不登校の子どもにとってネット空間だけが本当の自分でいれる場所?それでも「普通になりたい」と願う気持ちとは
中学入学以降、学校に行けなくなっていった長女クラレ。
もともと友達付き合いが苦手なクラレが一番頼りにしていたはずの「優しい大好きな学校の先生」は、中学校では「怖くて大嫌いな先生」になってしまった。
朝になると腹痛を起こし、トイレから出れなくなってしまうほどストレスを抱えてしまったクラレは、遅刻や欠席が増えていき、勉強もどんどんと遅れていった。
そんなクラレに学校以外での「居場所」を見つける為、クラレが気に入りそうな『イケメン講師』の居る個別指導塾を提案してみたが、張り切って行ったのは最初のうちだけで、3ヶ月も経たないうちに「行きたくない」と辞めてしまった。
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ネット空間だけが本当の自分を出せる場所
クラレは中学2年生になった。
イケメン講師のいる個別指導塾も1年生の3学期が終わる前に辞めてしまっていたし、その後も勉強は全くしないので3ヶ月間の塾の効果も皆無だ。
学年が上がり、担任の先生が変わることで、1年生の時よりもクラレが心を開ける先生にあたるんじゃないかと期待していたが、2年生の担任についての評価も「最悪。1年の時より悪い。キモイ。嫌い。」だった。
そもそも学校に好きな先生が一人も居ないのでしょうがないのだが、新しく赴任してくる先生に期待していたものの、残念なことにクラレが好きになれそうな先生は来なかった。
唯一、クラレが学校で過ごす中でマシだと思える時間に「週1回のスクールカウンセリング」と「吹奏楽部の活動」があったが、スクールカウンセリングは週に1回だけだし、部活では同じ楽器(ユーフォニアム)を教えてもらっている先輩以外とは交友関係が深まっていない様子で、「部活動」は授業よりはマシなだけで、そこまで打ち込めるものでもなさそうだった。
この頃、クラレが1日の生活の中で一番好きな時間は『スマホでオープンチャットに入り、自分の好きなキャラクターになりきって、現実の自分を知らない人同士でやりとりすること』だった。
「オープンチャットの中でなら、誰に気遣うこともなく、自分の思うままに自由に話したり、ケンカもしたりできるから楽しい」
「ママに話せないことでも、ここでなら話せるねん」
と言っていた。
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スマホ使用制限の新ルール
中学2年生への進級前に、スマホの使用制限についてもクラレと話し合って、家での新しいスマホルールもつくった。
中1の時にルール化していた定期テストの点数での制限は、クラレには無意味であることが分かったので撤廃した。
その代わりに新しく設けたスマホルールでは
●学校に朝から行けた日は、次の日の朝まで無制限に使える
●昼までに学校に行けば、夜23時まで使用可能
●6時間目までに学校に行けば、21時まで使用可能
●学校を休んだら、次の日以降に登校するまで使用禁止(ただし自分で学校に休みの連絡を入れれば1時間使用可能)
スマホルールの変更は、クラレにとって「ネットの世界」が居心地のいい場所であるならば、他人とのコミュニケーションがとれる場所として、ネットに繋がれていた方がいいのではいか?と思ったからだった。
ただ、ネットの世界だけで生きていくことは(今はまだ)できないので、やはり現実社会(学校)との繋がりは無くしてはいけないとも思っていた。
だから、少しでいいから学校には行ってもらうためのルールづくりだった。
以前のルールでは、定期テストで平均点以上取らなければスマホ使用時間を延ばすこができなかったが、クラレは勉強するどころか、どうにかズルをしてスマホを使えるようにすることばかりを考える結果となり、お互いにストレスが積み重なるだけだった。
なので学校を休みさえしなければスマホを数時間は使えるようにルールを変えることにした。
他にも、学校は休むけれど夕食を作るなど、家の仕事をした場合も報酬としてスマホが使えるなど、いろいろと試行錯誤をしてみた。
クラレもこれらのルールには納得してくれ、2年生に進級する前の春休みから新しいルールで始めていた。
このルールにしてから、クラレは6時間目の終了10分前に登校することもあるが、それでも自分で学校に行こうとしてくれるようにはなった。
どうしても行けない時は、学校を休むこともあったが、そんな日はちゃんと自分で学校に電話したり、スマホは使わないでテレビを見たり、絵を描いたりして過ごすようになった。
2年生になってからは、そんな日々が続いていた。
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普通になりたい。病院に行きたい。
中学2年生の6月の朝。
クラレは再び、布団に寝たまま貝のように固まって動かなかった。
目は覚めていて、意識はあるのだが、視線がどこを見ているか分からない。
声をかけてもしゃべらないし、何をしても反応がない。
定期的にクラレはこのような状態になる。
そんな時は、しばらくしてから紙と鉛筆を渡して、筆談形式で話をする。
紙に文字で思っていることを書いていくうちに、少しずつ声もでるようになってくる。
そしてクラレがポツリと話した。
「普通になりたい・・・
普通に学校に行って、みんながやってる様にしたい・・・」
そんなことを言ったのは、この時が初めてだった。
そして、こうも言った。
「病院に行ってみたい」
思わぬ言葉が出たことに、驚いた。
この「病院」というのは、いわゆるいつも行っているような「小児科」的な病院のことではないだろう。
不登校や精神面に問題を抱えている子ども達が行く病院のことだと直観した。
でも、そういった病院のことを、この時点の私はまだなにも調べていなく、クラレが病院にかかるべきなのかも分からなくて、正直焦ってしまった。
ただ、クラレが病院に行くことを望んでいるのであれば、行くべきなのだろうと思ったし、現状を変えるチャンスになるのではないか、とも思った。
「ごめん。クラレが行きたいような病院のこと、ママ、よく知らないから、これから調べるわ。すぐには行けないかもしれないけど、病院を探して予約するから、待ってて。」
「・・・うん」
こうしてクラレは児童精神科の思春期外来へと繋がることになる。