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田中芳樹+出崎統=アニメ史上最強の俺Tueee!「創竜伝」

Production.I.Gのリメイク版「銀河英雄伝説」、最近また見てるんだけど、やっぱ面白いよね。
原作者・田中芳樹先生はつくづく偉大である。
あと、この先生は「アルスラーン戦記」の作者でもあり、このての戦記モノを書かせたら無双の作家だよなぁ。

ところで皆さんは、田中先生の「第三の代表作」として名を挙げられてる、「創竜伝」という作品を知ってますか?
実は、ちゃんとアニメ化もされてるんです。
しかし、アニメとしての知名度では「銀河英雄伝説」や「アルスラーン」の足元にも及ばないだろう。
それもそのはず、テレビアニメではなく、OVAとしてのアニメ化だったんだから。

OVA「創竜伝」(1991年)

これ、見たことある人、意外と少ないんじゃないかなぁ・・。
全12巻のOVAなんだが、何かややこしいことに監督の分業制みたいな制作をしていて、たとえば1~3巻の監督は出崎統、7~9巻の監督は鳥海永行(押井守の師匠)だったりするんだわ。
10巻ぐらいから急に作画のクオリティが下がってくるので全部を見る必要もないと思うが、未見の方には、せめて出崎節の冴えてる1~3巻だけでも見てもらえればと思う。
この1~3だけ、劇場公開されたらしいからね。
YouTubeで「legend of the doragonking」と検索すれば、全巻を見ることができます。

で、私がこの作品を興味深いと思うところは、作風が「銀河英雄伝説」や「アルスラーン」とは全く違うという点だね。
良い意味で、めっちゃ頭悪い作風なのよ(笑)。
「ラノベ的」といった方が伝わりやすいかな。

・・いや、まずはこの原作小説そのものが「ラノベ」なのかどうか、そこが難しいところだと思う。
小説が発表されたのは1987年。
まだ、ラノベという概念が世間一般には認知されてない頃の話さ。
一応、ラノベっぽいものは70年代から存在していたものの、ちゃんとそれらが浸透するようになったのは「ファンタジア文庫」や「電撃文庫」以降、つまりは90年代からである。

この小説、最初の挿絵、装丁画は天野喜孝さんだったのよ。
押井守「天使のたまご」の人だね。
ところが、文庫版になると、これですわ↓↓

はい、皆さんご存じのCLAMP
もう、この時点で完全にラノベ化したといっていいだろう。
「銀河英雄伝説」や「アルスラーン」はラノベじゃないけど、「創竜伝」はラノベである。
俺Tueeee!である。
どのぐらい俺Tueeee!のかというと、主人公4兄弟相手に核ミサイルで攻撃しても殺せません(笑)。
「銀河英雄伝説」とか見てて、田中芳樹って頭イイんだろうなと思ってた人も多いだろうが、別にそこは否定しないまでも、実は頭悪い系の引き出しはきっちり持ってる先生だね。
「創竜伝」は、菊池秀行先生や夢枕獏先生の路線の方にかなり近い。
私、こういう頭悪い系のダークファンタジーがめっちゃ好きでねぇ・・。

ちょっと残念なのは、このOVAが天野喜孝でもなくCLAMPでもなく、独自のキャラデザをしてしまったことかな。
何なら、CLAMPベースでリメイクとかすりゃ、今なら絶対ヒットすると思うんだけどなぁ?
ドラゴンの末裔である4兄弟が、日本政府、自衛隊、アメリカ政府、米軍、世界財閥などを相手に闘っていくという実に荒唐無稽なストーリーで、基本は、襲われる⇒撃退⇒襲われる⇒撃退、ひたすらそのループである。
まさにラノベ的世界観。
なろう系の原型というべき古典、といっていいだろう。
そのうち、Netflixあたりがリメイクしそうな気がするなぁ。

あと、田中芳樹先生の作品でもうひとつ、私が是非ともリメイク要望したいのがこれ↓↓

「薬師寺涼子の怪奇事件簿」(2008年)

