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#小説
バベる 新屋喜奈の場合 ⑤
待ち合わせの場所まで歩いているとポツポツと雨が降り始めて来た。街に灯り始めた灯りが雨をよりくっきりとわたしに見せてくれる。
傘が必要という程は降っていない。天気予報っていうのはあてになるんだかならないんだか。今日は曇りって予報だったのに。
今日の予定にしたって全く乗り気なワケではないもの。仕方ない。そう。仕方ない事なんだよ。
生きていたら当然だけど生きていかなきゃいけない。
それは食べる事だったり
バベる 新屋 喜奈の場合 ④
蔵木さんが出来上がったメニューを運んで来てくれた。
丁寧に造られているのがなんとなく分かる。
紗奈が口を開く。
「キレイだね。すごく」
とりあえずスマホで写真を撮りながら由奈がスマホ越しにえーやばいんだけどーと呟くのが聞こえた。
わたしは初めて来たワケではないので知ってはいたけどやはりキレイに造られている。
「おまちどう様。ゆっくりしていってね」
蔵木さんはそう言うとカウンターの方へ歩いて行った。
バベる 新屋 喜奈の場合 ③
お目当てのカフェ。トライデント。
エレベーターの扉が開くとすぐに店内になっている。赤い絨毯がひかれていてカフェというより喫茶店の趣きだ。
コーヒーの香りに混じって少しタバコの香りがする。世の中の人が言うほどあたしはこの香りが嫌いじゃない。大人の香りって感じがするしそれなりにタバコの香りがする人は素敵だと思う。
「いらっしゃいませ。どちらの席でもどうぞ」
落ち着いた雰囲気のマスターが声をかけてきた。
バベる 新屋 喜奈の場合 ②
授業も終わり放課後になった。
ようやくわたし達が大人の手を少し離れて自分達だけになれる時間。
昼と夜のほんの一瞬だけ訪れる夕方のような時間。
クラスの男子達は駅前に行こうだとか彼女の誕生日が近いだとかそんな話題で盛り上がっている。
わたしは19時から予定があるがそれまではフリーだ。昼食の時に話したカフェに由奈と紗奈と行く事にした。
「喜奈りーぬー。カフェの時間だよー」
「分かってるよ。19時
バベる 新屋 喜奈の場合 ①
多分だけどさ。きっとだけどさ。ううん。絶対だと思うんだけどさ。
人間って他人からの期待に応えられる様には創られてないと思うんだよね。
だって自分が想い描いた事すら叶えられるか分からないワケだし。
夢とか希望とかって自分が自分に課した期待なワケでしょ。それすら叶えられないのに他人からの期待に応えられる程の余裕は無いよね。
自分の期待に応えられないのにそれは絶対だと思う。
新屋 喜奈(にいや きな)
BABEL法施行におけるスピーチより抜粋
__________であるため。◯月◯日よりBABELを各都道府県で稼働させていきます。
私は数年前に娘を殺されました。殺された理由が誰でも良かったという身勝手な理由によるものでした。その1年後。息子が殺人を犯しました。被害者遺族と加害者家族に同時になってしまったのです。色々な気持ちの葛藤がありました。私は普通でありたい。普通の特別さ。普通の難しさ。それを理解した上で普通であろうとして生きて来ま
バベる 弓削 空の場合④
「さてと」
彼女の。あっ。元彼女の右手を優しく握った俺はコンテンポラリー?っていうのか?ダンスを踊る。ダンスなんて踊った事も習った事も無いけど。元彼女の右手を繋ぐといてもたってもいられなくなって踊ってしまうんだ。高揚感。そうだね。高揚感。元彼女が好きだった曲を頭の中で流しながら。母親に気付かれない様に静かにでも激しく。これが俺の儀式なんだ。右手をどうしたかって?そうだよ?切り落とした。彼女はどうし
バベる 弓削 空の場合 ③
「さてと」
美味しいラーメンを堪能して家に帰って来た。車のライトが家の表札をわずかに照らし出した。あらかじめ出しておいた鍵を慣れた手つきで鍵穴に滑り込ませた。当たり前だけど俺は帰って来たら先ず靴を脱ぐ。靴を脱いで最初に向かうは洗面所だ。そう。もちろん手を洗う為だ。洗面台の鏡に映る自分をなんとなく見る。自分が好きなワケじゃあないけど。皆そうだろう。うん。しっかり疲れた顔をしてやがる。彼女とお別れして