追憶のミーコ その3
そう。2001年頃。
部屋で執筆をしていた私は、誰かの視線を感じた。
見れば庭から、猫がこちらをじっと見ている。
とても美人さんであった。
私は、「ミーコ」と呼びかけた。
とても自然に、するりと口から出たのだ。
誰でも思いつく、ありふれた名前である。
けれど、彼女にピッタリだと感じたのだ。
いやその時は、彼か彼女か、まだわからなかったはずだ。
だが、どう見ても女性だったのである。
匂い立つものとでも言うのか、
漂っている雰囲気が女性そのものだったのだ。
ミーコは、私の呼びかけにすぐに反応した。
おいでと手招きすると、部屋に入ってきたのである。
余談だが、私は動物と子供に好かれる。
だが、大人には好かれない。
それはこの強面のせいであろうが、
つまりは後付けの学習のためだと考えている。
無垢な子供にはそれがない。
そして動物には、学習能力などを超えた、
なにかのアンテナがあると思っている。
それが共振し、寄ってきてくれるのだろう。
いや、違うか。
人知を超えた無垢な動物が、
猫なのかもしれない。
ともかく、ミーコも私を気に入ってくれたようである。
以来ミーコと呼べば、どこにいても振り向いた。
「なに?」と鳴いてくれて。
けれど、実際の名前はわからない。
どこかの飼い猫なのは確かだが、
その呼び名を知らないのだ。
それにもしかすると、私の部屋だけではなく、
ほうぼうの家にもお邪魔していた猫かもしれない。
そしてその家ごとに、
違う名前をつけられていたのかも。
けれど私には、ほかの名前になど関心がない。
私のもとに来るときは「ミーコ」なのだから。
音の響きもとてもよい。
「ミーコ、こっちにおいで」
その言葉を口にしなくなり、もう20数年が経つ。
今夜は寝る前に呟いてみよう。
きっと夢の中に現れるはずだ。
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