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<ディズニーが唯一怖れた存在>フライシャー兄弟のアニメ

今回は、フライシャー兄弟のアニメについて取り上げてみたいと思う。

フライシャー兄弟って誰やねん?と思う人も多いだろうが、こういった作品を作っていた人たちである↓↓

「ポパイ」

「ベティちゃん」

「スーパーマン」

「ベティちゃん」などは、日本でも太平洋戦争以前から既に人気があったという。
尚、ディズニーの長編映画が日本で初めて公開されたのが1950年「白雪姫」なんだが、実はフライシャー兄弟の長編はそれより公開が早く、その作品は1948年「ガリヴァー旅行記」である。

「ガリヴァー旅行記」(米国公開1939年)

うん、これの米国公開は1939年だから、実をいうとディズニーの「白雪姫」より2年遅いのよ。
だけど、なぜか日本での公開は「白雪姫」より2年早かったのね。
そのへんの細かい事情はよく知らんけど。

ただ、これは当時の日本として、めちゃくちゃ衝撃の映画だったと思うんだよね~。
だってさ、1948年なんて映画といえばモノクロが当たり前の頃にカラー作品だし、しかもその映像がこれだよ↓↓

・・そう、思いっきり「ロトスコープ」なのさ。
(※ロトスコープ・・モデルを使って実写映像を撮り、その映像をトレースしてアニメを制作する手法)
この異様なほどにリアル志向の作画は、アニメを見慣れた今の我々が見ても少しビビるよね。
・・まぁ、「白雪姫」も確かにロトスコープではあるんだけど、でも精巧さでいえばこの「ガリヴァー」の方がエゲツないと思う(「白雪姫」の場合は意図して画が精巧になりすぎないようにしてたらしいが・・)。
この映画を初めて見た当時の日本人たち、さぞや衝撃だったことだろう。

ほら、この圧倒的な巨人感!

これはあくまでも私の想像にすぎない話だけど、この「ガリヴァー」というファーストインパクトこそが、戦後日本の<BIG志向>を決定付けたと思うのよ。
その<BIG志向>とは、当然これらのことである↓↓

「ゴジラ」

「ウルトラマン」

「巨人」

そしてアニメにおける<巨大ロボット>文化

こうして、日本人が常に<巨大であること>を求めてきた流れ、やっぱり「ガリヴァー」から全てが始まってるんじゃないか?

と私は思うんです。
ファーストインパクトの影響力って、それほどまでに重要なファクターなのよ。

なお、この「ガリヴァー旅行記」はもう著作権フリーゆえ、YouTubeで検索すれば普通に無料動画をご覧いただけます。
ぜひ、皆さんにも一度ご覧いただきたい。

付け加えると、これの米国における公開が1939年、つまり太平洋戦争勃発の直前だということを踏まえて見ていただければ・・と思うのよ。
この作品のモチーフは、思いっきり「戦争」だからね。
そして本作のメッセージ性は、思いっきり「反戦」だから。
1939年に「反戦映画」が普通に全米公開され、しかも大ヒットを記録したというんだからアメリカって国も笑えるよなぁ・・。

自らは<巨人>というチートでありつつも、一貫して非暴力、平和的解決を模索し続ける人格者ガリヴァー。
欧州では既に世界大戦が始まってしまった中、「うち(米国)はガリヴァーである。世界の<巨人>である」というスタンスをこの映画で積極的に示す意味合いがあったのかも?
まぁ、結局のところは彼らもガリヴァーほどの人格者じゃなかったわけで、その数年後には小人の国を空襲するわ、原爆2発落とすわ、もう破壊の限りを尽くしてくれちゃってさぁ・・(笑)。

さて、ここでまた「ロトスコープ」に話を戻したい。
実はこの技術って、発明者はフライシャー兄弟である、ということを皆さんはご存じでしたか?
彼らは1919年で、この技術を既に使っていたらしいんだわ。
そして、その当時の映像がこれである↓↓

<世界初のロトスコープアニメ>
「インク壺の外へ」(1919年)

これ、凄くね?

うむ、やはりこういうの見てると、日本がアメリカと戦争をするなんざ百年早かったわ・・と反省するよね。

で、このフライシャー兄弟のことをかなり崇拝しているのがあの宮崎駿で、ひょっとしたらだけど、彼はディズニー派ではなくフライシャー兄弟派だという可能性すらあるのよ。
・・という論拠は「三鷹の森ジブリ美術館ライブラリー」にアーカイブされた映画群の中にあって、ちなみにだが、このライブラリーは宮崎駿&高畑勲両名が「このアニメは世界遺産級!」と認定した作品ばかりで構成されてるんだ。
で、そのラインナップの中にフライシャー兄弟の作品はあるんだが、なぜかディズニーは入ってないんです。
まぁ、そのへんの詳しいところはよく分からないけど・・。

