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鬼才・湯浅政明のTVアニメ監督デビュー作を知ってますか?

今回は、湯浅政明監督について取り上げてみたい。

この人、日本アニメ界において確固たる地位を築いてる大物なんだが、一方海外での評価もまた異様に高いというか、いやむしろ、日本国内以上の評価なんだよね。
今敏タイプといっていいかと。
ロッテルダム国際映画祭では「湯浅政明特集」が組まれたほどだというし。
まぁ、あっちでウケる理由はニュアンスとして分からなくもないけど。
なんか、アートっぽいもんな。

「ケモノヅメ」(2006年)

で、今回はまず最初に触れておきたい作品が「ケモノヅメ」。
これ、湯浅さんが初めて監督を手掛けた連続TVアニメシリーズである。
2004年、監督デビュー作「マインドゲーム」で文化庁メディア芸術祭大賞を受賞(しかも「ハウル」を抑えて)、一気に世間の注目を集めた彼が次は何に挑戦したのかというと、「自分自身でオリジナルのストーリーを考案してみよう」ということだったんだ。
それが、この「ケモノヅメ」。

だけどさ、今だからこそ言えることなんだが、湯浅作品の名作とされるものって、大体が「原作ありきの作品」なんだよね。
四畳半神話大系」しかり、「ピンポン」しかり、「映像研には手を出すな」しかり。
言っちゃ悪いが、彼のオリジナル作品はちょっとねぇ・・(笑)。
本作以外では次作「カイバ」もオリジナル作品なんだが、評価は決して低くないものの、総評としては「キモい」「グロい」としてカルト作品のような扱いをされてるというのが正直なところだろう。
ただ湯浅さん的に、この「ケモノヅメ」の制作にあたっては「万人ウケ」を意識した、とか言ってました(笑)。

こんなグロ表現の、どこに万人ウケする要素があるっちゅーねん(笑)。


で、これはWOWOWでR15指定になったので、多分見たことある人は少ないんじゃないかな。
私は、https://animia.tv(←これオススメ)というサイトで見ました。
後の「DEVILMAN crybaby」の原点みたいな作品である。

「DEVILMAN crybaby」(2018年)

物語の世界観的には、日本に「食人鬼」という人を食糧にする異形がいて、またそれを退治することを使命とした「愧封剣」という戦闘集団がいて・・という設定。
まさに「鬼滅の刃」「東京喰種」っぽい設定なんだが、これらの作品より「ケモノヅメ」の方が古いので、パクリではありません。
で、ロミオとジュリエットじゃないけど、愧封剣の男性と食人鬼の女性とが愛し合ってしまう、という禁断の恋的なラブストーリーである。

ただ、こういうのは「鬼滅」の禰󠄀豆子しかり、「東京喰種」の董香しかり、異形であってもヒロインはかわいいのが鉄板だというのに、本作のヒロインはそうでもなかったりするのが辛いところ。
だって、こういうビジュアルだから↓↓

ヒロインの変身形態

普段は理性で人間の形態を保ってるヒロインだけど、作中主人公とSEXしたら、エクスタシーに達するたびに上の画の形態になっちゃうのよ。
お陰で、SEXのたびに何度も主人公は死にかけている(笑)。
そんな状況なのになぜか2人は別れようともせず、愧封剣の追っ手をかわしながら逃避行するロードムービーなんだよね。

R15ゆえエロ描写は結構多いにせよ、画が例の湯浅調の感じだから、さほどエロくは感じないです。
本作のキャラデザ/作画監督を務めたのは伊東伸高さんという人。
彼は東京アニメアワードでベストアニメーター賞受賞するほどの凄腕なんだが、ただテイストが俗にいうヘタウマというか、リアルさがあまりない表現だけに、エロを描いてもエロくならない。

どうやら、本作が伊東さんにとって初の作画監督だったっぽい。
以降、彼と湯浅さんの蜜月はずっと継続し、今までの湯浅作品の8割ほどは彼が作画監督を務めている。
もはや、湯浅作品の画=伊東さんの画、といっても過言ではないかと。

