言葉の宝箱 1115【滑稽で傍迷惑でみっともないことの先にだけ、つながっている世界を知ることで、人はずっと生きやすくなる】
『金曜日の本屋さん』名取佐和子(ハルキ文庫2016/8/18)
大学生の倉井史弥は病床の父に以前借りた本を返すように言われたが、
失くしてしまっていた。
ある日、「北関東の小さな駅の中にある本屋は“読みたい本が見つかる本屋"らしい」というネット上の噂を目にし、
藁にもすがる思いで、噂の駅ナカ書店『金曜堂』を訪ねる
彼を出迎えたのは底抜けに明るい笑顔の女店長南槇乃。
倉井は南に一目惚れして……。
北関東にある野原高校の同好会〈金曜日の読書会〉時代からの同級生で、同僚で、大事な友達でもある、店長の南槇乃、喫茶スペース担当の栖川鉱、オーナーの和久靖幸の3人が運営している駅ナカ書店『金曜堂』での、人と本との運命的な出会いを描いた『読みたい本なんか見つからない』『マーロウにはまだ早すぎる』『僕のモモ、君のモモ』『野原町綺譚』4話連作短編集。2話以降、倉井史弥がアルバイトとして加わる。
・読書は究極の個人体験です。
人によって響く部分が違うのは、当たり前なのです。
作者の思いやテーマを汲み取る努力を、
読者がしなければならない義理はありません。好きに読めばいいんです。
感想を誰かと同じになんかしなくていいんです P46
・病気になったおかげでやさしくされるくらいなら、
ひと思いに死んだほうがましだ。
死にかけたおかげで愛されるくらいなら、
いっそ象のようにこっそり姿を消して独りで死んでやる P63
・そんなに誰かの視線ばかり気にしていたら、
自分の視線がなくなっちゃうよ。
人間はみんな違うんだから、変人で当たり前、
空気が読めなくて上等、ってひらくなおっちゃえば? P93
・脅しですか?(略)
『交渉』って言ってほしいわね P95
・本は売れるんじゃなくて、売っていくんです、書店員が P103
・自分の弱い部分ときちんと向き合うことで、強くなったんだよね P125
当人同士にしかつけられないエンドマークって、ありますから P130
・《彼の考えでは、世の中の不幸というものはすべて、
みんながやたらとうそつくことから生まれている、
それもわざとついたうそばかりではない、せっかちすぎたり、
正しくものを見きわめずにうっかり口にしたりするうそのせいなのだ》P149
・「友達がいる」と自信を持って口に出せる人への羨望と、
その「友達」が自分ではないことの悲しみ P162
・滑稽で傍迷惑でみっともないことの先にだけ、
つながっている世界があるなんて。
その世界を知ることで、人はずっと生きやすくなるなんて P207
・政治や宗教の話を持ち出すのは危険だって(略)
あたりさわりのない関係にひびが入りやすいからだろう P215
・個人の自己満足で終わるのは、仕事じゃないですから P234
・誰かについて知ることが、こんなにも痛みを伴うのは、
その誰かを僕が好きだからだ P250