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元ジブリ監督が作ったラノベ系アニメを見てみたけど・・

今回は、ジブリ映画について少し話をしたいと思う。
そもそもジブリの長編映画はこれまで24作品あり(「ナウシカ」は厳密にはジブリ制作じゃないけど、ここではジブリにカウントします)、それらはほとんどが宮崎駿作品・高畑勲作品なんだが、いくつか例外的に彼ら以外が監督を務めた作品もあるんだ。
それを、ざっと列挙してみよう。

①「耳をすませば」(1995年)監督・近藤喜文
②「猫の恩返し」(2002年)監督・森田宏幸
③「ゲド戦記」(2006年)監督・宮崎吾郎
④「借りぐらしのアリエッティ」(2010年)監督・米林宏昌
⑤「コクリコ坂から」(2011年)監督・宮崎吾郎
⑥「思い出のマーニー」(2014年)監督・米林宏昌
⑦「レッドタートル 」(2016年)監督・Michaël Dudok de Wit
⑧「アーヤと魔女」(2021年)監督・宮崎吾郎

宮崎吾郎が3作品、米林宏昌が2作品。
あとは近藤喜文森田宏幸Michaël Dudok de Witが各々1作品ずつ。

この中で⑦のMichaël Dudok de Witだけは特殊というか、この人はもともとが米アカデミー賞受賞歴のある大物アニメ作家であり、「レッドタートル」はいわば彼と高畑勲のコラボ企画のようなものだったと思う。

「レッドタートル ある島の物語」(2016年)

これ、見たことある?
ジブリ屈指の大傑作だよ。
100%メタファーの作品なんで、ボーっと見てたら「?」となる系のやつだけど。
あと、③⑤⑧の宮崎吾郎氏は皆さんもご存じの通り今なお健在だし、④⑥の米林宏昌氏もポノックで今なお頑張ってる様子。
問題は、①の近藤喜文氏である。
この人は「耳をすませば」公開の3年後に、大動脈瘤で亡くなってしまったんだ・・。
めっちゃ凄いアニメーターだったらしいね。
宮崎・高畑両氏ともに彼を厚く信頼してたらしく、ふたりの間では実際に「近藤争奪戦」が繰り広げられてたというほど。
Wikipediaには

高畑勲「他は何もいらないから、近ちゃんだけ欲しい」
宮崎駿「近ちゃんが入ってくれないなら、俺も降板する」

というやりとりがあったことが記載されている。
もし彼がご存命なら、今頃ジブリを牽引する存在になっていただろうに・・。
ヘタすりゃ、吾郎氏の出番はなかったかもね。
付け加えると、Wikipediaは近藤さんの死後、巨匠がこう発言したと記載している。

宮崎駿「自分が終わりを渡してしまったようなもの」

さらに鈴木敏夫プロデューサーは

「あるベテランアニメーターが『近ちゃんを殺したのはパクさん(高畑氏)よね』と呟くと、間を置いて高畑さんが無言で頷いた」

と語っている。
ジブリで宮崎・高畑と共に仕事をすることが、どれほど過酷かを表す話だね・・。

「耳をすませば」(1995年)

できることなら日本の悩める中高生全てに、この作品を見てもらいたいものである。
まさに、青春アニメの決定版だよ。
そして、近藤喜文が命を削って全てを注ぎ込んだ作品でもある。
これに続く第2弾「猫の恩返し」は、実質「近藤喜文トリビュート」作品だったと思う。
両作品とも見てる人はお分かりだと思うが、このふたつの作品は繋がってるんだよね。
「耳をすませば」のヒロイン・雫の書いた小説が「猫の恩返し」という設定ゆえ、両作品には「バロン男爵」や「猫のムタ」など共通のキャラクターが出てくるんだ。
なんていうかな、「猫の恩返し」は、この脚本を書いた宮崎駿の近藤さんを偲ぶ気持ちがひしひしと伝わってきて、妙に泣けるんですよ。
ぜひ、このふたつはセットで見てほしい。

「猫の恩返し」(2002年)

で、今回クローズアップしたいのは、この「猫の恩返し」の監督を務めてた森田宏幸氏である。
この人だけ、ちょっとよく分からないんだ。
宮崎吾郎は巨匠の息子、近藤喜文や米林宏昌は巨匠の秘蔵っ子、という意味で抜擢された根拠も明確なんだけど、一方森田さんはジブリ生え抜きというわけじゃないみたいだし、一体なぜ彼がジブリ監督という大役を担うことになったのかが謎である。
「猫の恩返し」の前には「魔女の宅急便」「となりの山田くん」に絡んでたらしく、宮崎・高畑両氏と面識はあったんだろう。
その経緯の中で、「この若手は才能がある」と両氏に見込まれたのかもしれない。
で、その「猫の恩返し」の内容についてだが、まぁ「耳をすませば」と比較すると作風がもともとライトで、小粒というイメージである。
何より、画がジブリっぽくないんだよね。
ただ、これが意外と悪くないんだ。
ヒロイン・ハルのもっさり感とか、私は絶妙だと思ったよ。

