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「監督不行届」を見て、庵野秀明という男を知ろう!

今回は、FROGMAN制作のショートアニメ「監督不行届」を取り上げようと思う。
FROGMAN、「鷹の爪団」とかのフラッシュアニメを作ってる人だね。
で、原作は安野モヨコさんの同タイトルの漫画で、これはかなり有名だから皆さんもご存じだろうが、安野先生の旦那様である庵野秀明の「観察日記」とでもいうべき、ノンフィクション系の作品である。

「監督不行届」(2014年)

これは、アニメファンなら必見の作品だろう。
まだ未見という方がいらしたら、一番手っ取り早いのはYouTubeで「Kantoku Fuyuki Todoki」で検索し、全13話をまとめたイッキ見バージョン(といってもショートアニメゆえ30分程度)を見るのをお薦めします。

さて、これを見るにはまず、原作者の安野先生のことを押さえておく必要があるわけです。
この先生って、思えば結構ヒット作多いよね。

ノイタミナ作品「働きマン」(2006年) 後に菅野美穂主演で実写化もされたっけ・・
実写映画化「さくらん」(2007年) かなりヒットしたと記憶する

<賞歴>

・第29回講談社漫画賞児童部門賞受賞
・第23回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞受賞

一応、漫画界では「大御所」といってもいい存在だと思う。

彼女は1971年生まれだから夫の庵野さんよりひと回りほど下の世代なわけで、いうなれば「80年代サブカル(俗にいう『宝島』カルチャー)」の洗礼を受けて育った人なのよ。
そこは、「70年代サブカル(『円谷プロ』カルチャー)」の洗礼を受けてる庵野さんとは少しギャップがあるんだよね。
ぶっちゃけ、「80年代サブカル」組はやや尖ったタイプが多い。
その価値観としては、どっちかというと

アニメ/特撮<<文学/音楽/ファッション


だと思う。
率直にいうと、「オタクを恥ずかしいと思う」「オシャレでありたい」思想のピーク世代かも。
なんせ、山本耀司(ワイズ)とか川久保玲(コムデギャルソン)とかの全盛に出会っちゃった世代だもん。

庵野氏と出会った頃の安野先生
「後ハッピーマニア」
あ、これは別に庵野さんがモデルじゃないと思いますよ、多分w

で、安野先生はどうやらレジェンド岡崎京子のお弟子さんとでもいうべき系譜の人らしく、その画風もいわゆる「少女漫画」とは全く異なるオシャレ系なんですよ。
その作家性も岡崎先生の影響か、文学性みたいなものがベースになってると思うなぁ・・。

・・で、これだけ「オシャレ路線」を極めてきた安野先生が、庵野さんとの結婚を機にオタクに「堕落」したことをカミングアウトしちゃった私小説的漫画、それがこの「監督不行届」という作品なんです。
あのオシャレな安野先生が、この作品ではこんな姿↓↓に・・(涙)

左が安野先生、右が庵野監督

なぜか一人称が「わたし」ではなく「ロンパース」で、そのへんの世界観がよく分からん(笑)。
この極端にデフォルメされたキャラ、おそらく私小説型の漫画で大ヒットを飛ばした西原理恵子先生の影響は少なからずあるだろう。

「毎日かあさん」で描かれた西原先生と元旦那
実際の西原先生と元旦那

作家特有の「照れ隠し」なのか、「自分」を描く時はどうしてもデフォルメしちゃうものなのかもしれないね・・。

じゃ、前置きはこのぐらいにしといて、そろそろ作品の方に入りましょうか。

ネタバレ全開でいくので、未見の方はご遠慮ください。


さて、まずcvのことなんだけど、これが
安野先生=林原めぐみ(声優部門年収ダントツ1位)
庵野監督=山寺宏一(プロによる投票の「声優総選挙」1位)
なんですわ。
この「声優界のツートップ」揃い踏みというのは、低予算系FROGMANだと普通あり得ないキャスティングなんだけど、どうやらこれ、庵野監督直々の指名だったみたいだね。
・・で、さすがは大御所のおふたり、その期待に応え、めっちゃ面白い演技を見せてくれている。
特に山寺さんの演技は完全に「庵野さんのモノマネ」であり、いつもの山寺ボイスは全く原型をとどめてないし(笑)。

山寺さんと林原さん、このおふたりの共演は今まで数知れずあり、本作でもアウンの呼吸だったね

で、肝心の物語の方なんだけど、これをひと言で簡単に表すと

庵野監督をオシャレにしたい安野先生
vs
安野先生をオタクにしたい庵野監督


そういう「戦争」なんですよ。
おふたりとも同じクリエイターとはいえ、そのバックボーンは前述の通りに実は「水と油」、とても相性いいとは思えない。
結婚直後、安野先生が
私にオタクの嫁が務まるだろうか?『イデオン』見たことないのに・・」と葛藤をするシーンがあるんだが、一方の庵野さん側は嫁をオタク化する気マンマンで、さっそく
・伝説巨神イデオン
・パンダコパンダ
・宇宙戦艦ヤマト
のDVDを嫁に渡し、「一生かけてオタク教育を施す」と宣言。

・・そうか、「オタク教育」の第一段階は「イデオン」「パンダコパンダ」「ヤマト」というのが庵野式カリキュラムなのか。
あと、「まずは諸星大二郎全制覇!」とも言ってた。

