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高畑勲が作った宮沢賢治アニメを知ってますか?

今回は、宮沢賢治のアニメ化作品を幾つかご紹介していきたい。

賢治アニメと言えば、誰しも真っ先に思い浮かべるのが「銀河鉄道の夜」だと思う。

「銀河鉄道の夜」(1985年)監督/杉井ギサブロー

毎日映画コンクール大藤信郎賞受賞

まぁ、これは不朽の名作だわな。

あの富野由悠季に、「『銀河鉄道の夜』見てなかったら、アニメを語っちゃいけません」とまで言わせたほどの作品である。
そして、あの淀川長治が「オールタイムベストランキング」で本作を2位に入れていたという。
それほどの大傑作だよ。

ただ、こればかりが突出して有名で、実はそれ以外の賢治アニメの注目度はさほどでもなかったりするんだよね・・。
いや、はっきり言いますけど、

「銀河鉄道の夜」のクオリティに匹敵する賢治アニメは、他にも複数ありますから。


今回は、そういう隠れ名作的なものを皆さんにも知っていただきたい。

まずは、これからご紹介していこう。

「セロ弾きのゴーシュ」(1982年)監督/高畑勲

毎日映画コンクール大藤信郎賞受賞

そう、あの高畑勲が賢治アニメを手掛けてたんですよ。
まだジブリ設立前のことで、どうやらこれ、自主制作だったらしい。
そうか、自主制作してまで作りたかったか・・。

しかしインディーズといっても、あの高畑さんだからね。
がっつりとコダワリの画作りだし、音もNHK交響楽団とか使ってるし。
じゃ、とりあえず本編を見ていただきましょう↓↓

素晴らしい!
文句なし!


宮沢賢治というのは学校の国語の授業でも取り扱った類いであり、そういう記憶から何となくアレルギーがある人も多いかもしれん。
でもさ、こうしてアニメで見ると全然イケるでしょ?
・・というか、賢治作品ほどアニメとの相性がいい日本文学も他にはないんじゃないかな、と思えるほど。

で、そのアニメ化された作品は、どれもが例外なく傑作だということが興味深い。
・・うん、これほどアニメ化で「ハズレ」が出ない作家も正直珍しいわけで、何でだろう?と個人的には不思議に思う。
だって賢治は、絶対にメディアミックスとか意識して書いてたわけがないんだから。
なんせ、その生涯は1896年~1933年。
日本にはテレビもアニメもない時代を生きていた人である。
まさか、自身の作品が後世にアニメ化されるなど、まるでイメージすらできなかっただろう。

というより、彼は37歳の若さで亡くなってるわけで、生前の彼は一貫して「売れない作家」でした。
彼の著作が評価されたのは、主に死後からのことである。
何とも不憫な人生やなぁ・・。

で、そういう賢治の不憫な生涯を投影したと思われる作品が、これである。

「グスコーブドリの伝記」(1994年)監督/中村隆太郎

「グスコーブドリ」は、2012年制作の杉井ギサブロー版の方が有名だろうが、今回は原作に忠実な中村隆太郎版の方を推します。
・・あ、中村さんというのは「serial experiments lain」の監督さんね。

じゃ、これも本編を見ていただきましょう。

いやいや、マジで重いよなぁ・・。


まだ「セロ弾きのゴーシュ」は児童文学という感じがするけど、「グスコーブドリ」は子供向けというより、明らかにオトナ向けの作風である。
人生の過酷さ、理不尽さをまざまざと見せつけられて、そんな苦境の中でも<善>の心を失わない主人公がとにかく凄いんだが、でも物語はそんな彼が報われるハッピーエンドというわけでもない。
この主人公は、「銀河鉄道」のカンパネルラとほぼ同タイプだね。
賢治は、「損をする生き方」をするキャラを描くのが好きなようだ。

なお、中村監督はかなりの賢治ファンなのか、翌年、彼の短編3本を集めたオムニバス映画「賢治のトランク」にも監督として参加している。
1本目「氷河ねずみの毛皮」2本目「猫の事務所」3本目「双子の星」。
中村さんの監督作品は、3本目ね。
じゃ、これも本編を見て下さい。

「賢治のトランク」(1995年)オムニバス


なんつーか、やっぱ賢治って「損をする生き方」を描くタイプだわ。
確か、「雨ニモ負ケズ」の詩の内容もそんな感じだったよね?

