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<国民的アニメ>とは一体何なのか?
今回は、<国民的アニメ>というものについて少し考えてみたい。
これを語る際、どうしても欠かすことができない、老舗のアニメ制作会社がひとつある。
それは日本アニメーション。
この会社がこれまでどういう作品を作ってきたのかというと、
・フランダースの犬
・母をたずねて三千里
・あらいぐまラスカル
・ペリーヌ物語
・赤毛のアン
・小公女セーラetc
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そう、ある一定の年齢以上の方々なら一度は目にしたことがあるであろう、「世界名作劇場」の作品群を作ってたんですよ。
・・あれ?
「アルプスの少女ハイジ」は?
と思った人もいるかもしれん。
そうね、これがちょっとややこしいところなんだ。
「ハイジ」は名作劇場っぽく見えるけど、実は名作劇場ではない。
なぜならこれを作ったのは日本アニメーションでなく、「瑞鷹」という会社だから。
でも、変にアニメに詳しい人ほど、こう思うはず。
確か、「ハイジ」を作ったのは高畑勲&宮崎駿で、「母をたずねて三千里」を作ったのも高畑勲&宮崎駿で、ほとんど同じ時代に同じメンバーで作ったアニメが各々違う会社名義になってのは、何かおかしくね?
ってね。
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それは、まさしくその通りである。
高畑さんも宮崎さんも元は業界最大手・東映動画(現東映アニメーション)の所属だった。
だけど、70年代頃の東映は経営陣と社員がごちゃごちゃしてて、いや、これは東映に限らず、どの会社でも似たようなもんだったと思うが、「全共闘」という反権力志向がこの時代にはあり、いわゆる左翼系のインテリが会社とモメることは普通にあったわけよ。
で、この70年代に東映を離れたのが高畑さん、宮崎さん、あと「日本アニメの神様」森康二さん、さらに小田部羊一さん。
この四人、おそらく当時の日本アニメ界における<ファンタスティック4>だったと思うのよ。
<高畑勲>東大フランス文学科卒、文芸のプロ
<宮崎駿>学習院大学時代から既にプロ漫画家
<森康二>日本美術学校(現東京芸大)卒、「神様」
<小田部羊一>東京芸大卒、絵画のプロ
もうね、この四人にまとめて出ていかれて、逆によく東映が持ち堪えられたもんだわ。
で、この四人がその後どこへ行ったのかというと、全員まとめて「瑞鷹」に移籍したわけさ。
これをもって、それまで大手でもなかった瑞鷹がいきなり日本トップクラスのアニメ制作スキルを所有しちゃったわけよ。
で、そこから生まれた名作というのがこれ↓↓
「アルプスの少女ハイジ」(1974年)
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うむ、これほどの名作を生んだ瑞鷹だというなら、そこはその後も興隆していくと誰しも思ったはずだが、それから社は瑞鷹/日本アニメーションという2派に分裂、前述の「ファンタスティック4」は皆、日本アニメーションの方に行っちゃうし、もとの瑞鷹の方は結局倒産しちゃうんだよね(後に製作会社として復活)。
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その瑞鷹も、もともとは「鉄人28号」などを作ってたエイケンから分離独立した会社である。
<エイケン>
※現在も存続
代表作品「サザエさん」
<瑞鷹>
※やがて倒産⇒今は製作会社として存続
代表作品「アルプスの少女ハイジ」
<日本アニメーション>
※現在も存続
代表作品「世界名作劇場」「未来少年コナン」「ちびまる子ちゃん」
この系譜、結構スゴイと思わない?
いわゆる<国民的アニメ>を一手に担ってきたラインであり、正統というか、高尚というか、「アニメとは、子供たちを健やかに育てる為にこそ存在するべき」という原点みたいなものがそこにあるわけですよ。
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このラインは、今のアニメの本流<マンガ>じゃなく、明確に<児童文学>寄り。
日本式ディズニー路線、とでも言うべきなんだろうか。
東映系とも、虫プロ系とも、タツノコプロ系とも、東京ムービー系とも少し系統が異なっている。
いまどきの若いアニメファンの目には、こういうのが「古い昭和の化石」のように映ってるのかもしれないなぁ。
でもさ、そう思っている人でも一回騙されたと思って、これらの原点というべき「ハイジ」を見てみてよ。
もうね、初めてこれを見たという人なら、まずそのクオリティのエゲツなさに鳥肌が立つと思う。
嘘やろ、70年代にこのクオリティはあり得ん、これリメイクやろ、と思ってしまうはずさ。
そのぐらい、「ハイジ」は完璧なんですよ。
よく、古いアニメを見てると現代アニメを見慣れてる我々の鑑賞眼では粗が気になってしまうものだが、でも「ハイジ」の場合はむしろその逆で、「今のアニメーターは、これと同じクオリティのものを果たして作れるのか?」と考えてしまうほどである。
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あぁ。これ昔見たなぁ、という人でも、できれば今改めて見てほしいね。
全52話を見る時間がないという人は、何なら総集編でも構いません。
総集編は、YouTubeで「alpus no shoujo heidi 1974 full movie」と検索すれば90分程度にまとめたやつが見つかるので、そちらをどうぞ。
聞けば、「ハイジ」は欧州でも普通に名作として今なお見られてるらしい。
で、これが日本のアニメだと気付かず見てる人が多いらしく、後で日本制作だと知って驚くそうだ。
つまり、それほどに本作は違和感なく欧州の風土が描かれてるということだよ。
確かに、当時小田部さんがかなり綿密に現地をロケハンしてたんだそうだ。
まぁ、これが<高畑勲イズム>ってやつだね。
徹底したリアリズムの追求。
で、これは小田部さんが軸になってキャラデザ/作監が施され、じゃ宮崎さんは何をしてたかというと、画面構成/レイアウトである。
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もうね、あらゆる点で「ハイジ」は完璧。
確か、宮崎駿もそう言ってなかったっけ?
