日本で唯一、生命科学に踏み込んだ和風ファンタジー「蟲師」
久しぶりに「夏目友人帳」の新章がアニメ化されたのは嬉しいことである。
見たけど、相変わらず安定感がスゴイ!
もはや、日本の宝といっていいだろう。
この系譜は、「まんが日本昔ばなし」や「ゲゲゲの鬼太郎」に端を発してるものだろうが、その流れは「もののけ姫」や「千と千尋」を経由し、今では「鬼滅の刃」や「呪術廻戦」に至り、もはや最も儲かる市場にまで成長している。
こういうの、和風ファンタジーという呼称が正しいのかな?
最近では、NHKでやってた「烏は主を選ばない」とか、めっちゃ良かったね。
このてのジャンルは名作がホント多んだけど、仮に「ファンタジーワールドカップ」みたいな公式世界選手権が開催されたとして、その大会に出場する「日本代表」を選考しなくてはならなくなった、と想定してみよう。
皆さんなら、日本代表に何を選ぶ?
まぁ、「映画部門」ならジブリ作品のいずれか、だろうね。
これまでの国際的反応からして、「千と千尋」あたりチョイスされる可能性が一番高いんじゃないだろうか。
じゃ、「TVアニメ部門」は?
こっちは、色々意見が分かれるだろう。
で、仮に私なら何を選ぶかというと、これはね、もうほぼ一択ですわ。
「蟲師」シリーズです。
なぜ「蟲師」をチョイスするかというと、ただ純粋にアニメとしての完成度が高いんですよ。
映像、音楽、声優、演出、全てにおいてここまでパーフェクトな例は極めて稀である。
ほぼ完璧といっていい。
そういや、ファンタジー界におけるここ最近のルールは、評価基準の単位を「太郎」で表すと聞く。
説明すると、「異世界はスマートフォンとともに」のアニメとしての完成度を「1太郎」という基準値にするんだ。
これは相対評価の単位である。
ちなみに、「蟲師」は100太郎ほどいってると思う。
なお、公式な評価としても↓↓
<日本のメディア芸術100選>文化庁選定
【1位】新世紀エヴァンゲリオン
【2位】風の谷のナウシカ
【3位】天空の城ラピュタ
【4位】機動戦士ガンダム
【5位】ルパン三世 カリオストロの城
【6位】蟲師
【7位】攻殻機動隊SAC
【8位】となりのトトロ
【9位】鋼の錬金術師
【10位】GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊
という、錚々たる名作の中で堂々6位入賞を果たしており、「不朽の名作」認定されてるのは間違いないだろう。
何より、これは原作漫画があまりにも凄すぎるんですよ。
これの原作者、漆原友紀先生とは一体何者なんだろうか?
メディアにほとんど露出してないミステリアスな存在であり、分かってるのは女性だということぐらいかと。
かなり寡作な人だと思うし、「売れっ子になったるで~!」みたいな意思を全く感じない。
いや、マジで「蟲師」みたく日本あちこち流浪の旅とかしてても不思議じゃない印象の先生である・・。
そういや、あの大友克洋先生がこの「蟲師」の実写映画を監督してたよね。
ぶっちゃけ、この実写映画自体はさほど評判よくないんだが、それよりあの大友先生が「蟲師」を映画化したこと自体がスゴイと思わんか?