これも、どっちかというと頭悪い系の作品である。
これまた、俺Tueeee系ですわ。
田中先生自らが「ストレス発散の為に書いた」というほど趣味に走った作品で、コアな文芸ファンからの評価はやや低いらしい。
筒井康隆「富豪刑事」に近い設定だね。
財閥の跡取り娘が警視庁の警視という設定であり、なぜかオカルト的な事件ばかりを扱うストーリーである。
たとえば、大蛇が出てきたり、人を狂わす蟲が出てきたり、人を襲う植物が出てきたりと荒唐無稽で、なかなかアニメ的。

実はこれ、動画工房が本格的に元請けの仕事を手掛けるようになった、その初期の頃の作品なんだよね。
しかし動画工房のくせに、この作品ではほとんど萌え要素がない。
モッタイナイ作品だなぁ、と思う。
ヒロイン・薬師寺涼子を、もう少し萌える系キャラデザにさえしておけば、結構ヒットしたかもしれないのに・・。

あと、このアニメはなぜか原作小説のエピソードをまるで使わず、ほぼ全部がアニメオリジナルだったらしい。
そのへんも意味がよく分からん。
何か事情があったんだろうけどさ。

なんかバブル時代のキャリアウーマンみたいなキャラデザだった、薬師寺涼子

でも、設定はホント良かったのよ。
デキる女捜査官、デキる部下、やたら戦闘力の高いメイド、その少数精鋭で巨悪と対峙するのは実に小気味よく、それこそ少佐率いる公安9課っぽさを感じさせる内容。
巨悪と対峙するという点においては、「創竜伝」と全く同じ。
田中先生って「銀河英雄伝説」や「アルスラーン」もそうだけど、やたらと権力サイドを悪者として表現する癖があるよね。
マトモな権力者とか、ほとんど出てこないし・・。

多分だけどさ、作家さんというのも全ての作品を等しく全力で書いてるわけじゃなく、めっちゃ気合い入れて書いてるやつと、肩のチカラ抜いて書いてるやつもあると思うんだわ。
田中先生の場合、前者に該当するのが「銀河英雄伝説」「アルスラーン」で、後者に該当するのが「創竜伝」「薬師寺涼子」といったところだろう。
前者が文芸的で、後者がラノベ/漫画的である。

・・うむ、むしろ後者こそ、アニメできっちりやるべきコンテンツのような気がするよ。
「薬師寺涼子」なんてラブコメ要素も強いし、最もアニメ向きの原作であるような気もするんだが?

そして「創竜伝」の方は、今年、ドナルド・トランプが真面目に公約として言及してた、例の「ディープステート(闇の政府)」というやつ、そういう「権力の闇」というのをモロに真正面から描いた作品である。
ある意味、危険な作品だ。

「創竜伝」

ちなみに上の画が、アメリカのディープステートの面々なんです。

「ロックフォード」⇒ロックフェラー
「マリガン」⇒ミリガン
「ミューロン」⇒メロン
「デュパン」⇒デュポン

全くメタファーになってないじゃん(笑)。
まぁようするに、四大財閥=ディープステートという超単純な描き方だったんだけどね(なぜカーネギーが入ってないのかは謎)。
彼らがホワイトハウスもペンタゴンもCIAも、そして日本政府も意のままに動かしてるという、かなり露骨ともいえる描き方だった。
さらに、その上には「人ならざるもの」の存在もあり、割と「ワンピース」の五老星⇔イム様に近い権力構造。
とてもマンガ的でしょ?

で、主人公4兄弟は各々ドラゴンに変身できるというカイドウみたいな設定で、米軍と真正面から闘ったりするわけです。
なんと大味なプロットだろう・・(笑)。
「銀河英雄伝説」や「アルスラーン」に見るような戦術の緻密さは、まるでありません。
いや、逆にそこを楽しんで下さい。
ドラゴンは真正面からアメリカに飛び込んで、そのままペンタゴン、CIA、米国家安全保障局、みんなブッ壊したから。
いまどきのなろう系にすら、ここまで思いきりのいい俺Tueeee!はできないだろう。

きっと、日本アニメ史上最強の俺Tueeee!である。


いいよなぁ、バブル期のアニメって・・。
色々な意味で怖いモノ知らずというか、不況下の今の日本では表現できないものがあの時代のコンテンツにはある。
そして、そのメッセージ性は意外にも「銀河英雄伝説」や「アルスラーン」と共通してるんですよ。

とにかく一見の価値はあるので、「創竜伝」、そして「薬師寺涼子」、是非ご覧になってみて下さい。
スカっとするよ。


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