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かつて、巨匠・宮崎駿が愛した<ファンタジスタ>
皆さんは、スポーツ観戦って好き?
私は大して好きでもないんだが、自身が学生の頃プレーしてたこともあり、サッカーだけは少し見たりもするのね。
といっても、最近はあまり見なくなったけど。
で、私がよく見ていた昔の話をしたいんだが、ちょうどその頃、2人の天才監督のライバル関係みたいなのがよくメディアでクローズアップされてたのよ。
グアルディオラ
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モウリーニョ
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で、この2人のキャラ設定における重要なポイントは
グアルディオラ・・元はFCバルセロナのスター選手
モウリーニョ・・元はチームの通訳
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という感じで、実に対照的な構図だということ。
モウリーニョも一応サッカー経験はあるらしいんだが、どうもパッとしない選手だったらしい。
そんな人がよくビッグクラブの監督にまでなれたもんだと感心するが、彼はとにかく結果を出したのよ。
で、その結果を出す秘訣というのが、<ガチガチに戦術を徹底させること>であり、その結果、彼は水面下で選手とモメることが多かった、とも聞いている。
特に<ファンタジスタ>タイプと、ね。
選手個人の創造力より、まずは組織だ、まずは戦術だ、選手はチーム戦術の体現者であらねばならん、と。
一方、グアルディオラの方も戦術に厳しい指導者だと思うが、でも彼自身は現役時代、バルサで数多くのファンタジスタと競演してきたという経歴の人だからねぇ・・。
だから、そんなデリケートな天才肌タイプの扱い方というのもモウリーニョとは少し違うテイストだったんじゃないかな?
と、私は解釈してます。
・・で、一体なぜこんな話を冒頭にしたのかというと、私の考え方として、アニメの世界でも<グアルディオラ系>と<モウリーニョ系>に監督は大別されてるんじゃないかな、と個人的に思ってるのね。
グアルディオラ系⇒画を描ける監督
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モウリーニョ系⇒画を描けない監督
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で、ここで私が注目したいのは、<モウリーニョ系>の方なんだ。
ここでは、例として高畑勲、押井守の両氏を挙げたんだが、この2人を繋ぐ重要なキーワードがあることを皆さんは知ってますか?
高畑勲・・日本アニメ界で初めて「レイアウトシステム」を導入した人物
押井守・・日本アニメ界に「レイアウトシステム」を普及させた人物
「レイアウトシステム」というのは、
絵コンテ(主に監督が描く)と原画(原画マンが描く)との間に位置する「設計図」のようなものだと考えて下さい。
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で、今のアニメ制作過程というのは、原画マンはまずレイアウトを描いて、それを演出、および作画監督に提出し、そのチェックをクリアしないと画を描き始められないことになってるのよ。
そのチェックというのも、「どうっすか?」「ん~、イイね~」という曖昧な<感性>の判断じゃなく、ちゃんと定規使って間隔を測ったりする系なんだわ。
昔から、そういうやり方?
・・いや、違う。
こういうやり方が業界に定着したのは、今から約30年前、90年代半ばからだとされている。
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その契機になったのが上の画の2冊の書籍、「METHODS」の出版である。
皆さんも興味あるようでしたら、これらを書店で探してみて下さい。
いまだ業界でも、ちゃんとバイブル扱いになってるみたいだし。
まぁ、これも出版のタイミングがまた絶妙だったと思うのよ。
【1993年】
「パトレイバー2」公開
【1994年】
「METHODSパトレイバー2演出ノート」出版
【1995年】
「GHOST IN THE SHELL」公開⇒米「ビルボード」誌ビデオ部門1位の快挙
95年の快挙で、押井さんは突如「世界のマモル・オシイ」になってしまい、スピルバーグやらジェームズキャメロンやらと親交を深めたりしやがるし、そんな人がちょっと前に「演出ノート」を出版してるとなれば、そりゃもう業界人は皆こぞってそれを買ってバイブルにするよね?
言うなれば、これはモウリーニョがチャンピオンズリーグ制覇の直後に
「ボクはこうしてチームを強化した」
著/モウリーニョ
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という本を出版したようなもんでしょ?
でさ、この「METHODS」という本は言うなればアニメの戦術公開みたいなものなのよ。
俺はこの戦術に沿って「パトレイバー2」を作ったんだ、「イノセンス」を作ったんだ、みたいな。
で、ここからアニメ界は「レイアウトシステム」に沿った<戦術至上主義>みたいな感じになっていく・・。
そう、モウリーニョ時代の到来である。
ただし、この「レイアウトシステム」には実は功罪があるとも言われてて、それの代表的なところを敢えてひとつ言うなら、
<ファンタジスタ>タイプの原画マンたちが、この方針では全く活かされることがなくなってしまった・・
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これ、誰のことを言ってるのか、分かるよね?