特に、伊東伸高の表現力が神の領域に到達したのが、そのアニメーター賞を獲ることになった作品、「ピンポン」だろうね。

「ピンポン」(2014年)

これ、初めて見た時にはビックリしたわ~。

背景、描いてないじゃん。


この当時って、新海誠にせよ京アニにせよP.A.WORKSにせよ、みんな背景にこそ命懸けてた時代だよ。
でも、伊東さんの作画、そして湯浅さんの演出としては、むしろその逆張りだったわけさ。
これはアニメというより、
松本大洋先生の絵に命が吹き込まれ、漫画のまんまにキャラが動いてる
という感じ。
一種の「ぱらぱら漫画」とでもいうべきだろうか?
「ケモノヅメ」の頃と比較しても、もはや御二人とも表現力が別次元の領域である。

私なりの解釈として、

湯浅政明+伊東伸高という黄金コンビは、       レジェンド出崎統+杉野昭夫コンビの再来

出崎+杉野コンビも、案外背景を描かなかったんだよね。
それは省エネの手抜き?
いや、違う。
一流の演出技巧だよ。
あと、出崎さんの演出技巧といえば「画面分割」も有名だけど、そういえば湯浅さんも「ピンポン」でめっちゃ画面分割を多用してたわ。

思えば、アニメーションの王道といえるのが、大塚康生、高畑勲、宮崎駿といった元東映動画の作るものだったとして、元虫プロの出崎統、杉野昭夫といったところは、むしろアンチ王道としての前衛演出だったのかもしれないよね。
そして現代、湯浅政明、伊東伸高といったところも、興行的に大成功してる新海誠、細田守とはまた別の道とでもいうべきか、彼らなりのアンチ王道を表現してるのかもしれんなぁ・・。

さて、湯浅さんのキャリアについてもう少し触れると、彼は「ピンポン」の制作の前年、「サイエンスSARU」という自らの制作会社を立ち上げている。
上の画のキャラクターの猿が意味不明だが、そういや、前述「ケモノヅメ」でもこういう猿のキャラクターが出てきてたっけ↓↓

謎の猿

ちょいちょい主人公に絡んできて、主人公からは「師匠」とまで呼ばれてる猿だから何か深い秘密の設定があるんだろうと期待してたのに、最終的には何の説明もないまま終わってしまった・・(笑)。
あの猿、結局は何だったんだろう?

それはともかく、制作会社としてのサイエンスSARUは、やはり王道ならぬ独自の路線を歩んでるというべきか、特にここで目立つのが「Adobe Flash」というアプリを使ったアニメ制作である。
アプリでアニメを作るなんて・・
と正直思うけど、それで作った映像が案外凄かったりするんだから驚きである。

「犬王」(2022年)

AdobeFlash最大の利点は、少人数でアニメ制作ができる、ということにあるらしい。
アニメ制作といえば労働集約産業、人海戦術をもって不眠不休で頑張る、というイメージがあるが、サイエンスSARUは残業しない、週休2日をとる、をモットーにしてるとやら。
それほどにAdobeFlashは、効率よく機能してるということなんだろうか?
いや、そういう効率面もさることながら、もともと湯浅さんは

「アニメは少人数で作った方がいい」
「原画は、1人のアニメーターに全部を任せてしまいたい」


という考え方らしいのよ。
いわゆる自主制作志向というか、昔の新海誠今なら吉浦康裕宇木敦哉といった新鋭に近い考え方なんだろう。
実際「DEVILMANcrybaby」で、限定的ながら原画1人体制というのをやってたらしい。
このへんは、湯浅さん自身が絵を描くアニメーターだからこそ、こんな発想が出てくるのかと。
私は、湯浅さんの狙いが分からんでもない。
これが正解かどうかはまだ分からんにせよ、できれば今の方向を突き詰めていってほしい。

それにしても、日本における人海戦術型手描きの最高権威とでもいうべき、あの京アニから山田尚子女史がサイエンスSARUに移籍してきた、ってのが実に興味深い現象だわ~。

これって日本アニメ界の潮流を思うと、かなり重要なエポックだと思うんだけど?


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