今朝の出来事。妖怪好きは必見。
「パパー!
ママがオナラしたよーーー!!!」
息子の声が近所へこだまする。
それも、我が家のベランダから。
なぜこうなった。
遡ること3分前。
私は階段の上から、
寝ぼけまなこで旦那を見送った。
息子達は目覚めたばかりで、
寝室でゴロゴロムニャムニャしている。
旦那がバタンと玄関から出て行き、
私がトイレへ行くと、
長男が「僕もおしっこー」と、
いつものごとくトイレの扉を開けてきた。
(プライベートエリアが存在しない我が家)
(トイレの鍵も10円玉でピッキングされる)
(無法地帯)
そのタイミングで、
お恥ずかしい話だが
私はオナラをかました。
息子はゲラゲラ笑う。
私もゲラゲラ笑う。
ふと、旦那がいないことに気付いた息子は
「あれ?パパは?」
「パパは今、お仕事に行ったよ。」
「…え…?」
私のいってらっしゃいとか、
旦那のいってきますとか、
玄関を出て行く音とか聞いてたでしょ。
と、突っ込みたいが、
マジで聞いてなかったのか
分かっているのに演技しているのかは
神のみぞ知る。
息子の目に、みるみる涙が溜まる。
おいおい、嘘だろ。
1秒前まで私のオナラでゲラゲラ笑ってたやん。
寝起きから、
感情の起伏がマゼラン海峡並みに荒い息子。
「どうしたの?
パパにいってらっしゃいしたかったの?」
「…うん」
息子の頬を
涙の粒が滑り落ちる。
なんと優しい息子だろう…
という気持ちと、
オイオイオイ!
面倒な事になってきたゼッ!!!
という気持ちがせめぎ合う。
(1対9くらいで後者の勝ち)
私は慌ててトイレから出て、
階段の上から玄関に向かって
「パパー!」と叫ぶ。
もちろん返事はない。
「…パパは?」
息子はヒックヒック言い出し、
泣き方レベルが2へとあがる。
やばい…
これで旦那に会えないとなると、
一気に警戒レベルが引き上がるかもしれない…
そうなると、
かなり対応に時間がかかる…
避難勧告も余儀なくされるかもしれない…
私は寝起きボッサボサの頭で
脳内で考えを巡らせる。
後ろではミッションインポッシブルが流れ始める。
…まだ車のエンジンの音がしていない…
という事は、
旦那はまだ出発していないかもしれない…
泣いている息子をトイレ前に放置し、
ベランダのある部屋へダッシュし、
車があるか確認へと急ぐ。
息子の泣き声が少し強くなる。
私へのアピールなのは一目瞭然だが、
色々な判断に遅れると、
取り返しがつかなくなる。
息子の涙が決壊すると、
朝ごはんも、
着替えも、
トイレも、
何もかもがうまくいかなくなる。
最終的に私の機嫌も崩壊して、
最悪の事態を招く事が容易に予想される。
その事態だけは避けたい!!!
カーテンの隙間から下を覗くと、
車がとまっていて、
エンジンがかかる音がした。
慌てふためくオキヌケババア。
『オキヌケババア』
【起キ抜ケ婆ア】
妖怪の一種。
江戸時代初期の文献にも記載がある。
寝起き丸出しの浮腫んだ顔にボサボサな頭、
ヨレヨレのパジャマが特徴。
普段は人目につかないようにひっそりと身を隠しており、布団に包まって暮らしている。
人里に現れる際はオキヌケババアだと云う事を隠すために、顔を洗ったり、髪を結ったり、洋服に着替えたりしている。
日光が嫌い。
外は小雨が降り始め、
登校中の子ども達が傘をさしながら歩いている。
うわぁ…最悪だ。
こんな状態で人目に触れたくないんだけど…
そんな心を急かすように、
息子の泣き声が強くなる。
登校中の子ども達には見つかりたくないが、
旦那には気付いて欲しい…!
…仕方あるまい!!
オキヌケババアは
天狗のごとくベランダへヒラリと舞い降り、
車の運転席に向かって
ブンブンと手を振る。
旦那はこちらに気付く気配が無い。
勘の悪い旦那に
イライラするオキヌケババア。
息子の泣き声が
警戒レベル3へと引き上がる。
仕方ない…!!!
「パパーーー!!!」
運転席に届くか届かないか程度の
声のボリュームで呼びかける。
オキヌケババアの匠の技が光る。
旦那がこちらへ気付き、
窓をウィ〜〜ンと開け、
ニコニコしながら手を振る。
のほほんとしてる場合じゃないのよ!
こっちは大変なのよ!
「息子がいってらっしゃいしたいって!」
必要最低限の伝達事項を述べ、
ダッシュでトイレ前に戻り、
グズグズの息子を抱きかかえ
小雨降るベランダへと再び飛び出す。
ここまでの所要時間、
旦那が家を出てからおよそ3分。
(内容の濃い朝)
(相変わらずの文章量)
すると息子は、
お前ほんとに寝起きなんか?
という声量で、
「パパーーー!!!
ママがオナラしたよーーー!!!」
と、叫ぶ。
…嘘やろ?
…いってらっしゃいじゃなくて?
…オナラの報告すんの?
…このタイミングで?
旦那は笑っている。
息子も笑っている。
「ママがねー!
オナラしたよー!!」(2回目)
旦那は笑っている。
息子も笑っている。
オキヌケババアも笑っている。
しかし笑顔の裏で
こっそりと頬を涙で濡らす。
小雨のせいで
その涙は誰にも気付かれない。
登校中の子ども達が
傘の隙間からベランダを眺めたのかは知らない。
辺りへこだました息子の声が
ご近所さんの耳にも届いたのかは知らない。
オキヌケババアは小雨に打たれながら
ゆっくりと
その姿を消していった。
それからというもの、
オキヌケババアを見た者は誰もいない。
もしかしたら、
あなたの住んでいる家の近くにも
いや、
あなたの住んでいる家にも
オキヌケババアは
ひっそりと生きているかもしれない。
ー完ー
(この物語はノンフィクションです)
(驚くタイミングで赤っ恥をかかされる子育てという修行)
(これだから育児はやめられない!)