、夢の農薬ってできないの?
A.成分を混ぜることで作れなくもないが、コストがその分上がってしまうので、そういうものを作る方向性はあまりない。

以上、「コルテバ・アグリサイエンス日本株式会社に潜入してみた!」でした。
次回も一人前のブロッコリー生産者を目指して学んでいきたいと思います!お楽しみに!

このnoteはコルテバ・アグリサイエンス日本株式会社さまの協力を得て作成しています!

最後まで読んでいただきありがとうございます。東京から北海道オホーツクの美幌町に新規就農した4人と1匹家族の農業、子育て、おすすめスポットなどをほぼ毎日更新しています。もしよろしければ「スキ」「フォロー」をお願いします!このマガジンはコルテバ・アグリサイエンス™日本さんの協力を得て作成しています。
(登場人物)
ぼく:東京大学で農学博士取得後、ベンチャーで8年勤務。その後、北海道で新規就農。


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