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「デデデデ」配信版全18話を見た
今回は「デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション」について書きたいと思う。
多分、今年一番話題になった映画だよね?
・・申し訳ない。
私はその映画を見ておらず、私が見たのは海外配信用の全18話(日本語音声+英語字幕)のやつなんです。
私がブックマークしてるのはCrunchyrollの「Animia」というサイトで、一説には「日本からだと接続できない」という話もあるらしいんだが、私は普通に接続できてるわけで、そのへんの詳しいところはよく分からん。
まぁ、いいや。
とにかく、まだこれは今年の公開作品なのでネタバレ含んだものを書くのはさすがにマズイかとも思ったが、でも今回はやっぱり書こうと思います。
そもそも、自身の旬の感想をログとして残すこと自体が、私にとってはここで書くことの最優先の目的なので・・。
ただし、ここから先はネタバレ全開になるので「デデデデ」未見の方は読むのを控えて頂く事をお薦めします。
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それにしても、劇場版が120分×2=240分で、配信版が24分×18=432分。
約190分ほど配信版の方が長いんだよね。
もちろん、これは各々別個に制作したわけがなく、同一の素材を編集で2つのパターンに分けたんだろう。
で、ロングバージョンの方を見た者としての感想は、「間延びしとる」とかは全くなかったのよ。
多分、配信版はかなり原作準拠に近い形になってるんだと思う。
逆にいうと、この配信版から削るほど余計なシーンはなかったと思うんだがなぁ・・。
とはいえ、劇場版のラストは原作者・浅野いにお先生自ら作ったものらしいし、それはそれで尊重すべきものなんだろうね。
聞けば、この作品は完成までに5年ほどの歳月を費やしてるというじゃん?
だから今でこそ「YOASOBIが声優やるってスゲー!」とか「あのちゃん声優やるってスゲー!」となってるが、もともと彼女らの人選はオーディションだったらしいし、その当時としては今ほどビッグネームでもなかったんだと思う。
しかし、この主演2人の役のハマりっぷりといったら、もうエゲツなかったよね?
特に、あのちゃん!
「はにゃにゃフワ~ッ!!」
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ヨダレ垂らして「はにゃにゃフワ~ッ!」と叫ぶ女子高生、私は今まで見たことがないけど?
楳図かずお「まことちゃん」を彷彿とさせるJK。
クスリでもやっとるんか、と思うよね(実際クスリを服用した可能性を示唆した描写もあった)。
でも、あのちゃんは実にうまく、この「はにゃにゃフワ~ッ!」を表現できてたと思う。
やはりシンガーというのは声優同様「声の商売」ゆえ、変に役者なんかよりよっぽどアニメにフィットするのかも。
それはYOASOBI・幾田りらも同様。
そしてこの2人がいたからこそ、この素晴らしい主題歌↓↓が誕生したわけだね。
もうね、この2人をキャスティングできた時点で、この作品は半分ほど成功が確約されたと思う。
あと、本職の声優さんでは諏訪部順一さんが良かったなぁ・・。
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諏訪部さんのダンディボイスで、ここまで笑えたのは稀有だよな。
しかし、こういうキャラを見ているとギャグアニメだと誤解しがちだけど、その本質はかなりシビアなセカイ系SFである。
まずは、主人公の門出&鳳蘭(当時小学生)が浜辺でイジメられてた宇宙人を助け(浦島太郎かっつーのw)、それを2人が皆に内緒でこっそり部屋に匿ったことから全てが始まる。
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この宇宙人と出会った世界線を仮に「セカイA」だとするなら、このセカイAにおける確定事項は
①宇宙人と門出&鳳蘭が出会う
②門出が宇宙人から借りた道具でトラブルを起こし(『正義』の執行として人を殺し)、自責の念から自殺を図って死亡
③宇宙人は②を根拠に母星に「地球は危険な星」と報告し、以降、宇宙人が地球を訪れることはない(つまり地球は安全)
という3点。
しかし、鳳蘭はこの「門出の自殺」という最悪の事態に納得せず、宇宙人の力を借りて「歴史改変」、いうなれば門出を生き返らせる為に「セカイB」を作っちゃうんだね。
上記の②が起こらないよう、まずは①が起こらないセカイ、つまり宇宙人と門出&鳳蘭が出会わないシチュエーションを作ったわけだ。
その結果、セカイBで②は回避できた。
ただし、②を消したことによって自動的に③もまた消えてしまい、その結果宇宙人の母星から侵略(移住)を目的とした巨大UFO(移民船?)が地球にやってくるという最悪の事態に・・。
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ぶっちゃけ、このUFO襲来という世界の危機の原因を作ったのは、鳳蘭ということね。
ただ、セカイBにおける鳳蘭は、セカイAでの記憶をほとんど失ってるっぽい描写があり(クスリの効果?)、そこはせめてもの救いである。
・・いやいや、そこも彼女が「記憶を失ってる」と決めつけるのはよくないか。
よく考えれば、鳳蘭はトモダチの栗原さんが亡くなった翌日、彼女の事故死を知りつつも「はにゃにゃフワ~ッ!」と元気に振る舞ってたような子なんだから。
実は、そういう子である。
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でさ、こういうセカイ系におけるひとつの絶対的なお約束は、
主人公がセカイの危機を救う
ということだよね?