諸星先生は、このアニメのエンドカードを描いてくれたみたいで、庵野さん喜んだと思う

で、安野先生は、この流れで作中に
相手は『日本のオタク四天王』と呼ばれるオトコ・・
と呟くシーンがあるんだわ。

ここで「オタク四天王」って何ぞや?と思って調べたら
・庵野秀明
・岡田斗司夫
・唐沢俊一(唐沢なをきの実兄)
・米沢嘉博(コミケ創設者のひとり)
というのが四天王らしい。
しかしこの4名(ほぼ同世代)のうち2名が既に故人であり、オタク=早逝とも解釈できるわけよ。

でさ、この「監督不行届」見てると、そのへんのニュアンスが少し分からんでもないんだわ。
オタクは、とにかく不摂生である。
事実、庵野さんのこれまでの生活は

・肉、魚を一切食べない
・主食は、スナック等のお菓子
・風呂は1か月ほど入らずとも平気(1年入らなかったことも)
・服や下着は一切洗濯せず、汚れの限界がきたら捨てる


というものだったらしい。

庵野監督いわく、お風呂に入ると自身の「やさしさ成分」まで洗い落とされてしまうそうだ

・・うむ、庵野さんが結婚して良かったわ。
もし彼が結婚せず、上記のような生活を継続していれば、冗談ヌキで早逝もあり得たと思う。
結婚当時、体脂肪率は40%を超えてたというし。
確か、おふたりの結婚は2002年。

【1995年】「エヴァンゲリオン」放送

【1997年】劇場版「エヴァンゲリオン」公開

【2000年】実写映画「式日」公開

【2002年】結婚

【2006年】スタジオカラー設立

でさ、結婚する何年か前に庵野さんは自殺未遂を図ってるよね。
ぶっちゃけると、結婚して以降も最低1回はあったと思う。
安野先生は結婚生活をコミカルに描いてるけど、庵野さんは躁鬱の激しい人で、実態はこのアニメほどコミカルなものでもなかったと思うのよ。
そこは、西原先生の「毎日かあさん」の構造と同じ。
しかし、そういう中で庵野さんの体脂肪率は20%台まで落とせたらしいし、何とか彼が今日まで生き永らえたのも、安野先生の貢献が大きかったんじゃないかなぁ?
Air/まごころを君に」や「式日」なんかを見てると、ホント、このへんは庵野さんの「遺書」っぽいニュアンスをマジで感じるし・・。
よくぞ、あのへんのドン底からここまで立ち直らせたもんさ。
・・そういや、新会社「カラー」という命名も、実は安野先生だったらしいね。

安野先生の指導のもと、ダイエットに成功した庵野監督

とはいえ、<オシャレ化vsオタク化>の攻防は若干庵野さん優位でコトが進んでるらしく、安野先生はかなりオタク化が進行してしまった様子。
私が結構好きなくだりは、安野先生が「赤毛のアン」のモノマネで
なんて素敵なの!マシュー、ねぇマシュー?
とボケたら、すかさす庵野監督が
そうさのぉ~
とマシューのモノマネで切り返すという、こういうやりとりを即興でできてしまう夫婦って素敵だな、と思った。

そうは言っても、庵野監督はやはり人としての次元が少し違うというか、私が特に驚いたのは

・女優の米倉涼子のことを知らなかった
・歌手の谷村新司のことを知らなかった


というあたりだね。
なるほど。
オタク的なことはめっちゃ細かいことまで何でも知ってるのに、非オタク的なことに対しては全くの無知。
・・あぁ、そうか。
逆に、そういう情報を全部シャットアウトしてるからこそ、脳の容量を全部そっち側に回せるのかもな。
ある意味、こういうイビツさこそが、庵野監督の天才的創造力を支える土台になってるのかもしれん。
だから、安野先生もそこは変に矯正しないであげてほしい。

なんかね、この作品における庵野監督は「大きいコドモ」みたいでめっちゃカワイイのよ。

上記の通りにイビツゆえ、「普通のことが1人では何もできない」タイプのようで、結局は安野先生に頼りっぱなし。
この奥さんに対する異様な依存っぷりを見て、ちょっとイメージがカブったのはこの人だね↓↓

碇ゲンドウ

思えば、この人もめっちゃイビツな男である。
おそらく、ゲンドウも米倉涼子のこととか知らんだろうし、谷村新司のことも知らんだろう。
いわば、この男は庵野監督自身の投影であって、その本質もまた庵野監督と同様、「大きなコドモ」だということ。
で、実はめちゃくちゃ愛妻家である。
だって死んだ奥さんに会う為なら、セカイをブッ壊してもいいとするほどの狂気を秘めてたわけだし。
だから庵野さんもまた、そういうタイプなのかもしれない。

碇ゲンドウ=庵野秀明
碇ユイ=安野モヨコ

昔の安野先生って、ユイにめっちゃ似てるんだよね・・

いってみりゃ、この「監督不行届」は「エヴァンゲリオン」のスピンオフという解釈が妥当なのさ。
「エヴァ」の、ほのぼの癒し系バージョンといったところかな?
「エヴァ」ファンなら必見の作品ともいえるので、未見の方は是非ご覧ください。
なんのかんの言いつつ、ラブストーリーだよ。


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