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今宵この曲、私に戻れ

「I've Gotta Be Me」
ニュアンスとしては「私は私であれ」か。
ブロードウェイのミュージカル 「ゴールデンレインボー」に登場した曲である。 1967年にスティーヴ・ローレンスがシングルリリース。しかしヒットせず。その後にサミー・デイヴィス・ジュニアが歌い、ヒット曲となった。


詞の内容は「私は私でなければならない」といったもの。

良くも悪くも
居場所が見つからなかったとしても
私は私でなければならない

まあ、人生の応援歌であろう。
抒情的で、悪くない曲である。

けれど。
この曲がこんな映画に使われるとは、スティーヴもサミーも思ってもいなかっただろう。
しかし、この場面にはこの曲しかない。
2021年公開の「Mr.ノーバディ」(原題「Nobody」)である。

主人公は町工場に勤める冴えない中年男。夫婦仲は冷めているし、息子からも軽視されている。家に強盗が押し入っても、なにも手出しできずに、息子が賊に殴られるのを見ている始末。
けれど男は、そんな「普通の生活」を手に入れたかった。
なぜなら真逆の、普通ではない世界に身を置いていたから。
彼の個人情報は極秘扱いであり、国防省の地下倉庫に「NOBODY(何もない)」と印字された資料だけが残る男なのである。
だが普通の生活で、秘めていた暴力に火が点いた。
いや、そうなることをどこかで求めていた。
男は「私は私でなければならない」と、バスの中で静かに笑むのである。

とにかく見所は沢山あり、観るほどに楽しい。脚本がよくユーモアもあるし、音楽のチョイスもよいし、観るたびにスッキリする。
なんだろう、このカタルシスは。
ともあれテーマは、やはり「私に戻れ」であり「私は私でなければならない」であろう。
お薦めの映画である。

そうそう、この映画には、あの「バック・トゥ・ザ・フューチャー」で「ドク」を演じた、クリストファー・ロイドが出ている。FBIを退職し老人ホームで余生を過ごしている、主人公の父親。けれど悪党退治していた頃が忘れられず、息子ともども復帰するのがまた楽しい。

ラストが意味深だし、こいつは絶対に続編があるはずと調べたら、「Nobody2」が2025年公開とのこと。「ドク」もまた出るらしい。
来年の楽しみが増えた。


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山田深夜
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