今なお「ハイジ」を超えるアニメはない、とか言ってた気がするよ。
で、私がオトナになって「ハイジ」を見た時、驚いたのはロッテンマイヤーさん、あとハイジの叔母さんのキャラ設定だね。
このふたり、どっちかというと悪役っぽい役回りで、ロッテンマイヤーさんはハイジが精神的に病むところまで追いつめた人だし、叔母さんはハイジを嘘で騙して、お爺さんと引き離した狡猾な女性だった。
・・でも、これは今になって分かるけど、彼女たちって、決して悪い人たちじゃないじゃん?
「これは、あなたの為なのよ」と言って、嫌がる子供を無理やりねじ伏せることは、今なお世界中でオトナたちは誰しも普通にやってることである。
問題は、それが「あなたの為」と本気で思ってる愛情がベースか、あるいは単に詭弁か、その差だよね。
さすがは高畑演出だけあって、このへんのリアルさは「火垂るの墓」の叔母さんの時と同じ構造である。
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ロッテンマイヤーさんもハイジの叔母さんも、ただ普通に現実主義者なんだわ。
その価値観を強引に他者へ押し付けるから悪者っぽい印象を与えてしまうが、言ってることはそれなりに一理あるし、別に悪意がある行動というわけでもない。
でもまぁ、時代が時代ゆえ、今のリベラルな価値観で見ると少しあれだし、ちょっとばかりハイジに対して謝罪をしてほしくはあるけどね。
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で、この「ハイジ」をひとつの基礎として、やがて「世界名作劇場」第1弾「フランダースの犬」に繋がるわけだが、興味深いことにこの作品の制作の表記は<瑞鷹/日本アニメーション>となっている。
・・まぁ早い話、この作品の制作途中に社内クーデターが起きて、そこから日本アニメーションが立ち上がった、と見るべきなんだろう。
詳しい事情は知らん。
ただ、今「フランダースの犬」の版権は日本アニメーション、その一方で「ハイジ」の版権は瑞鷹という形になっている。
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1997年、日本アニメーションは「フランダースの犬」のリメイク版の映画を制作している。
なんと本作、TVアニメ本編の監督・黒田昌郎さんが監督をしてくれている。
よってこの映画、めっちゃいい出来なんだよ。
ぜひ、皆さんも一度ご覧になってみてください。
TVアニメ本編を視聴済みの人でも、<その後のアロアたち>という後日譚が挿入されてるので、一見の価値ありです。
その後、味をしめた日本アニメーションは、続けて「母をたずねて三千里」までリメイク劇場版を作ったわけだが、こっちの方は高畑さんも宮崎さんも小田部さんも絡んでおらず、案の定、うまいこといきませんでした・・。
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さて、近年は「ちびまる子ちゃん」「ぼのぼの」以外、これといってパッとしない日本アニメーションではあるんだが、でもね、一応ここの社長さんは「日本動画協会」というアニメ制作会社の連盟の理事長という立場なのさ。
<日本動画協会>
<理事長>:日本アニメーション
<副理事長>:手塚プロダクション/BNF(旧サンライズ)
<常務理事>:STUDIO4℃
<理事>
東映アニメーション、トムスエンタテインメント、Production I.G、
タツノコプロ、ぴえろ、シンエイ動画、A-1 Pictures、J.C.STAFFなど
こういう組織を見てると、なんか日本アニメーションは今なお業界に影響力持ってそうだねぇ・・。
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では最後に、日本アニメーションの近年の映画をご紹介して締めましょうか。
この映画、なかなか悪くなかったですよ。
考えたら、故さくらももこさんは1965年生まれだし、「ハイジ」(1974年)とか、それこそリアルタイムで見てた世代だろう。
だからなのかは知らんけど、本作においても<子供が老人と心を通わせる>という構図は健在なんだよね。
本作における最大のテーマは、<お爺ちゃん>だし。
ベースはギャグ系でありつつも、ちゃんと<日本アニメーションの文脈>、もしくは<瑞鷹の文脈>がそこにはある。
さすがは「ちびまる子ちゃん」、<国民的アニメ>の名をダテには名乗っていないよね。
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