空気を読むのに疲れたら【死にたい夜に効く話.29冊目】『「空気」を読んでも従わない』鴻上尚史著
怖い話が大の苦手だ。
なのに、行かなくてはならない場所は、「オカルト現象が起こるらしい」という話をうっかり聞いてしまった。震え上がるしかない。
そんなある日、その場所へ行くとまさに「不思議な」場面に遭遇してしまった。ビビりなわたしはどうなったか。
むしろ、その場所がそんなに怖くなくなった。
わたしが怯えていたのは、何が、どのように、いつそれが起きるかわからない、という「わからなさ」に対してだったのだ。
別にオカルトの話がしたいわけじゃない。
人間はわからないことに対して不安や恐怖を覚える生き物らしいということが言いたいんだ。
話変わって、自分が中高生の時、とにかく息苦しかった。
いつもその苦しさは確かにあるのに、それが何なのか、どうしたらいいのかがさっぱり分からなかった。
頭の中は常にぐちゃぐちゃな状態で、心身ともにまいってしまったこともあった。
そんな風になってしまったのは、まさしくこの、「わからないことに対する不安や恐怖」があったことも関係していたに違いないと、今となっては思う。
今、直面している敵は何なのかを理解すること。
実はそれが、精神的に落ち着かせることであり、かつ、問題解決の糸口なのだ。
そして、それは「生き苦しさ」という敵に対しても使えるらしい。
『「空気」は読んでも従わないー生き苦しさからラクになるー』
あの、場の「空気」というやつは、一体何なんだろう。
目に見えないのに、確かにある。
それがいい空気なら別にいいんだけど、いやーな感じの空気だとやってられない。
自分は空気を読みすぎてしまうタイプなものだから、なんだか無駄な体力を使っている気がしないでもない。
HSPという言葉がこれだけ広まるぐらいだし、空気を読みすぎて疲れてしまっている人もたくさんいるんだろうな。
この本は、そんな「生き苦しさのヒミツをあばき、楽になるための方法」について書かれている。
ただポンっと答えを出してくれるわけではない。
「自分で考えさせる」
この本はそういう本だ。
生き苦しさを感じるそもそもの原因は何なのか。
一つ一つ段階を踏んで、説明がされる。
まず、日本には「世間」と「社会」の二つの世界がある、というところから話は始まる。
この二つの世界がどういうものなのかを知ることで、生き苦しさの正体が見えてくる。
そこには、日本が歩んだ歴史だったり、日本人特有の性質だったりといったものが関係するらしい。
日本人独特の考え方や文化が「生き苦しい」という状況を生んでしまっているという。
だから、生き苦しさを感じてしまう人が弱いとかそういう話じゃなくて、そうなってしまうのがある意味「自然」だったのだ。
「なにかわからない」ものに形を与えることで、頭の中はスッキリする。
敵を知ることができれば、戦略を立てることができる。
「生き苦しさ」というあいまいなもの。
「空気」というあいまいなもの。
それらを言語化して示してくれるこの本は、これからの人間関係をどうやっていくのか、今後の自分の行動を決めるヒントになってくれる。
それにしたって、どれだけ頭で理解して、考えても、やっぱり最後は勇気がいる。
著者がある女の子から相談された話。
その子はいつも一緒にいるグループの中で「自分はいてもいなくてもいい感じ」なのだと思っているらしい。
学校での人間関係をしくじるのは、死活問題だ。その後の学校生活が全く変わってきてしまう。
強メンタルの人ならいざ知らず、多くの人はできれば周りとうまくやっていきたいと思っているだろう。
だからと言って、他人の顔色ばかりうかがって生活していても、自分の心が削られる。
「大人になってからの方が大変なんだ」と言う人もいるけど、わたしは「いや、そうとも限らんだろう」と、自分が大人になってから思うようになった。
学校という、閉じた世界は戦場だ。
どんな選択をするにしても勇気がいる。
でも自分のために、自分にとって一番いい状態を選ぶべきなのだ。
生き延びるためには、あの手この手を使って、なんとしてでも立ち向かわなくちゃならない。
この世で一番怖いのは、生きた人間なんだ。
〈参考文献〉
鴻上尚史『「空気」を読んでも従わないー生き苦しさからラクになるー』、岩波書店、2019年