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【そもそも~】心の微熱がスイッチになるなんて聞いてない。:4

夜が明ける前のシンとした時間は、夜を一緒に過ごした二人の気持ちを緩ませる媚薬のようだと思った。


もう朝になるね。
どちらともなく呟いた。二人の関係はこれからも続くかもしれない。でもこの真夜中のやかましく愛しい時間は待ってくれない。必ず終わりがあるから特別なのだ。お会計をしてお店を出る。入った時より少し近付いた手の触れそうな距離。ああ、甘ったるいな。身体に熱がこもる。駐輪場までの無言の時間。スイッチがゆっくりと押された時間だった。

気が付くとNに抱き締められていた。180cm以上あるNの胸元に顔を埋める。大好きなNの匂いが身体中に充満し頭がクラクラする。

「細いし小さいし折れそう」

そうNは呟いた。

「私、平均身長やし普通やで」
「俺からしたら小さくて折れそうなんよ」

そう言いながら優しく優しく抱きしめてくれた。予感はしていた。どこかでこうなるんじゃないかと。期待はしていなかったけど。しばらくその時間が続いた気がする。でももしかしたら数秒だったかもしれない。Nが何を考えて私を抱きしめたのかはわからない。でも、確実に物語は動き出した。

私の頭をポンとして帰るかと言ってバイクに乗った。ほんの数時間前と見える背中は同じだけど、そっと耳をつけてNの熱と匂いを感じながら、この一夜の余韻に酔いしれた。お互いに引くことがない微熱が心地よかった。突然上がる心の微熱が恋愛のスイッチなのかもしれないと思った。

媚薬のような時間は、心の奥の奥で決して消える事の無いケロイドのように刻み付けられた。でもそれはそれでいいと思う。私の人生で大切な時間に代わりがないのだから。でも、たまに疼いて忘れないでって言ってくるのは、ほんの少しやかましい。


次のお話はこちらです。

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