「天空の城ラピュタ」におけるロボット兵
「ルパン三世 さらば愛しのルパンよ」におけるロボット兵

あと、宮崎駿のフライシャー兄弟オマージュが上の画の「ロボット兵」だともいわれていて、その元ネタが実は前述「スーパーマン」だとされてるんだ。

じゃ、百聞は一見にしかずだし、まずはその「スーパーマン」で該当する回というのを実際見ていただこうか。

「スーパーマン」(1941年)時間約10分

・・はい、ほとんど「ルパン三世」そのまんまでしたね(笑)。

そもそも、巨匠はあまりロボットを描く人ではない。
それでも描く際は、決まってこの腕の長い変なフォルムのやつである。
・・あ、そういえば、彼の原画/演出デビュー作「ガリバーの宇宙旅行」でも出てきたロボットはそっち系のやつだったっけ。

「ガリバーの宇宙旅行」(1965年)

なるほど、これもフライシャー系だよな。
私は個人的に、こういうデザインのロボ、結構好きなんですけど。
なんか、クラシックカー的なカッコよさがある。

とにかく、宮崎駿を語る際にフライシャー兄弟は欠かせない作家ということだけはまず間違いないだろう。

「バッタ君町に行く」(1941年)

さて、最後に触れたい作品は、前述の「ジブリ美術館ライブラリー」に所蔵されてるフライシャー作品である。
「ガリヴァー旅行記」の次に作ったやつだね。

こんなの知らん、という人も多いだろう。
だって、どのサブスクにもないから。
でも、この作品に対しての巨匠たちのコメントがスゴイのよ。

<高畑勲>

「エネルギッシュですよね。
テンポも何も。
動き続けていて止まる時がないですから。
アングルの面白さもありますね。
スリル満点だし、めちゃくちゃだけど見ててホントに面白い」

<宮崎駿>

「アニメーターをやるやつは見ておくべき。
時代のせいで面白くないものと、時代を超えて面白いものがあるはずで、その時代を超えるものをやっぱりフライシャーは持っているんです」

<細田守>

「デートのシーンが好きです。
優雅に腕を組んで歩く、細い石畳の隙間。
移り変わる信号は、恋人たちを彩るナイトクラブの照明へ。
二人が歩く水辺に見えたそれは、叢に打ち捨てられた手鏡。
人間にとってたわいないものが、虫たちにとって逢瀬のささやかな舞台となるところに、世界の豊かさを感じずにはいられません」

<庵野秀明>

「工事現場のシーンが一番好きです。虫は、アニメーション的な大袈裟な動きで描かれ、人間は、ロトスコープを使って描かれることで、世界がちゃんと分かれていることが分かる。
そしてよりリアルに見えるはずの人間が、なぜか感情を感じられない冷たい存在になっている。この作品はロトスコープの持っている方向性をうまく組み込んでいると思います。
アニメを作る人は、ちゃんと見たほうがいい。ただ、これを見てワクワクする人じゃないとアニメーターには向かないんじゃないかな?」

<磯光雄>

「十数年前、南阿佐ヶ谷の電気屋で500円で投売りされていたβ版ビデオソフトを買って何度も見返した。
虫たちの小さな世界。
人間の足元で繰り広げられる非日常の日常。
これだけでもワクワクするのに、ラストのスペクタクルに、息を呑む。
巨大なもの、重いもの、メカニックを描かせたら間違いなく当時フライシャーが最高峰だった。
ラストのビル建設シーンの迫力は今見返してもただ事ではない。
フライシャーの映画はまさにメカニック作画のオーパーツだ」

<西尾鉄也>

「アニメーターという職業をやっていると、先輩・同輩から、『これだけは観ておけ!』と言われるクラシックが何作もあります。
初期ディズニー、初期東映動画長編、政岡憲三etc
フライシャー兄弟の作品も、そのひとつです。
シンプルかつスタイリッシュな描線の選択をいつもマネしたいと目論んでたりしますが、あの高みにはまだまだ到達出来ません」


・・お前ら、どんだけ「バッタ君町に行く」が好きやねん(笑)。

でもね、確かにこの映画は面白い。
やってることは、「ガリヴァー」とほぼ同じ。

「ガリヴァー旅行記」

・ガリヴァー⇒ロトスコープ⇒リアル系
・小人たち⇒カートゥーン⇒デフォルメ系

「バッタ君町に行く」

・バッタ君たち⇒カートゥーン⇒デフォルメ系
・人間たち⇒ロトスコープ⇒リアル系

ようは、リアル系⇔デフォルメ系の融合の面白さ、そして対比の面白さだよ。
この作家性は、思えば前述の「インク壺の外へ」でも実写⇔アニメの融合という形にトライしてたわけで、いうなればこういうの、彼らのライフワークのようなものかもしれん。

で、「バッタ君」については、上の著名アニメ作家さんたちの絶賛コメントを見てご理解いただけると思うが、

こういった作品が、彼らにとってのテキストorバイブルになってる、ということね。


ならば我々としても、そういうものはチェックしておく必要がある。

だけど前述の通り、なぜかサブスクでの配信がないからなぁ・・。
DVDでご覧になって下さい。
いや、どうしても無料でなきゃダメという人は、YouTubeで「Mr. Bug Goes to Town japanese sub」というワードで検索すれば、一応無料動画見つかると思うけど。
・・ただ、これで見られる動画は自動翻訳のやつなので、少し分かりにくくなってるのは一応事前に了解しといてね。


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