「B:The Beginning」猟奇的殺人犯vs天才捜査官vs神様という混沌
最近は「ネットフリックスでしか見られない」というアニメが比較的多く、非加入者の私としては結構つらいですね・・。
入会すればいいじゃん?とよく言われるけど、このてのオンデマンドに複数入会するのは無駄があるような気がして、これも貧乏性とでもいうべきか、なかなか踏み切れない私・・。
とはいえ、ほとんどのやつはネットの動画検索で見られるものなんですよ。
で、今回は私が見たネットフリックスアニメの中のお気に入りのひとつ、「B:The Beginning」について書いてみたいと思う。
これ、クライムサスペンス好きな方なら、よくご存じの作品だろう。
いわゆる刑事モノで、連続猟奇殺人事件を捜査していく系のやつね。
私、こういうの大好きなんですよ。
米国ドラマなら「ハンニバル」、英国ドラマなら「刑事ジョンルーサー」、韓流ドラマなら「VOICE」、国内ドラマなら「MOZU」、このへん外せないよね~。
で、こういうのはアニメなら、「PSYCHO-PASS」ということになるだろう。
ちなみに「B:The Beginning」は、「PSYCHO-PASS」を手掛けたProduction I.Gが制作である。
そのせいか、両作品は構造が若干似てるんだわ。
敏腕、かつ一匹狼である主人公の刑事が、過去のある事件に病的なほど執着している
もっさりしてるのに、実はめっちゃ知能の高いヒロインが主人公をサポートする
知能においては、明らかに主人公最強系の作品である。
主人公キースがチートともいえる知能で、何もかもを見通している。
ヒロインのリリィは一見アホっぽく見えるけど、こいつの直感もまた外れることがほとんどないチートである。
で、このてのやつは犯人もまた知能が高いというのがお約束で、物語の展開は高度な頭脳戦になっていくんだよね。
「B」のネタバレは避ける意味で真犯人のことは一応伏せるけど、でも終盤のキースと真犯人との一対一の場面とか、「PSYCHO-PASS」の狡噛vs槙島とほとんど同じ構図だったよ?
あと、「B」にせよ「PSYCHO-PASS」にせよ、猟奇殺人というのはあくまで表層のネタにすぎず、作品の真の本命はそれとはまた全く別のもの、という構造も共通してるわ。
「PSYCHO-PASS」ではシビュラシステムこそが本命だし、一方「B」では「碑文」といったところが本命となる。
この本命の存在が明かされる局面で、やっと両作品はコンセプトが分かれることになるのよ。
シビュラシステム⇒SF
碑文⇒ダークファンタジー
というカテゴライズ。
うん、「B」は表層がクライムサスペンスだけど、中身はバリバリのダークファンタジー、伝奇ですよ。
やはりあれだね、普通にクライムサスペンスをやるなら実写ドラマでやった方が手っ取り早いわけだし、敢えてアニメでやる以上は+アルファの要素が必要なんですよ。
「B」のファンタジー要素は、確かにアニメじゃなきゃ表現できない類いのものだろう。
ちなみに、「B」の原作・監督・キャラデザを務めたのは中澤一登さんで、彼は最近だと「海賊王女」の監督をやってた人である。
私が彼の監督作品で印象深いのは「パラサイトドールズ」で、これがまた「B」にめっちゃ似てるのよ。
この「パラサイトドールズ」、主人公がくたびれた感じの眼鏡のおっさんで、その相棒が若くて元気のいいオンナノコ。
多分だけど、これが「B」の原型になってるんじゃないの?
まぁ、誰しも作家には「型」というのがあるものさ。
さて、「B」の設定についての説明を少ししておこう。
作中、次のような説明がなされていたんです。
・この国では16世紀末、翼の生えた人類「神」の化石、および未知の文字で書かれた碑文が発見された。
・その碑文には「神」のDNA構造の他、「予言」ととれる記述があることもやがて解読された。
・政府は、バイオテクノロジーにより「神」の創造を試みた。
うむ、これはProduction I.Gの象徴・押井守の系譜ですね。
で、バイオテクノジーで神様を再現しようというのが面白いじゃないか。
この「B」という作品、ダークファンタジーでありつつ、実はSFかも?