しかし「デデデデ」が他のセカイ系アニメと決定的に異なるポイントは
主人公が全くセカイを救わない
というところである。
いやホント、こういう展開は目からウロコだったわ~。
そう、鳳蘭は既に決断してたわけよ。
①門出は自殺するが、セカイは滅ばない
②門出は生きていてずっと一緒にいるけど、セカイは滅ぶ
思えば鳳蘭は、最初から②のセカイを選択してたのさ。
つまり、この作品が「セカイ系」であることよりも、「日常系」であることをヒロイン自ら選択した、ということ。
・たとえ世界平和を犠牲にしてでも、半径10mの平和を実現したい
・そもそも地球規模の幸福なんかより、半径10mの幸福の方が優先
めちゃくちゃエゴに満ちている。
でも、この「正義」の逆、「悪」を彼女は固い意志をもって引き受けたわけだ。
事実、彼女が初めて「はにゃにゃフワ~ッ!」を使った小学生の時、こんな発言をしてるんだよ。
「ダメだダメだ!お前ら全然わかってね~!
あなたたちにとって、本当の脅威はボクだってこと、な~んにも分かってないですね!」
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それまで内向的でおとなしかった鳳蘭が、人生で初めてはっちゃけた瞬間である。
ギャグシーンに見えるかもしれんが、実は最も泣けるところなんだ。
もちろんこの発言、「本当の脅威はボク」というのは重要な伏線である。
半泣きだし、ヨダレ垂らしてるし、今まで大きな声を出したことのなかった彼女が初めて大声を出し、その時男子たちからイジメられてた門出を救ったわけよ。
そして、このシーンこそが実はセカイAとセカイBを分けた分岐点なんです。
つまり、鳳蘭が門出の自殺を回避した最重要のシーンである。
と同時に、セカイが滅亡に向かい始めた瞬間でもある・・。
で、これ以降、鳳蘭も門出も「セカイを救う」という「正義」に動くことはありません。
彼女たち以外のところで「正義」を執行しようという人たちはたくさん出てくるんだけど、大体のパターン、そういう人たちはセカイをどんどん歪めていくことなるわけで。
逆に、そういうのヌキでひたすら「日常」を満喫する鳳蘭たちは、トモダチを増やしていく。
たとえば、半宇宙人/半人間の大葉くん、女装子のマコトくんなど。
実はこの2人、後にセカイを救うことの一翼を担う重要人物なんだ。
大葉くん⇒彼が宇宙船爆発のタイミングをズラしたことにより、人類絶滅という最悪の事態を避けられた
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マコトくん⇒彼が門出の父と出会ったことにより、門出の父は「セカイC」という新たな世界線(最もハッピーなセカイ)を構築した
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不思議なもんだね。
「正義」の側の奴らがどんどんセカイをイビツな形に歪めていくのに対し、「日常」の奴らは各々無自覚ながらも、セカイをほんの少し救ってくれてるのよ。
このアイロニーが、「デデデデ」のうまいところだと思う。
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どうも劇場版の方は「セカイB」でエンドとなるらしいが、実は配信版だと「セカイC」が最終シーンとして締められる。
ちょっとこれには門出の父がひと役買うんだが、どうもこの世界線は
・門出と鳳蘭は宇宙人に会わない(ゆえに門出は自殺しない)
・UFO襲来がない(宇宙人は地球を危険と判断した?)
という形になってるようで、非常に理想的である。
2人の親しい人たちは誰も死んでないし、鳳蘭のお兄ちゃんは太ってないし、ただひとつ不満をいうなら、鳳蘭が元来のおとなしい性格になっていてヨダレ垂らして「はにゃにゃフワ~ッ!」とか言わないのよ。
そこは悲しい。
でも、この「セカイC」でも2人は仲良しみたいで、そこはホント良かった。
多分、「セカイB」でも2人は一緒に生きているだろう。
この「デデデデ」は、2人が一緒に生きていけさえすれば、もうそれでハッピーエンドなんだと解釈していいと思う。
セカイが平和かどうかは、大して重要な要素でもない。
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