ちょっと抜けてて明らかにイケてない子なんだけど、なんかほんわかしてて不思議と魅力のあるキャラ。
こういうちょっとした仕草ひとつにアニメーターのセンスが出ると思うし、森田さんってやはりセンスある人だと思うんだわ。
・・で、問題にしたいのは、この森田さんの「猫の恩返し」以降のキャリアである。
彼はフリーのアニメーターゆえ、どう考えても「ジブリの監督経験あり」という経歴は武器になったと思う。
絶対、その後あちこちから引っ張りだこになるはずだよね?
ところが、現実は意外とそうでもないのよ。
彼の「猫の恩返し」以降の監督歴を見ると

【2007年】
ぼくらの(GONZO)
【2012年】
ワンピース/エピソードオブルフィ(東映)※TV2時間スペシャル
【2023年】
聖剣学院の魔剣使い(パッショーネ)

以上である。
ちょっと肩すかしだと思わない?
上記以外は、主に絵コンテ中心のキャリアである。
まぁ、監督業より画や絵コンテを描きたいタイプの人なのかもしれん。
それはそれでいいとして、ちょっと気になったので昨年に放送してたという彼の監督作品「聖剣学院の魔剣使い」というのを見てみることにした。

・・で、ビックリしたのよ。
皆さんにはまず、このアニメのオープニングを見てもらおう。

このオープニングの絵コンテは、森田さん自身が描いてるらしい。
こんなチープなオープニング、まず視聴意欲がどっと失せた。
背景が青空ばっかりで、画がスカスカじゃん。
一応続けて本編も見たんだけど、さすがに辛くなって途中で離脱してしまいました・・。
なんていうか、酷すぎる。
「猫の恩返し」であれほど緻密に描いてた人が、20年経つとここまで劣化しちゃうの?

「聖剣学院の魔剣使い」の中のワンシーン

たとえば、この画とかジブリなら絶対許さないと思う。
このグループは向こうから道を歩いてきた設定なんだけど、何で女子たちは横一列のフラットな等間隔配置なの?
しかも全員が、まるで朝礼のように直立不動。
背景は、誰ひとり歩いていない無人の道路。
こんなのは、明らかに作り手側の都合である。
作画を複数の描き手が分担する中で、画に奥行きをつけて各キャラが交錯してるような構図(つまり自然な形の遠近がある構図)は色々とメンドくさいもんね。
一応、「この女子たちはマインドコントロールされてる」という設定なので敢えて記号的な配置をしてると解釈できなくもないんだが、それにしたって構図があまりにも平面的でチープ。
・・森田監督、これでいいのか?
当然、ジブリ監督までやった人がこれでいいと思ってるわけがない。
しかし予算と時間がない以上、こういうのは妥協していくしかないんだ、
といったところだろう。
「猫の恩返し」以降の20年間のキャリアを経て、森田さんは遂にそういう境地にまで辿り着いた、ということなんだね。
何年もかけてひとつの作品に取り組むジブリ方式ならともかく、TVアニメでそこまでのコダワリを追求するのは無理、ということか・・?

「海がきこえる」(1993年)

もともと、ジブリは作品のクオリティ優先の為、あまりTVアニメを作らない方針である。
とはいえ、実は例外的に作られたこともあった。
それが「海が聞こえる」という作品なんだけど、皆さんはこれ知ってる?
日本テレビ開局40周年記念のスペシャル番組として、93年に制作されたものだそうだ。
制作は「スタジオジブリ」でなく、「スタジオジブリ若手制作集団」と明記されている。
宮崎さんや高畑さん抜きで、おそらく若手たちがゼミの課題みたいな感じで作ったんだろうね。
監督は望月智充さんという外部の人で(「めぞん一刻」「きまぐれオレンジロード」の監督さんらしい)、ジブリ若手側は近藤勝也さんが中心になってまとめていたとのこと。
しかし、これがなかなかのクオリティである。
宮崎さんや高畑さんがこの作品をどう評価したのかはよく分からんが、実はめちゃくちゃ刺激を与えた、という説もあるんだ。
実際、この作品に触発されて巨匠が書いた脚本が「耳をすませば」らしいし、後の「コクリコ坂」にも本作の影響がしっかり見てとれるわけで。

「若手集団」とはいえジブリ、この作品は画も構図も完璧である

これを見てないという人には、ぜひ一度見てほしい。
たとえ宮崎・高畑不在でも、ジブリの苦行で培われたスキルはアニメーターたち各々の体に染みついてることが痛いほど分かる作品ですよ。
見たことない人、多いんじゃない?
ジブリ作品はほとんど配信サイトにないけど、ネットで無料動画探せばいいのさ。
Googleで「Umi ga kikoeru」、もしくは「Ocean Waves」と動画検索すれば多分いけると思うよ。
ジブリ作品の多くはアラブ圏がアラビア語字幕(音声日本語)動画をアップしてくれてるから。
いまどきの「なろう系」アニメ見るぐらいなら、ちょっと古くてもまだ見たことないジブリのアニメ見る方が全然いい。
ちなみに、今回作品名を挙げたアニメはほとんどが無料で見られます。
是非どうぞ、一度お試しください。

あ、「聖剣学院の魔剣使い」は、見なくていいからね。


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