最強のモビルスーツは、「ガンダムUC」で間違いないよね?
今回は、「ガンダムUC」「ガンダムNT」について書いてみたい。
これは宇宙世紀96~97年の出来事を描いた物語で、脚本は小説家・福井晴敏さんである。
福井晴敏先生って、知ってる?
この人、小説家としては結構なビッグネームなのよ。
・江戸川乱歩賞受賞
・日本推理作家協会賞受賞
・大藪春彦賞受賞
・吉川英治新人賞受賞
彼の代表作「亡国のイージス」「終戦のローレライ」「戦国自衛隊1549」等はベストセラーとなり、確か実写映画化もされてたはず。
で、そういうホンモノの小説家の先生なんだけど、実はこういうこと言ってるんだよね。
「富野監督の小説の文章、台詞、彼が手がけた作品に深い興味があり、それらに影響を受けて小説を書いてきたんです」
なんと、彼は小説家としての富野由悠季を尊敬してたんだ。
さらに彼は、
「今後、自分の中でオリジナルで表現したい題材が出てきたとしても、小説という形ではなく、アニメーションでやっていくと思います」
とまで言い、完全に「今後の私は小説家じゃなくアニメ作家」宣言をしたんだわ。
こういう人って、いるのね・・。
私なんかは「小説家」という肩書の方がカッコよく感じるけど、福井さんはむしろ「アニメ作家」の方がカッコいいという感覚なんだろう。
ちなみに、福井さんが最も好きな小説は富野由悠季著「閃光のハサウェイ」だという。
なるほど、それで「ハサウェイ」と「逆襲のシャア」の間を繋ぐブリッジとして、「ガンダムUC」「NT」を書いたんだな?
基本、「ガンダム」宇宙世紀シリーズは「ファースト」⇒「逆襲のシャア」までがひとつの核になってて、その前日譚、「ORIGIN」シリーズを安彦良和さんが作り、そして後日譚「UC」「NT」を福井さんが作った、という感じかと。
他にも諸々細かいのはあるんだが、大きくはそんな感じである。
で、興味深いのは、その福井さんが「宇宙戦艦ヤマト」リメイクシリーズの脚本を手掛けてることなんだよ。
彼は、インタビューでこう言っている。
「『ガンダム』を生んだ富野監督と『ヤマト』の西崎義展プロデューサーは作品も人物も対極の存在だと思います。
富野監督は作品本位というか、いかに自分の声を届けていくかということを主眼にした人。
一方、西崎さんはいかにこのフランチャイズを生き残らせていくか、という大人のショービジネス志向の人」
さらに、彼は「ヤマト」旧作についてこう語っている。
「今見直すと、毎回、思いつきで作られていたような印象もあり、矛盾点もあります」
思いつきで作られていた、って・・(笑)。
でもさ、ホントそうなんだよね。
昭和のアニメって大体が「見るのは子供だし、どうせ分かんないから設定はこういう感じでいいっしょ?」的なノリで作られてるものさ。
それが普通。
だけど「ガンダム」に限って、そういうノリではなかったんだ。
これはスポンサーが玩具メーカーゆえ、当然「ロボットを作品に出すこと」が絶対条件であり、そこは本来、深く考える余地のないところじゃん?
