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上映禁止を食らった日本アニメ史屈指のカルト作「少女椿」
今回は、アニメ「地下幻燈劇画 少女椿」を取り上げてみたいと思う。
いわゆる「カルト作」というやつだね。
同タイトルで2016年に実写映画化されてるので、そっちの方を見た人は結構いると思うが、1992年に公開されたアニメ版の方を見てる人は少ないんじゃないか、と。
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この「少女椿」アニメ版がいまいち注目されない要因は、ただ単純にDVD化されてないことと、サブスクでも配信されてないことに尽きるだろう。
これは自主制作映画で、もともとマイナー作品である。
じゃ、なぜ「カルト作」になったのかというと、実はちょっと色々あったんですよ。
【1999年】
<サン・セバスチャン ホラー&ファンタジー映画祭(スペイン)出品>
⇒帰便の際、成田税関にてマスターテープが没収/破棄
⇒国内輸入および国内上映禁止処分
【2004年】
<東京国際映画祭出品/特別上映>
⇒ファン投票 第1位を獲得
⇒同年以降、8年間の上映禁止処分
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・・どんだけ上映禁止食らっとんねん(笑)
でもまぁ、今はようやく「解禁」となってるわけで、マスターテープは一度破棄されたけど、別ネガが倉庫から発見されたらしく、そのニュープリント版が幸いにも視聴可能となっています。
YouTube等でタイトルを検索すれば普通に無料動画が見つかるはずなので、興味ある人はどうぞ。
ただ、エログロに耐性がない人はやめといた方がいい。
断じて、楽しいアニメじゃないから・・。
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さて、本作がなぜこれほど上映禁止を食らったのかというと、まずひとつは児童ポルノに抵触した説があって、まだ中学生程度のヒロインがオトコたちに凌辱される光景は見るに耐えんし、あと彼女が住み込みで働く職場というのが「見世物小屋」で、彼女を取り囲む者のほとんどが、体に欠損や異常を抱えた異形(遺伝子異常?)なんだよね。
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こういうの、倫理的にかなりデリケートな部分である。
社会的弱者ばかりのコミュニティが、その中でより弱い者を標的にして虐待を繰り返していく様はホント不快としか言いようがない・・。
でもね、個人的にはできるだけ見てもらいたいと思ってるんですよ。
今は、誰しも「自分が見たいモノだけを見る」時代。
だから多くの人たちが、汚いモノは徹底して見ない。
醜いモノは見ない。
みんな綺麗なモノだけ、オシャレなモノだけを視界に入れ、ほら、セカイはこんなに美しいでしょ、という幻想に引きこもってる時代。
いやいや、こういう時代だからこそ、「少女椿」みたく醜い作品が逆にその価値が高まってきてると私は思うんだよね。
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もともと、これは原作漫画からして「カルト作」。
作者は丸尾末広という人で、その筋ではカリスマともいえる漫画家である。
そして本作は、官能劇画誌「漫画エロス」に1983~1984年連載されてたものらしい。
・・おいおい、80年代にしては↑↑の画風は古臭すぎないか?と感じるだろうが、これはそういう狙いである。
この時代、既に鳥山明、江口寿史、高橋留美子といったところが「キレイでカワイイ」路線をしっかり作ってたからね。
丸尾先生の作品は、そういう時代の明るさが作る影のような位置付けだったと思う。
で、こういう特殊な作風の作家たちのことを、当時は「ガロ系」と呼んだりしてたわけです。
ガロ系、これは70年代に一世を風靡した漫画月刊誌「ガロ」から派生した、アングラ系、オルタナティブ系の作家性を指す概念である。
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<主な「ガロ系」の作家たち>
・白土三平
・つげ義春
・丸尾末広
・花輪和一
・根本敬
・蛭子能収
・しりあがり寿etc
・・そうそう、「ちびまる子ちゃん」に丸尾君と花輪君っているでしょ?
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どうやらこれ、
丸尾君=丸尾末広先生
花輪君=花輪和一先生
から名前を拝借してるらしく、さくらももこ先生は密かにガロ信者だったんだね。
多分、押井守もガロ系が好きだったんじゃない?
