人間はなぜ歌うのか? → 歌いながら狩りをする猿がヒトに進化したから
という仮説を打ち出す本の感想文です。
本書の主張を要約すると、
ほぼ全ての人間が生まれながらに優れた音感を備えている理由は、ご先祖様たちが合唱しながら狩りをするスタイルで生き延びてきたからである。
なぜなら、歌う動物は(鳥やサルなど)たくさんいるが、肉食獣に見つかる恐れがある「陸上で」歌う種はヒトだけだから。つまり、木の上などの安全な場所でしか歌わなかったサルを尻目に「陸上でも歌い続けることで肉食獣とメンチを切り合う道を選んだ集団」こそがヒトに進化した。
人間はスイミーのように群れながら歌うことで、ライオンなどに襲われるリスクを減らし、戦う勇気を鼓舞して、縄張りを広げていった。だから、歌うことが死ぬほど好きな遺伝子が自然選択された。
また、狩りの歌はポリフォニー(それぞれがバラバラの音階を歌う合唱のこと)であったことが、高度な音感を育んだ。なぜポリフォニーが生き残ったかといえば、同じ音階を歌うユニゾンよりも「大人数が歌っているように聴こえる」ため、肉食獣たちを威嚇する力がより強かったから。
どうです?
説得力あるでしょう?
現時点では仮説に過ぎないそうですが、私は本書にメッチャ好意的です。
いろんな疑問が解けてスッキリしました(まだ仮説だけど)。
集団で歌うと楽しいのはなぜか?
他の動物と比べオーバースペックなまでの音感が、いかにヒトの遺伝子に標準装備されたのか?
なぜヒト以外の動物は音楽を嗜まないのか?
このあたりが不思議でしかたなかったからです。
なお、音楽が好きな人には有神論者が多いらしく、よく「音楽は神から与えられたプレゼントだ」みたいな考えてる人を見かけます。
個人的には、その説もキライではありません。
ステキな考え方だし、歌ったり楽器を弾いたりしてると、そんな気分になることも珍しくないからです。強く共感できます。
しかし、だからと言って科学的な(進化論的な)説明を諦めるのは違うと思います。
だってほら、
「人間が生まれ持つ音感はあまりにも高性能過ぎて、進化論的な側面からは説明が難しい」
というダーウィンの時代からのテーゼだって、研究を続ければ解明の糸口が見つかるかもしれないじゃないですか。本書のように。
そういう努力こそが文明を進歩させてきたんです。
なんでもかんでも神様のおかげ、というのも気持ちいいけれど。
その姿勢では何か大事なものを失う気がします。ヨーロッパにおける暗黒の中世のように。
ともかく、音楽を愛する人はとっては必読の一冊だと思います。
冒頭よ要約では割愛した証拠や推測もたくさんあるので、かなり読み応えがあります。オモロイよ。