だけど富野さんともなると、深く考えちゃんだよな~。
「宇宙の艦隊戦で、ロボットがウロウロしてたら砲撃の邪魔じゃないか?」ってね。
確かに。
じゃ、「なぜロボットが戦争に必要とされたのか?」というところから考え始めなければならない。
で、ひねり出されたのが「ミノフスキー粒子」というSF的アイデアであり、これは
レーダーを遮断する粒子の散布により、各艦は敵のレーダー捕捉ができない
⇒機動力あるロボットが、艦を離れて目視で戦闘する戦争が今は主流
という新機軸の設定になったわけさ。
もちろん、当時「ガンダム」を見てた小学生は、こんな設定、全く気にしていなかっただろうよ。
だけど、高校生、大学生、オトナ(オタク)になれば「おっ?」となるよね。
これ、結構マジもんのSF設定じゃん、と。
多分、「ガンダム」人気は意外とこういうところから火がついたんだろう。
でさ、こういう「設定」を深く突き詰めて、できるだけ物語の矛盾点を排除しようするのが「左翼系アニメ作家」というものの本質なのよ。
【左翼系アニメ作家の代表的人物】
・高畑勲
・宮崎駿
・富野由悠季
全共闘運動にも絡んだこのへんの年代って、多くが「設定」命の人たちだよね。
この右翼⇔左翼、そのイメージが分かりにくいなら、こう考えてみてくれ。
右翼=ファンタジー、神話
左翼=科学、ロジック
太平洋戦争以前の日本は、「天皇は神の末裔」や「日本は神の国」といったファンタジーに立脚した右翼の国だった。
ところが戦争に負け、そこにアンチ右翼として台頭してきたのが左翼なのよ。
左翼は「天皇は人間」「神風なんて吹かない」といってファンタジーを否定し、科学、ロジックを唱えたのさ。
分かりやすくいうと、魔法は右翼だけど、超能力は左翼、という感覚かな?
で、富野さんは作中にモビルスーツの他、まさに超能力というべき「ニュータイプ」、「強化人間」、「サイコフレーム」というオタク的にグッとくるものを、どんどん出してきたのよ。
で、今挙げた3つを特にクローズアップしたのが、「UC」「NT」だろうね。
そもそも福井さんは富野さんの文脈をよく理解してる人ゆえ、やはり作風がめちゃくちゃ富野的なんだわ。
「ヤマト2202」や「2205」を見てもお分かりのように、この人は元ネタから膨らませていくのがホントうまい。
ちなみに「UC」や「NT」の裏テーマは、ガンダムと財界の関係性である。
「ガンダム」におけるおカネの流れって、確かに盲点だったわ。
で、「UC」ではビスト財団、「NT」ではルオ商会というのが出てくる。
まぁ、おカネが絡んでくる話だけに、そこに絡むビジネスマンたちの薄汚いこと、めっちゃリアルである。
「UC」は話題になってたから見たけど、「NT」は見てない、って人はいるかい?
「NT」は是非見てくれ。
私、これ泣いたよ・・。
「NT」は、「UC」の一年後の物語なんだ。
「UC」でミネバ姫があれほど大きなことをやってのけて、
「おぉ、これで世界も変わるな!」
と普通は思うじゃん?
ところが一年後の「NT」を見る限り、それほど世界は変わってないのよ。
このへんのリアリズムが凄いな~、と思って。
そう、「ガンダム」の根幹をなすものは「リアル」なんだよね。
これは富野由悠季特有の文脈である。
一人の人間がなしたこと程度で、簡単に世界は変わらない
つまり、「ガンダム」はセカイ系じゃないんだよ。
一方、「宇宙戦艦ヤマト」は明らかにセカイ系だよね?
たった一隻の戦艦が、敵の大艦隊と戦争をして勝ち、地球と全人類を救うんだから。
ただ「ガンダム」にそういうの期待されても、こっちはアンチファンタジーだから、断じてそっち系のドラマにはならないよ。
・・いや、ひとりだけ例外というべき存在がいるわな。
そう、シャア・アズナブルさ。
彼だけは例外的に、「ひとりでセカイを変えてしまう可能性」を示した男だった。
小惑星アクシズを、地球に落とすという形で。
で、シャアはその後、どうなったのか?
彼はあの事変以降「行方不明」という扱いで、どうやら遺体そのものは確認されてないっぽい。
ということも踏まえた上で作られてるのが、「UC」「NT」なのよ。
「UC」「NT」において、もはやシャアは「宗教」、崇拝対象にまでなっている。
「UC」「NT」は、一種の到達点だよね。
おそらく、これ以上強いモビルスーツは今後も出てこないだろう。
「最強のガンダム」を見たいという人は、是非「UC」「NT」をどうぞ。
おススメです。
あと福井晴敏先生には、今後もさらに「ガンダム」宇宙世紀の新シリーズを書いてほしいなぁ・・。