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「ワンピース」を読み解くカギは、出崎統版「宝島」にあり
世に「レジェンド」という言葉があるけど、この言葉を冠するに値する人物というのは、正直さほど多いわけではない。
たとえば漫画の世界でいうなら、手塚治虫先生と、その手塚先生ゆかりの「トキワ荘」メンバー。
石ノ森章太郎、藤子F不二雄、藤子不二雄A、赤塚不二夫etc
アニメの世界でいうなら、これも手塚先生ゆかりになっちゃうんだけど、「虫プロ」メンバー。
杉井ギサブロー、りんたろう、出崎統、高橋良輔、富野由悠季etc
この「虫プロ」のレジェンドの5名が集ったパネルディスカッションという貴重な映像があるので、ひとつご覧いただきたい↓↓
5名個々のキャラクター、および上下関係がよく理解できて、なかなか興味深いよ。
富野由悠季、高橋良輔両名が、りんたろうさんにめっちゃ叱られてた場面が妙にウケる(笑)。
しかしまぁ、漫画界にせよアニメ界にせよ、どちらも手塚先生に近いところから才能が湧いてくるという共通の構図が興味深いよね。
「弟子」というわけではなかったと思うが・・。
虫プロが最初に手掛けた連続TVアニメ企画、「鉄腕アトム」のことは皆さんもよくご存じだろう。
では、その後に虫プロが手掛けた日本初の1時間TVアニメ企画はご存じだろうか?
これである↓↓
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この「新宝島」という作品、皆さんは見たことある?
スティーブンスンの名作児童文学「宝島」を、手塚先生がTVアニメ用に翻案したという作品。
1時間程度の短い作品で単発モノだからハードル高くないし、虫プロ黎明期のアニメとはどんなものかよく分かる内容なので、暇があったら見てみたらいいよ。
まぁ、さほど面白くはないけど(笑)。
それより、皆さんに見てもらいたいのは、こっちの方さ↓↓
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これは、出崎統さんが手掛けた東京ムービー版「宝島」である。
出崎さんは虫プロ「新宝島」の時にも原画スタッフで携わってたということもあり、このスティーブンスンの児童文学を自らの手で・・、という思いがあったのかもしれない。
手塚先生はこの古典文学を動物擬人化という形で改変したけど、出崎さんの改変はさらに大胆で、なんと悪役・ジョンシルバーを主人公の一角に据え、少年ジムホーキンスとのW主人公体制という画期的なプロットを作ったんだよ。
この発想からして、ホント出崎さんって天才。
おそらく、このジム⇔シルバーというコンビが、後の「ワンピース」ルフィ⇔シャンクスのモデルになってると見て間違いないだろう。
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「ワンピース」にて、シャンクスがルフィを救助する為に自らの片腕を犠牲にしたくだりは有名だが、「宝島」でもシルバーはジムを救助する為、賊の銃撃を食らって生命の危機に陥ったりもしたわけよ。
じゃ、シルバーは「いい人」なのか?
いや、彼は「海賊」である。
人を欺きもするし、時には冷酷に人を殺したりもする。
じゃ、彼がジムに時折見せる、あの優しさは一体何だったのか?
作中に、その答えは最後まで明確に示されることはなく、「それは皆さんで考えてみてください」と視聴者に委ねてる感じかな。
とにかく、このジョンシルバーという男の考えてることは、実のところ最後の最後までハッキリとは分からない。
このへんのキャラクター設定が、かなり「ワンピース」シャンクスに近い。
いかにもシャンクスは「いい人」っぽく見えるが、でも多分、そんな易しいキャラじゃないよね。
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「ワンピース」ファンの人は、ひとつの参考書、いうなれば「ワンピース」を読み解く副教本として、この「宝島」だけは絶対に押さえておくべきだと思う。
もし、尾田先生がジム⇔シルバーを叩き台にルフィ⇔シャンクスを描いてるのだとすれば、そこから類推できる今後のルフィ⇔シャンクスの展開は
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①敵対し、闘う
②しかし、共通の目的(財宝)の為に一時休戦、協力関係をとる
③財宝発見
④シャンクスが財宝の一部をもって、どこかに姿をくらます
⑤10年後、ルフィとシャンクスは偶然再会
ということになると思う。
ちなみに、上の①~⑤というのは、「宝島」におけるジム⇔シルバーの顛末である。
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まぁ、尾田先生のことだからここまで出崎版の丸パクリにはしないだろうし、もっとヒネってくるとは思うけどさ。
だけどホント、出崎版「宝島」は非常にクオリティ高いアニメだと思う。
1978年制作ということもあり、出崎さんがめっちゃ脂の乗ってる時期なんだよ。
だから出崎演出がキレッキレだし、あとは相棒・杉野昭夫さんの作画もまた神レベル。
特に私は第25話が好きで、この回、主要キャラのグレーがシルバーを相手になぜか「ボクシング」で挑むのよ。
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これ、どう見ても グレー=矢吹丈 シルバー=力石徹 なんだよね(笑)。
こういうのって、出崎さんなりの遊び心というか、一種のサービス回だったのかな?
