あるいはすべてが夢だったとして。 『TIMELESS』
今は走馬灯みたいに通り過ぎて、
記憶は白昼夢みたいに溶け出した。
言葉は口にした瞬間から疑わしくなる。
大切だと言ったとたん、大切じゃない気がしてくる。
生まれたことに意味はなくて、生きることに理由もない。
すべてがなりゆきだったとして、ここにいるのは誰だろうか。
あるいはすべてが夢だったとして。
感想
恋を知らないまま子どもをつくったうみと、父を知らないまま生きるアオ。
一見孤独なふたりだけど、孤独という言葉を知らないから、孤独に見えない。
うつつと夢とが混ざりあう、眩しい白昼夢のような一冊でした。
大切なものが大切になるのはいつでしょうか。
なにも大切なものがなかったとして、その人生に意味はないのでしょうか。
交友でも、恋でも、仕事でも、僕らはいやに「大切な」とか「好きな」とか「本当の」といった言葉にこだわっているように思います。
大切な友達だけいればいい。好きな人さえいればいい。本当にやりたいことを仕事にしたらいい。そしてそうでないものには、最初から関わる価値も時間もない、と。
僕もずいぶんこういった言葉に踊らされてきたような気がします。正確には今もですが。
けれどその大切なものは、いつ大切になったのでしょうか。
それに触れる前から大切だったのでしょうか。
それは、人生のある過程で、偶然に、それこそ「なりゆき」のうちに大切になったのではないでしょうか。
ひょんなことから仲良くなって、時間を重ねるうちに恋しくなる。なんの運命も意思もなくても、それらはどこかで大切に変わります。
逆に言えば、今を受け入れず、未来に期待を寄せてばかりいれば、なにも大切にならず、何者にもならないまま、それらは通り過ぎていくのかもしれません。
わりと、難解な小説でした。
誰の現実か、誰の記憶か、誰の夢かもわからないような描写が、継ぎ目もなく流れていって、最後まで読んでもなんの話だったのかよくわかりませんでした。
それでもなにか書きとめたくなりました。つまらなかったなら匙を投げることもできましたが、単に自分の読解力と感性が足りないような気がして、それがなんだか悔しくて、意地の張った感想を絞り出してみた所存です。
なりゆきで出会った言葉と物語に、なにか意味を見つけたくなったのかもしれません。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?