家でも学校でもない居場所【死にたい夜に効く話.24冊目】『夜の光』坂木司著
友達はいた。部活にも入っていた。なのに、どうにも息苦しい。
高校生の頃、しょっちゅう昼休みや部活が始まる前に、一人でふらふら図書室へ行っては入り浸っていた。
図書室の一番奥まった廊下側。日本人作家の小説が並んだ書架の間は、陽射しが届かなくて、いつも薄暗く、人はいなかった。
中学生になってようやく読書に目覚め、小説の面白さに気づいた自分にとって、そこは宝の山だったのだ。
ずらりと並んだ本を前にしている時だけ、気持ちは軽かった。
--どこか遠くへ行ってしまいたい。
『夜の光』には、そんな気持ちを抱えた高校生たちが出てくる。
物語の中心は、天文部の4人。
同じクラスになったとしても、同じグループにはならないような、タイプがてんでばらばらな彼ら。
共通点は、天文部なのに4人とも天文にまるで興味がないこと。
個人主義。何より、ゆるい。
ただ、定例の観測会にだけは、ちゃんと参加する。
学校の屋上で、コーヒーを片手に星を眺めるのだ。
同じ部に所属していながら、それまでろくに関わりをもとうとしなかった4人が、ある日をきっかけに「共犯関係」になる。
ベタベタしない。馴れ合わない。クールな関係。
でも、その繋がりはとても強固だ。
4人とも、置かれた環境はまるで違う。みんなそれぞれが自分の「敵」と戦っている。
心ざわつかせることがあっても、天文部の存在は、一人一人にとっての拠り所になっていた。
精神的安定のためにも、家と職場以外に、もう一つ居場所を持っているといいとか、複数のコミュニティに属すといいとか、そういう話はよく聞く。
今いる場所が辛くても、別のところに繋がりがあるだけで、人は辛い現実を乗り越えられたりする。
今いる場所が全てだと思ってしまうと、息苦しくなってしまう。
入っていた部活は割と大所帯の「ザ・組織」といった感じのところだったからか、天文部のようなコミュニティを、どこか羨ましいと思ってしまう自分がいる。
学生時代の自分に必要だったのは、多分こういう居場所だった。
せめてもの救いは、自分には図書室という居場所があったことだろう。
あの薄暗い図書室の一角のおかげで、今の自分がいる。
《参考文献》
坂木司『夜の光』新潮社、2008年