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「ブラック☆ロックシューター」を再評価しよう!

今回は、「ブラック☆ロックシューター」について書いてみたい。
これ、結構ややこしい作品なんだよね。
アニメとして、3種類ある。

①OVA「ブラック☆ロックシューター」
脚本:谷川流(2010年)

②ノイタミナ「ブラック☆ロックシューター」
脚本:岡田麿里(2012年)

③令和版「ブラック☆☆ロックシューターDAWN FALL」
脚本:深見真〔2022年)

私は、①~③全てを見てるんだが、この中で最も有名なのは②のノイタミナ版だと思う。
むしろ、②しか見たことない人の方が多いんじゃないかな?

・・う~ん、それが問題なんだよねぇ。
というのも、この①~③の中で②こそが最もややこしい「応用編」みたいな作りだから。
基礎をすっ飛ばしていきなり応用編を見せられ、「??」となった視聴者は多かったに違いない。
本来なら、まずは「基礎編」を見るべきでしょ。
で、その基礎編というのは、①なの?

・・いや、違う。
ここでいう基礎とは原作のことであり、

それは漫画でもラノベでもゲームでもなくて、実は「歌」なんだよ。


まずは「ブラック☆ロックシューター」の出発点となった、その歌をご紹介するところから始めよう。
もちろん、初音ミクが唄ったこれのことね↓↓

これはsupercellが2008年にリリースした、「ブラック☆ロックシューター」という曲。
これが全ての出発点なんですよ。
いや、もっと厳密にいうなら、supercellメンバーのhukeさんが描いたという上の画の美少女キャラこそが「原作」で、同メンバーryoさんがこのキャラに着想を得て曲を作ったところ、当時ニコニコ動画でめっちゃ人気になったとのこと。
で、後にこれがアニメへと発展していくんだけど、こういう「歌が原作」というパターンも当時として珍しかったと思う。

①OVA版「ブラック☆ロックシューター」(2010年)

で、これがアニメ化の第1弾、OVA版である。
まず「??」と驚くのは、例の女戦士っぽいキャラでなく、いきなり普通の女子高生がメインキャラになってるという変化球っぷりだよね。

・・うん、こうなった詳しい経緯は分からないんだけど、でもこれが脚本家谷川流先生(「涼宮ハルヒ」著者)なりの「独自解釈」だったんだと思う。
谷川先生は、ブラック☆ロックシューターという美少女キャラを「虚の世界の戦士」と定義付けたわけよ。

「虚の世界」とは?
それの詳細はよく分からないにせよ、おそらく谷川作品の「涼宮ハルヒ」に出てくる「閉鎖空間」に近いイメージだと思う。

「涼宮ハルヒの憂鬱」における「閉鎖空間」

この「閉鎖空間」は、ハルヒに心的負荷がかかると発生する異次元のようなもので、なんかモンスターのようなのが暴れまくってる感じ。
あの概念を「ブラック☆ロックシューター」に持ち込んだんだね。
実はこのOVA、かなり完成度が高い。
未見の方は、YouTubeに無料動画アップされてるし、是非ご覧になってみてください。

②ノイタミナ版「ブラック☆ロックシューター」(2012年)

で、上記①OVA版を「原作」として作られたのが②、ノイタミナ版である(おそらくsupercellの曲が原作ではなく、谷川版を原作としてるのかと)。
これもまた、①を見た岡田磨里さんなりの「独自解釈」だったんだと思うよ。
実に岡田さんらしいアレンジである。
この人は女子の繊細な心理描写、特に闇の描写が十八番だから、がっつりとそっちの方にプロットのメインを絞り込んだ感じ。

特に「岡田さんらしいなぁ・・」と思ったのが、OVA版にも出てきたユウというキャラである。
正直、OVA版は尺の問題もあって、ヒロインのマト⇔ヨミの関係性にのみストーリーを絞り、ユウはあくまでサブキャラの位置づけだったんだよね。

OVA版におけるユウ(左)

だが、このOVA版はなぜかラストシーンでユウの表情を敢えて描かないという不穏な作画で、「次はユウが闇落ち?」と匂わせたエンディングだったのよ。
前作でこんなことをやられて、あの岡田さんがこういうのを拾わないわけがないわな(笑)。
当然のごとく、ノイタミナ版ではユウが作中の最重要キャラに昇格。

ノイタミナ版におけるユウ

いやね、どう考えても岡田さんがこのユウに対して過剰に感情移入してるっぽく、お陰でかなり設定が複雑になってるのよ。
実際「ノイタミナ版は話が解りにくい」という声もあり、その理由の多くはユウの設定に原因があると思う。
これを見て「ブラック☆ロックシューター」は難しいアニメと誤解をした人もたくさんいるだろうけど、いやいや、違いますって。
これは、あくまで「岡田磨里色に染まったブラック☆ロックシューター」であり、これがこのコンテンツの本質というわけでもあるまい。

・・ということを踏まえ、敢えて原点回帰したといえるのが③令和版です。

③令和版「ブラック☆☆ロックシューターDAWN FALL」(2022年)

