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言葉の宝箱 1223【健康とは病気でないとか弱っていないということではなく、肉体的にも精神的にも、そして社会的にもすべてが満たされた状態にあることをいいます。誰一人とりこぼすことなく、肉体的、精神的なケアをする。それが病院と医師の使命】

『奇跡を蒔くひと』五十嵐貴久(光文社2022/9/30)

二〇二〇年の九月「四億の赤字を抱えた三重県の小さな市民病院の再建物語」を書くつもりで、三重県志摩市でひと月暮らし、志摩市民病院の実態を取材した。毎日病院に通い、医師、看護師はもちろん、地域連携室、理学療法士、介護施設、ボランティア、市役所の担当者や研修生、その他大勢の方に話を聞いた。取材ノートには百人以上の名前が残っている。医療現場を支えている方々の言葉は重く、小説の内容は単なる病院再生サクセスストーリーではなく、医療行政の問題にまで広がっていった。素人が何を言うかと思われるかもしれないが、素人だからこそおかしな現実に気づくことがあるのは、寓話「裸の王様」でもおなじみだろう。どうやらこの国の偉い人たちは「生産性のない高齢者」を切り捨て、命の選別を始めているようで、資料を読んでいると「生産性のない高齢者」代表の私としては、背筋が凍るほどの恐怖を感じたものである。ディストピア小説が現実になる瞬間に、私たちは立ち会っているらしい。リアル高齢者である私の不安は多くの方々にも共通するはずで(何しろ高齢者が三分の一を超える現実が日本という国の実態なのだ)、その辺りを理解した上でお読みいただきたいと願っている。そんな絶望の中に、ひと筋の光があるとすれば、それは医療現場で働く方々の「誰ひとりとして取りこぼさない」という意志で、私は志摩で「奇跡という名の光」をはっきりと見た。本書では、閉塞された現実を打破するため、懸命に努力を続ける医師とスタッフたちの戦いを描いた。終わりのない戦いに身を投じ、今も最前線で人々の命を守っている方々に、心からの感謝と敬意を捧げたい。(2022/10/04 著者新刊エッセイ、刊行に寄せて)
 
・会話そのものがリハビリになる。体ではなく、心のリハビリだ。
一日中誰とも話さない独居老人は珍しくない。
リハビリに通えば、理学療法士、そして他の患者と話す機会が増える。
それも治療の一環だ P33

・嫁に行ったら、娘は他人よ P37

・余計なことは言わない、でしゃばらない。
地方公務員はその二つさえ守っていれば、
何事もなく定年まで働けます P50

・歳を取るとわかることがあります(略)
現場を支えているのは、仕事に誇りを持つプロですよ P64

・お金がないと困るよね(略)
でも、お金のためだけに働くのってつまんなくない? P91

・当たり前のことを当たり前にする重要さを、誰もが忘れている(略)
経験が浅い方が間違いに気づくこともある P113

・やりたいか、やりたくないかだ。
成功するってわかっていたら、誰でもやるさ。
どうなるかわからないから面白いんだ P147

・問題があるなら、解決策をみんなで考えればいいじゃないですか。
どうせできないとか、やってもしょうがないとか、
最初から諦めるのは止めましょう P151

・人間は誰でも社会と接していたいと望んでいる。
だが、入院患者はそれを口に出せない。
わがままと言われるだろうし、それ以前に誰もが人生を諦めていた P159

・病は気からというが、
患者の側に治りたいという強い意志がなければ治療は長引く(略)
孤独こそ患者の最大の敵だ P159

・病気や怪我の治療はできるが、心のケアは難しい P176

・本音をすべて吐き出し、自分と向き合えた P178

・やらない言い訳って無限ですよね P183

・変わらないんじゃありません(略)
変えるんです P184

・相談したり、助けてくださいって言えるだけでもずいぶん違うと思うな。一人で抱え込むと時間ばかりかかるし、ストレスも溜まるでしょ? P223

・誰でも病気や怪我、老いは避けられません。
十分な医療体制が整っていない町に暮らすことはできませんから、
人は離れていきます。
残された者たちの生活が苦しくなるのは当たり前ですね。
医療と教育、
つまり病院と学校さえあれば、どこでも人は暮らしていけます P250

・健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、
肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、
すべてが満たされた状態にあることをいいます(略)
誰一人とりこぼすことなく、肉体的、精神的なケアをする。
それが病院と医師の使命だ P277

・勝ち目がまったくない戦いには、ひとつだけいいことがある。
負けても失うものがないから、何でもできる P364


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