渋谷のちょうちょ
久しぶりに“スキマ”を感じている。
久しぶりに日常生活を取り戻した。
ラジオ収録をして、PCR検査を受けて。渋谷の淀みで黄色い蝶を見て、カメラを取り出そうとしてるうちにその蝶はどこかに行ってしまって。
黄色い蝶を見失わないように自分の目でフォーカスを当てている間、たくさんのひとが行き交っていて、でも誰ひとり蝶になんか興味もなくて。
「社会のスピードはこれか」
そんなことを思いながら、蝶を見失って。
そして家に帰って、自転車を修理に出して。
そのあとはただただ昼寝をしていた。
明日から再び怒涛の日々が始まる。
怒涛の10日間。
たくさんのひとと関わって、たくさん話をして、自分の中でも葛藤をして、正解のない旅をして。
改めて思い返すとものすごく疲れる仕事をしてるなと思う。
それと同時に、自分の人生における“労働”が俳優という職業で本当に良かったなと思う。
とても苦しいけど、正解を生み出すわけじゃない。
何かしらの答えはあるかもしれないけど、それは我々が持っているわけではなくて、受け取ってくれるひと達が答えをバンと出してもいいし、出さなくてもいいし。
劇場に来て、作品を見て、劇場を出たあとの世界をそこから生きていく上で新しい選択肢を持って帰ってもらえる。
論理的な答えが求められがちなこの世の中で特殊な職業だなと思う。
俳優という職業のそこが好きなのかもしれない。
ぼくはここまで約1ヶ月、稽古場に造られた【調理場】という世界で料理を作り続けてきた。
そのおかげで、ぼくは渋谷の淀みで黄色い蝶を見つけ、その逞しさを美しいと思い、強く生き抜いてほしいと思えるだけのスキマが生まれたのかもしれない。
それと同時に、ぼくは社会における“労働”の平均速度についていけないことも感じている。
調理場での労働はフィクションでもしんどい。
でも社会では多分、その速度が普通だったりする。
だから黄色い蝶に構っている暇もないし、気づくことすら難しい。
調理場の中にも、実はぼくが気づけていない美しい瞬間が多々あるのだろうな。
その美しい瞬間を見つけに、劇場に来てもらえたら嬉しいです。