最近「ぶらどらぶ」の中で、思いっきりつげ義春先生のオマージュやってたし。
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ガロ系は「不条理」「エログロ」というのが多かったのよ。
「??」となっちゃう理解不能なものや、あるいは思わず目を背けたくなるような猟奇など、決して売れセンにはなり得ないものだけに、上記の先生方の漫画って、そのほとんどがアニメ化されてないんだよね。
大手の東映アニメーションにしてみりゃ、目指すべきところの真逆に位置するカルチャーだろうし・・。
だからこそ「少女椿」アニメ化にも大手資本が一切絡まず、結局は自主制作アニメという形になっちゃったわけさ。
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じゃ、その作った人は誰なのかというと、原田浩さんという人物さ。
この人は1962年生まれだから、庵野秀明の2コ下、幾原邦彦の2コ上といったところ。
ちなみにだが、庵野監督「エヴァ」綾波レイのキャラ設定原型が「少女椿」ミドリという説があるし、また「少女椿」の音楽を手掛けたJ・A・シーザーは、その後すぐ幾原監督「少女革命ウテナ」に絡んできたわけだし、意外とこの作品が90年代サブカルシーンに与えた影響はデカかったんじゃない?
でね、この原田監督は1986年、「ぴあフィルムフェスティバル」という自主制作映画のコンクールに入選してるわけよ。
ただ、このコンクール、基本は実写のコンペなんだわ。
アニメで臨んだのって、当時は原田さんぐらいだったんじゃない?
同年、彼と並んで入選した中に、あの園子温がいたりしたわけだが・・。
で、その時の原田さんの入選作が「二度と目覚めぬ子守唄」というやつで、これがまたキッツ~いアニメなのよ。
どれほどキツいかって、そのサワリの2分ほど、ちょっと映像を見てもらいましょうか。
(YouTubeには、フル動画がアップされてます)
・・正直いって、アニメーションとしてのデキは酷いもんですよ。
作画枚数が足りなくて、なんか紙芝居みたいになってるし。
自主制作だけにしようがないともいえるんだが、ただ、
「構図」だけは鳥肌が立つほどにサイコー!
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そのへんは「少女椿」にも同じことがいえるわけで、原田監督は「構図」の天才かもしれないよね。
で、この「二度と目覚めぬ子守唄」もまた<弱者に対する虐待>がテーマになっていて、見てて不快極まりないものである。
この主人公は容姿が人と少し異なり、そのせいで日々学校で虐待を受けてるような子。
どうもこの子は肉体に遺伝子異常があるようで、その異常の要因となったのが「公害」であるっぽい描写なんだよね。
物語の舞台は高度成長期、60~70年代だろう。
この作品は、その高度成長期の「光と影」を残酷な形で描いてるわけさ。
何か、ガロっぽいよなぁ~。
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でさ、こういうのって誰しも見たくはないものだよね?
見たくないから、見ない。
できれば、見たいものだけを見て生きていきたい、と。
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でも仮に皆がそういうスタンスでいったら、セカイに「影」ってどこにも存在しないことになってしまうでしょ?
もちろん「影」は身近にあるんだが、誰もそこに目を向けようとしない。
誰も見ないんだし、結局は無いのと同じこと。
本来怖いことだよね、そういう構造って・・。
だから私、「見たくないモノを敢えて見せようとする作家」って、この世に絶対必要な存在と思うんだよなぁ。
経済原理からすると、ジャンプは興隆するが、ガロは淘汰されていくものである。
実際、廃刊になったし・・。
ただ、仮にガロという雑誌が消えても、私は「ガロ系」という文化までもが消えてほしくはないんだよね。
たとえ人気はなくとも、誰か細々とでもこの系譜を繋いでいってほしいものである。
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まずは、「ガロ系」の代表的コンテンツとされてる「少女椿」、これをまだ未見の方は見るところから始めようじゃないか。
見れば少しばかり鬱になるかもしれんが、その鬱にも私は価値があると思うから。
鬱なんてイヤッ、24時間ハッピーでいたい、24時間楽しいことだけを考えて生きていきたい!といったところで、セカイはそこまでお花畑じゃないからね。
たまには醜いモノを見ようよ。
不快なモノも見ようよ。
もちろん、こういうのを嫌うのも私は全然OKだと思うし(というか、その方がマトモな感覚だよ)、ただそう結論付けるには、ちゃんと見なくては話が何も始まらないんです。
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