この③は、①も②も一回全部忘れ、もう一度supercellの原典に戻った感じ。
もはや女子高生など一切出てこず、ポストアポカリプス系のアクションSFになってましたわ。

この企画立ち上げの中軸になったのは脚本家の深見真さん(「魔法少女特殊戦あすか」原作者)で、この人は美少女アクションのスペシャリスト。
よって、これまでの思春期云々とかをすっぱり切り捨て、とにかく美少女がが躍動するアクションを!と開き直った感じだね。

ちょっとサワリだけ見てもらおう↓↓

アクションの量でいうと、間違いなくシリーズ最大値かと。

①や②ではほとんど喋らなかったブラック☆ロックシューターだが、③では寡黙ながらも、そこそこ喋ります。
cvは「寡黙のスペシャリスト」こと、石川由依さん。
うむ、石川さんはイイ・・。

で、この③は頭からっぽにしてアクションをただ楽しむ系のアニメであり、「面白い」という意味ではシリーズNO.1かもしれん。
ただし、めっちゃ残酷な話だったりもします。
思えば②も相当に残酷だったけど、あれは女性作家らしい残酷描写だったのに対し、今度のは逆に男性作家らしい残酷描写だよ。

特に胸糞悪かったのが、中ボスのコイツ↓↓

「ブラック☆☆ロックシューター」スマイリー

こいつは敵の幹部で人工生命体なんだが、やってることは人間のオンナノコを拉致してきて洗脳、そして「種付け」というおぞましいキャラである。

多分岡田磨里なら、こういう脚本は書くまい。
で、下の画の子はメインキャラの1人(平和構築軍大佐の娘)シャーロットだけど、この子は完全に洗脳、「種付け」済みでスマイリーの忠実な配下になっちゃってるわけさ。

シャーロット

こういうストーリー展開って、結構キツいよね・・。
美少女が鬼畜に犯されて調教されるって、なんか凄くイヤだ。
よって本作は好き嫌いが分かれると思うが、まぁこれも原作が「歌」でしかないわけだし、その表現の自由度は漫画/ラノベ/ゲーム原作モノに比べりゃユルいものだと思うよ。

「歌」原作のアニメシリーズって、どうしても作品イメージの統一性が難しくなるよな?


じゃ、皆さんは「ブラック☆ロックシューター」同様、「歌」が原作であるマルチメディア企画、「カゲロウ プロジェクト」というやつを知ってますか?
これもまた、じんというクリエイターのニコニコ動画公開の楽曲の人気から全てが始まったわけよ。

じゃ、その代表曲「カゲロウデイズ」「人造エネミー」をどうぞ↓↓

こっちは「ブラック☆ロックシューター」と少し違い、歌詞そのものに物語性があるんだよね。
曲を全部聴くと、ひとつの物語全貌が見えてくる感じ?
で、このシリーズは当時ニコ動で十代少年少女を中心に爆発的人気を博したらしい。
で、2014年にはアニメ化。

「メカクシティアクターズ」(2014年)

これは制作がシャフトで、新房昭之演出バリバリのやつだし、見た人は結構多いと思う。
このアニメの最大のポイントは、原作者じんさん自ら脚本を書いてるということ。
ここは「ブラック☆ロックシューター」との決定的な差である。
じんさん主宰の「カゲロウプロジェクト」は音楽、小説、漫画、アニメなど全てのジャンルを包括するという、ちょっと規格外のマルチなんだよね。

「カゲプロ」じん

まぁ、ここまでデキる人って、そうそうおらんでしょ。
普通は「ブラック☆ロックシューター」パターンだと思うよ。

というか、私としては各クリエイターが独自解釈を好き勝手繰り広げていくという、「ブラック☆ロックシューター」パターンの方にむしろ魅力を感じてるんだけど。
実際、同シリーズは各脚本家のイマジネーションが各々バラバラで、やっぱ面白いじゃん?
皆さんも①~③を見比べてみて、どれが一番好きかを考えてみてください。
私は、意外と②が嫌いじゃないんですよ。
思えば、岡田さんの最新作「アリスとテレスのまぼろし工場」とか、意外と世界観が「ブラック☆ロックシューター」っぽかったよな・・。

岡田磨里監督作品「アリスとテレスのまぼろし工場」(2023年)

そういや、この「アリスとテレス」、岡田さんが大ファンという中島みゆきに主題歌を依頼してたんだっけ。
で、中島さんは岡田さんの脚本を読み込み、その上で楽曲を作ったそうだ。
こういう
脚本を読む⇒曲を作る
というパターンが普通にあるなら、逆に
曲を聴く⇒脚本を作る
というパターンも普通にあっておかしくないでしょ。

元々、日本には古くから短歌/俳句など5・7・5のカルチャーがあり、私たちは少ない語彙から大きな世界観をイメージするのを得意とする民族といっていいだろう。
ある種「ブラック☆ロックシューター」は、そっち系のコンテンツといえるのかもしれないなぁ。


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