「欲はなく、決して怒らず、いつも静かに笑っている」

「あらゆることを、自分を勘定に入れずに、よく見聞きし分かり、
そして忘れず」

「みんなにでくのぼうと呼ばれ、褒められもせず、苦にもされず、
そういう者に私はなりたい」

聖人かよ・・。


こういう賢治の独特な人生哲学は一体どこから来てるのか?
それを如実に描いてくれたのが、この作品である↓↓

「イーハトーブ幻想~KENJIの春~」(1997年)監督/河森正治

放送文化基金賞受賞

河森正治さんが監督というのが意外でしょ?
どう考えても「マクロス」とは繋がらないもんな。
だけどね、河森さんは監督だけじゃなく本作は脚本まで手掛けてるわけで、実は超本気モードである。
ついでにいうとこれ、

数ある河森作品の中でも、生涯最高傑作という呼び声が高いです。


いや、マジですから。

というかさ、
・杉井ギサブロー
・高畑勲
・中村隆太郎
・河森正治

といった感じで、一流どころがこぞって賢治作品をアニメ化したがるのって実に面白い現象だと思わない?
多分、賢治の作品には、クリエイターの創作意欲を刺激する何かがあるんだろう。

「イーハトーブ幻想~KENJIの春~」キャラデザ/作画監督・岸田隆宏

でさ、これって作画スタッフがまた異様に豪華なのよ。

・岸田隆宏
・松本憲生
・堀内博之
・板野一郎
・黄瀬和哉
・中澤一登
・前田真宏
・大橋学etc


画には様々な趣向が施されていて、<アニメーション>として見ても非常に面白いですよ。
じゃ、本編をご覧いただきましょう。

見てお分かりいただけたと思うが、これはほぼ賢治の自伝的内容である。

この作品を見た後に「グスコーブドリ」を見ると、また一層心にくるものがある。
賢治って、現実に妹さんを亡くしていたんだね・・。
「グスコーブドリ」における主人公の妹へのやたら強い執着は、つまりそういうことですわ。
なんか彼って、辛いことばかりの人生じゃないか・・?

じゃ最後は、賢治作品の中でも最も有名な作品のひとつ、「注文の多い料理店」をご紹介しておきましょう。

「注文の多い料理店」(1991年)監督/岡本忠成

毎日映画コンクール大藤信郎賞
文化庁優秀映画作品賞
日本映画ペンクラブ推薦
広島国際アニメーションフェスティバル部門第2位
教育映画祭最優秀作品賞・文部大臣賞
キネマ旬報ベスト・テン第3位

これまた、結構な名作なんだよね。
岡本忠成さんという人はあまり知らん人も多いと思うが、実はこの人、あの高畑勲が尊敬してたというほどの大御所なのよ。
確か、大藤信郎賞の史上最多受賞者はこの人だったと思う。

基本はストップモーションアニメ作家なんだが、2Dアニメへの挑戦として制作したのがこの「注文の多い料理店」である。
ただ、岡本さんは制作の途中で肝臓癌を発症し、結局は未完のまま逝かれたんだよね・・。
で、岡本さんの遺志を継ぎ、この未完の遺作を最後まで完成させてくれたのが、これまた超大物、川本喜八郎さん。
この岡本⇒川本という大御所から大御所のリレーって、なんか凄すぎるんだけどさ・・。

じゃ、本編を見ていただきましょう。

うっわ~、これは凄い・・。


というかさ、賢治も冥土でこれ見て喜んでると思うわ~。
彼は生涯ずっと不幸続きだったけど、でも今じゃ、各クリエイターたちからの愛され方がホント尋常じゃないですよ。
私の知る限りでは、<アニメ部門愛され度日本一>だといっていい作家じゃないかと。
ある意味で、報われた人生である。

その圧倒的な<善>の思想といい、死んでからの圧倒的な影響力といい、

多分賢治って、日本のイエスキリストだよね。

日本人の聖書として、賢治全集とか読みたくなったでしょ?

この人の作品って、やっぱりなんか深いんですよ。
今回ご紹介した幾つかのアニメ作品も、できれば視聴を1回で済ませずに、ぜひ繰り返し見ていってほしい。
各クリエイターたちも、こと賢治アニメを作るにあたっては妥協を許さず、めっちゃチカラ入れてるからね。
いずれもが、力作揃いである。

あ、くれぐれも、大本命「銀河鉄道の夜」もお忘れないように。
あと、できれば「輪るピングドラム」も併せて見ていただければ、一層いいのかもしれません。


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