大友先生って、完全にSF畑の人じゃん。
それが、こういう和風ファンタジー畑に踏み込んできたことそのものが特殊なんですよ。
・・そう、「蟲師」はかなり特殊な作品なんだ。
本来、こういう和風ファンタジーというのは「民俗学」がベースになるものである。
柳田國男(「遠野物語」著者)とか、そっち系ね。
もちろん「蟲師」もそれの例外ではないにせよ、ただこの作品の場合、それに加えて生命科学、生態学といった理系の分野にかなり深く踏み込んでるんだわ。
こういうのは、他の和風ファンタジーにはほとんどない。
まず、この「蟲」↑↑なるものの描写が実に素晴らしい。
蟲は我々の知る「虫」とは違うし、ウイルス、細菌とも違う。
完全に架空の生命体であり、一般の人間には目視不可能。
地球の生命エネルギーそのもの、といった方が近いだろう。
イメージしやすくいうと、「エヴァンゲリオン」における赤い海、あれはL.C.L.という生命のスープなんだが、「エヴァ」ではこういう感じの液状なのに対し、「蟲師」では主に気体っぽく浮遊していると考えてもらえばいいのかと。
地上で最も古い、原始生命体なのかもしれん。
かなり様々な種類に分岐してるようで、そこには明確に生態系がある。
「光脈」「光酒」「ヌシ」「理」など色々メカニズムのキモがあるんだが、このへんが分かってくると「蟲師」はめっちゃ面白くなってくるのね。
そこはファンタジーのくせに妙にロジカルで、他のファンタジー作品によくありがちな「何でもあり」の世界観では断じてないんだ。
必ず、そこには摂理があるから。
主人公のギンコは、いうなれば蟲専門の科学者、医者みたいな立場である。
決して妖術のようなチート技を使う系じゃなく、ただ事象を観察し、過去の症例を照会し、事象の本質を見極めた上で薬等を使って対処する、ただそれだけである。
優秀だけど決して万能ではないので、ハッピーエンドもあればバッドエンドもあるし、そのどっちでもなく均衡を保つ、みたいなオチも結構多い。
これは間違ってるかもしれないけど、西尾維新先生の「物語」シリーズ忍野メメは、ギンコのキャラを参考にしたんじゃないかな?
ギンコが「阿良々木君、何かいいことあったのかい?」といっても、なんら違和感ないと思うよ。
基本、1話完結で時系列も特に関係ないので、どこから見ても構わない作りになってるんだが、ポイントとして押さえておくべき回は以下の通り。
1期12話「眇の魚」ギンコの過去回
1期20話「筆の海」ヒロイン・狩房淡幽登場回
1期26話「草を踏む音」ギンコの過去回
2期11話「草の茵」ギンコの過去回
特別編「日蝕む翳」狩房淡幽登場回
特別編「棘の道」狩房淡幽登場回
やっぱり「蟲師」は、<ギンコ⇔狩房淡幽>を軸に見ていくべきだね。
狩房淡幽というのは、天変地異を起こす最凶の「禁種の蟲」を自らの体内に封印しながら生きてる、狩房家(封印の名門)四代目。
その体内の蟲を封じることが生涯の責務で、めっちゃ可哀相な宿命である。
そういや、「Fate/staynight」の名門・間桐家も、蟲を体に寄生させる家系だったっけ。
で、そういう体のせいで一ヵ所から身動きのとれない淡幽と、それと対照的に「蟲を寄せる体質」から長く一ヵ所には留まれないギンコ。
この2人を見てると「付き合っちゃえよ!」」といつも思うが、互いの事情で絶対に無理なんですわ。
なんか切ない・・。
なお、上に挙げた回は面白いから選んだわけでなく、ただ単にギンコの遍歴が分かりやすいので選んだまでのこと。
面白いといえる回はもっと他にもたくさんあるので、挙げればキリがない。
というか、「蟲師」に面白くない回はない。
特に個人的にお気に入りなのが2期12話「香る闇」で、これは
まさかの「タイムループ」回(笑)‼
時々、SFっぽいのをぶっこんでくるんだよね。
というか、「蟲師」は和風SFと称していいのかもしれない。
何か、文系というよりは理系テイストの方が強いから。
文系なら魑魅魍魎、得体の知れないアヤカシの領域なのに対し、「蟲師」の蟲はどっちかというと「現象」、全てが有機的メカニズムなのよ。
私、思うんだが、我々の肉体に宿る魂、「攻殻」的にいえばゴースト、その類いのものって、実は「蟲」の寄生かもしれないよね。
そもそも人間と獣の違いは知性だが、なぜ人間だけがこんなふうになれたのか?
人類は、我々ホモサピエンス以外にもネアンデルタールをはじめ複数の種が誕生したらしいけど、どの種も大体が同じ時期、しかも、大体が同じエリア(アフリカ)で誕生したらしいぞ。
こんなのはダーウィン進化論で説明するにはちょっと無理あるし、ロジックとして「局地的な何かに霊長類がこぞって感染した」と考えた方がツジツマ合うんだ。
で、その「感染したもの」が肉眼では確認できない「蟲」で、それが我々でいうところの「魂」や「自我」の実体だとしたらどうだろう(自我の無い獣には寄生してないってことね)。
私は魂って、突き詰めれば科学で説明のつく寄生型知的生命体と思うんだがなぁ。
そう思わせてくれたのが、このアニメ、「蟲師」である。