とにかく、めっちゃ面白い。
あと、個人的に面白いなと思ったのが、ジムと彼の幼馴染みのリリー。
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幼い頃はこんな感じでほのぼのタッチだったのに、10年後のシーンでは
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いきなり、タッチが変わりすぎやろ(笑)。
太陽眩しいし・・。
こういう出崎統的ノリ、ホントにタマりませんよ。
あとさ、この作品は児童向けと侮るなかれ、めっちゃ人が死ぬからね。
最初30人ぐらいいたメンバーも、最後まで生き残ったのはせいぜい10名前後だもん。
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思えば、虫プロのレジェンドたちって、みんな作中でめっちゃ殺すよね?
富野由悠季といい、高橋良輔といい、りんたろうといい、揃って残酷な作風が多い気がする。
これは、虫プロの対抗馬、東映アニメーションの作風に対する差別化という意味なんだろうか?
そういや、「ワンピース」は東映アニメーションの作品なんだけど、
ルフィって海賊のくせに、全然人を殺さないよな?
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そこはね、ちゃんと「東映」なんですよ。
出崎版「宝島」とは違う。
思えば「宝島」は、「ワンピース」より遥かに海賊の描写がリアルである。
海賊の内部での裏切り、反乱とかがめっちゃ多い。
そりゃそうだろう。
もともと海賊なんてのは、法や秩序のある社会で適応できないから海に出たような輩であり、組織内の上下関係やら掟やら忠誠やらを守るのに長けてるはずがないのよ。
だからこそ、ちょっと不満が溜まれば、それこそソッコーで裏切ろうとするものだろう。
だけど「ワンピース」なんか見てると、驚くほど海賊内部の裏切り、反乱が少ないんだよね。
まだ、麦わらの一味のようなアットホームなところなら分からんでもないが、どう見ても黒ひげ海賊団なんて、あんな狂人揃いのところが不和もなく組織が機能してること自体が少しおかしい。
思えば、カイドウの海賊団もそうだったよな?
カイドウなんて、上司として尊敬できる部分など1ミリもなかった。
とても人望があったとは思えん。
単なる圧倒的暴力の恐怖支配にすぎなかった。
それでも、あれだけ盤石の組織だったことがワケ分からんのよ。
普通、ああいう組織って自滅しないか?
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そのへんでいうと、「宝島」の描写は実にリアルである。
シルバー率いる海賊団もまた、シルバーの圧倒的力による統制が基本だったものの、それでも目先のことしか考えない愚かな手下どもは、再三シルバーに対して反旗を翻すんだわ。
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結局、彼の海賊団は自滅してしまった・・。
自業自得である。
彼らが組織の秩序を保ちさえできてれば、ほぼ間違いなく宝島の財宝は全て彼らが独占できていたことだろう。
でも、そうはならず、時に彼らは仲間同士で殺し合いをする始末。
「ああ、これこそ海賊の正しい姿だな・・」と思ったよ(笑)。
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ちなみに「宝島」では、ちゃんと財宝は発見されます。
この正典の展開を見るに、「ワンピース」でもちゃんと「ひとつなぎの財宝」は発見される、と見るべきだろう。
「宝は私たちの心の中にあった」みたいな精神系のやつじゃなく、ちゃんとモノとしての財宝がね。
尾田先生は、絶対「宝島」を基礎に据えてるはずだから。
いよいよ「ワンピース」も大詰めに入ってきたことだし、やはりここは正典のおさらいをしとくべきかと。
「宝島」は色々あるけど、やはり出崎版がダントツで面白いのは間違いない。
超おススメだよ。
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