言葉の宝箱 0450【今の自分というのは、これまでの過去を全部ひっくるめた結果なのだ】
担任先生の心遣いがあって得られた帰る場所、
そこでの小学五年生の夏休みを描いた長編。
「ぼくらは日々なにかしらの選択をして生きている(略)
人生は劇的ではない。ぼくはこれからも生きていく」と結ばれている。
野間児童文学賞&坪田譲治文学賞作。
・おじいさんと一緒に過ごした日々は
今のぼくにとっての唯一無二の帰る場所だ。
だれもが子どもの頃に、あたりまえに過した安心できる時間。
そんな時がぼくにもあったんだ、という自信が、
きっとこれから先のぼくを勇気づけてくれるはずだ。
ぼくは時おり、あの頃のことを丁寧に思い出す。
降りはじめた雨がしみこんでゆくときの土の匂い。
記憶は次から次へとカードがめくられるようにわいてきて、
あの、はじまりの夏を思い出せてくれる。
ぼくはいつだってあの日に戻れる P12
・「あなたの人生のターニングポイントはいつですか」と聞かれたら、
ぼくはまずその日のことを答えるだろう。はじめての経験。
まさに、社会へと小さな一歩を踏み出した記念すべき日だ。
その年はいろいろなことがあった。
あわただしく、濃密で、
そして、ぼくはちっぽけな五年生の子どもだった P21
・人生は劇的ではないとぼくは思う。
父親が生きていたら、
まったくちがう人生だっただろうと思ったことは何度もあるけれど、
そんなことを言ったらきりがない。
ぼくらは日々なにかしらの選択をして生きている。
五年生のあのとき、母さんについて一緒に引っ越していたら、
ぼくの人生はまるでちがったものになっていただろう。
でも結局、
今の自分というのは、これまでの過去を全部ひっくるめた結果なのだ。
いろんなことがあって、これからもあるだろうけど、
どんなことも静かに受け入れていくのがぼくの人生での日常だ。
今でも、あの夏のことをふいに思い出すことがある(略)
人生は劇的ではない。ぼくはこれからも生きていく P256