そう、言うまでもなく、この人のことである↓↓
金田伊功
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金田伊功は、「レイアウトシステム」普及以前の、まだ自由だったアニメ界におけるファンタジスタ系原画マン。
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彼はレイアウトを描かずに絵コンテからいきなり原画を描くタイプで、まぁレイアウト変更は「事後承諾」だったんだろうね。
「どうっすか?」
「絵コンテとだいぶ違うけど」
「ダメっすか?」
「いや、イイ・・、うん、これイイわ」
みたいなノリで、常人では思いつかないような原画をどんどん描いていったらしい。
ただ、これって組織プレーじゃなく、スタンドプレーだよね。
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「・・でも、マラドーナは点を取るからなぁ」
「監督、そんなこと言ってたら戦術なんて意味なくなりますよ」
「う~む・・」
といった感じで、さぞ監督さんは頭を悩ませたと思う。
実は、あの巨匠・宮崎駿ですら、金田伊功に対しては<特別扱い>をしてたらしい。
その証拠が、これである↓↓
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金田伊功、「原画」でも「作画監督」でもない「原画頭」って・・(笑)
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基本、宮崎さんは原画マンに対してめっちゃ厳しい人だと思うが、それでも金田さんに対しては不思議と<特別扱い>だったんだね。
・・いや、ちゃんと言う通りやらないから、ぶっちゃけ扱いには困ってたと思う。
でも、言うこと聞かない時ほど逆にこっちの想定を超えたスゲー画を描いてきやがる。
このジレンマ・・。
そのジレンマの表れが、この「原画頭」というワケ分からん扱いなんだろう。
彼には作監みたいな管理職は任せられない、しかし、ただの原画マンという狭い枠にはハメられない。
じゃ、いっそカシラだ、と(笑)。
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でもね、こんな自由が許されていたのもジブリがまだ弱小だった80年代までのことで、やがて金田さんも、だんだん自由がきかなくなっていったらしいのよ。
で、「もののけ姫」を最後にジブリを離れることになるんだが、もうその頃には「レイアウトシステム」が業界全体に定着し終えた状態で、金田さん的に「うわっ、窮屈!」という状態に。
で、やがて彼はアニメ業界を捨て、ゲーム業界へ。
そして2009年、心筋梗塞により57歳という若さで永眠・・。
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だけどさ、何のかんの言いつつも、こういう<ファンタジスタ>をチームに引き取ってた宮崎駿は、やっぱモウリーニョでなくグアルディオラだよな~と思うのよ。
自分自身が描く人だから、ちょっとクセのあるアニメーターでもどこか理解できちゃうんだろうね。
というか、今の彼が敢えて庵野さんの会社(ある意味、金田伊功フォロワーの巣窟)から本田雄を引き抜いたってのも、私は宮崎さんが金田さんのことをどこか懐かしんでるようにも思えるわけで・・。
本田雄
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仮に金田さんがマラドーナだとすりゃ、さしずめ本田さんはメッシといったところ?
彼は、ちゃんとディフェンスもできそうだし、金田さんみたいなサボり癖はなさそうだし(笑)。
じゃ、ここで、よく金田伊功最高傑作のひとつとして挙げられる、
「サイボーグ009」1979年バージョン(監督/高橋良輔)のオープニング
をご覧いただこう。
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う~む、やはりこの時代、独特の味があるわ。
まだ、アニメ制作がシステマティックになっていない時代だからこそ実現した、生々しいまでのアニメーターの個性の発露!
金田伊功、ホント惜しい人を亡くしたなぁ・・。
じゃ、今度は逆に、その金田さんに引導を渡した張本人ともいえる押井守の「サイボーグ009」パイロット版フィルムを見てもらおう。
・・あ、これはね、実は昔、幻の押井守版「サイボーグ009」という企画があり、ただあれなんだわ、これは押井版「ルパン三世」と状況が少し似てて
押井守の企画があまりにもシュールすぎた為、プロデューサーが押井さんを降板させた
⇒その尻ぬぐいとして、神山健治が後任監督
⇒無事、「009 RE:CYBORG」として公開(2012年)
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となったんだが、今回見てもらうのは、その彼が降板させられる前に作っていたという幻のパイロット版↓↓
なるほど。
じゃ、ついでに、今度はこれの1年前に押井さんが発表した、謎の「G2.5」というパイロットフィルムもご覧いただこう↓↓
「009」にせよ「G2.5」にせよ、リアル系の押井さんにしては妙にケレン味あるでしょ?
まるで、金田伊功のオマージュであるかのような・・
実はこれ、金田さんが逝去された頃に公開されたやつなんだよね。
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