でもって、そのバイオテクノジーで生み出された神様がコイツら↓↓
神様は、ちゃんと人間の姿として社会の中に存在してたのか・・。
そして「B」におけるW主人公の一角・黒羽もまた、そういう神様のひとりである。
羽が黒いので、神様じゃなく悪魔なのかもしれないけど・・。
ただ興味深いのは、黒羽は悪役でなく、むしろめっちゃいい子なのさ。
むしろ悪いのは、こういう神様を人為的に生み出した人間側、オトナ側であり、結局神様たちはオトナたちの都合によって利用されてるようにも感じたなぁ・・。
・黒羽=俗世と距離を置き、ひっそりと孤独に暮らす善なる存在
・マーケットメイカー=国家権力と結託して、殺戮を繰り返す悪なる存在
出自が同じ神様でありつつ、黒羽とマーケットメイカーは善と悪にくっきり分かれてるわけよ。
こうして見ると、人と関わったマーケットメイカーが堕天使=悪魔となり、人とあまり関わってこなかった黒羽が純粋に天使のままなんですわ。
すなわち、これが何を意味するのかというと
人間こそが、神をも堕落させる悪魔、サタンということだね。
思えば、名作「DETH NOTE」は連続殺人犯vs天才捜査官の対決に悪魔が絡んでいく構図だったが、「B」の場合はそこに神様が絡んでる構図なわけです。
で、「B」シーズン1で黒羽vsマーケットメイカーの攻防に一応ひと段落がつくんだが、シーズン2ではいよいよ、国家元首・国王陛下が出てきたりもします。
陛下は国益の為、神様との結託を当分やめる気はないみたいだね。
この人がなかなか狡猾なタヌキのようなキャラで、老害なのかそうじゃないのか、掴みどころのない人物像でなかなか興味深かった。
結局、この人が人為的に神様のコピーを量産し、軍事利用しようとし、また廃棄し、そして今なお政治利用してるという、まさに巨悪の中枢なんですよ。
だが、この作品の興味深いところは、この国王を悪の象徴・ラスボスとして描写しなかったことなんだ。
むしろ彼は最後まで安泰で、「この世にありがちな、狡猾な政治家」として現実的に描かれている。
すっきりしない?
・・いや、これもまたProduction I.Gの文脈なんじゃない?
悪は滅び、善は栄えるなんて、それこそProduction I.Gらしくないもんね。
「攻殻機動隊」といい、「PSYCHO-PASS」といい、すっきりした終わり方をここにはあまり期待しない方がいい。
そして、この人たちが王立警察特殊犯罪捜査課のチーム。
警察組織そのものがマーケットメイカーの手中にある中、そこに染まろうとしない孤高のチームである。
また、キャラが各々にいいんだわ。
クソ真面目なリーダー、老獪なベテラン、マッチョな体育会系、ITスキルの超絶なオペレーター、全て既視感あるものばかりだが(「PSYCHO-PASS」)こういうのがあってこその刑事モノである。
彼らが出てくるシーンになると、少しほっこりするんだよね。
いいバランスだったと思う。
この「B」は、辛抱強くシリーズ化していけば大きく化けるんじゃないか?
刑事モノとしては、かなり安定感ありますよ。
そもそも、刑事と人外が協力して巨悪に立ち向かっていく、というアイデアそのものが秀逸だと思うんだけど。
とはいえ、ちょっと気になったのは2期が明らかに1期より作画クオリティが落ちてたことと、2期が1期の半分、わずか6話で終わってしまったことさ。
あれって、続きはあるんだろうか?
あれで終わらすのはよくないと思うし、是非続編を制作してほしい。
皆さんも、是非「B」をご覧になってみてください。
なかなかの秀作ですよ。