「ペンギンハイウェイ」これほど完全に誤解されたアニメもない
今回は、アニメ「ペンギンハイウェイ」について書いてみたい。
この映画の制作はスタジオコロリド。
「ノイタミナ」の創設者とでもいうべき、山本幸治プロデューサーのところだね。
そして「ペンギンハイウェイ」の原作者は、「ノイタミナ」の名作「四畳半神話大系」の著者として知られる森見登美彦。
そう、ちゃんと映画制作のツジツマは合ってるのよ。
この原作は、日本SF大賞受賞作品である。
と同時に、星雲賞長編部門にもノミネートされてたらしい。
つまり、ファンタジー性の強いイメージとは裏腹に、その実体はバリバリのSFだということ。
ペンギンがかわいいもんで、ついつい騙されちゃうんだわ。
それに子供が主人公のジュブナイルで、これを児童文学っぽいものと捉えた人も多いだろう。
いや、とんでもない話さ。
むしろこの作品が扱ってるのはサイエンスの最先端領域だと思うし、とても我々凡人が理解できる類いのシロモノじゃないんだから。
そこは、さすが京大理系の森見先生だからこそ寓話っぽく表現できた、会心の一作だというのに・・。
上の画が、本作の主人公・アオヤマくん、小学4年生である。
子供ながらも科学者気質で、様々な事象を研究している子なんだ。
特に熱心に研究しているのが
オッパイの魅力について。
うむ、実に将来が楽しみな研究者である。
そして、彼にとって最重要の観察対象となってるオッパイが、これ↓↓
アオヤマくんの近所の歯科医院の「お姉さん」(本名不明)のオッパイが彼にとっての理想らしい。
で、この「歯科助手」というのでピンときた人も多いかと。
そう、森見先生の代表作「四畳半神話大系」にも歯科助手のお姉さんは出てくるんだよね。
この羽貫さんは「神話体系」のみならず「夜は短し恋せよ乙女」など他作品にも出てくるキャラなので、あるいは「お姉さん」=羽貫さん?とも考えたが、どうやらそうでもないっぽい。
ただ単に、森見先生のフェティシズムとして歯科助手に萌える性癖で、どうしても女性キャラには歯科助手を入れてしまうんだろう。
歯科助手に萌えるというのは、まぁ分からんでもないかな。
あの歯科という地獄の中で、歯科助手のお姉さんが時々天使に見えることがあるから。
そして天使でありつつも、嬉々として歯を抜いてしまう残虐性を備えた点もまた一種のギャップ萌えに繋がるものである。
基本、歯科助手ってドS気質だと思うよ。
実際羽貫さんがそうだし、「お姉さん」も同じく。
さらに「お姉さん」のcvは蒼井優であって、そこがますます魔性を感じてしまう。
で、この「お姉さん」こそが作中の最重要人物であり、はっきりいって只者ではない。
その論拠が、これである↓↓
なんと、コーラの缶をペンギンに変えることができる人だった!
ワケ分からんよね。
でもまぁ、森見先生の作品は天狗や変身できるタヌキが出てきたりもするし、「お姉さん」もまたそっち系の「もののけ」の類いか、と最初は思ってたんだ。
ところが話が進展していくと、どうもそうじゃないっぽいことがだんだんと見えてくる。
上の画は、「町にペンギンが大量発生した」という不思議現象とはまた別種の不思議現象、森の奥に発生した謎の球体、通称「海」である。
アオヤマくんのクラスメイトの女子・ハマモトさんが発見したものらしく、アオヤマくんはハマモトさんと共にこれを共同研究するようになるんだわ。
で、この「海」にペンギンが近づくと「海」が一定の反応を示すという法則にアオヤマくんが気付き、両者には何らかの因果関係がある、という結論に至るのよ。
じゃ、この「海」とは一体何なのか?
実験として船の模型をその中に入れてみたところ、奥に吸い込まれてその船は消滅してしまった・・。
これ、一種のブラックホール?
そう、この「海」こそ、本作が日本SF大賞や星雲賞といったSF賞の選考対象になった大きな理由である。
この設定、我々が想像するよりも遥かに深いモノなのよ。
ここを本気で紐解くとかなり難しい話になるので、今回は導入部分だけ軽くお話ししておきましょう。
<ホログラフィー原理>
はい、近年よく学界で話題になってる、「ホログラフィー原理」というやつですね。
ぶっちゃけ、私はこのての難しい話にはついていけません。
こういうのは頭のいい人たちにお任せするしかない。
だけど森見先生は京大理系卒の賢人ゆえ、一応は上の図のようなことを全部理解できてる人だと思うのよ。
その上で、これを我々一般人にも分かりやすいイメージでエンタメ的に表現してくれたのが、この「ペンギンハイウェイ」ということね。
まず、この理論のキモを最初に言っとくと、
「このセカイは実体じゃなく、全部ホログラムである」
ということなんだ。
何かモトになるものがどこかに存在して、我々がいるセカイとはそれを投影したバーチャルなものである、という「マトリックス」的世界観。
んなワケねーだろ、とツッコみたい気持ちも分かるけど、これは真理というわけじゃなく、単なる仮説だということを最初に理解してください。
ただし、この仮説に基づくことでツジツマが合う実験結果というのが最近になって増えてきてるみたいでさ・・。
で、信じる信じないは別として、仮に我々がいるセカイがホログラム(仮想空間)だとして、じゃ、その元ネタになってる「原作セカイ」はどこにあるのよ?となるよね。
頭のいい学者さんたちいわく、それは「2次元セカイ」だという話さ。
上の画のような人もたまにいるけど、そういう2次元とはまたちょっと違うニュアンスじゃないかと(笑)。
実際「原作セカイ」がどこにあるのかは分からないとして、どうもブラックホールがそれに深く関与してるのでは?ということなんだ。
ブラックホールかぁ・・。
よく考えたら、これも謎の天体だよね。
ビッグバン以降、宇宙はずっと膨張してるというのに、ブラックホールだけはそれに逆行して収縮してるわけでしょ?
そうやって収縮するのはいいが、色んなものを吸収⇒圧縮した後はどうなるの?
まさか、ずっとゴミ屋敷状態ってわけにもいかんだろうし、必ずや何らかの放射をしなくちゃならんと思う。
あるいはその放射こそが、我々のセカイをホログラムという形で形成してるのかもしれないぞ?
「ペンギンハイウェイ」の終盤、アオヤマくんは「お姉さん」と一緒に「海」の中に侵入し、「セカイの果て」というところに行き着く。
セカイの果て・・、なんと文学的な表現だろう。
この概念は、宗教的にはあのブッダが悟りの末に見たものかもしれないし、あるいは「Fate」でいうところの「根源の渦」、アカシックレコードという境地かもしれないよね。
ちなみに「ペンギンハイウェイ」では結構ファンタジックな情景で、抽象的な表現でもあったからSFっぽさなどまるでなく、でもこれが「原作セカイ」ということなんだろう。
そして「お姉さん」の正体は人間ではなく、どうやらここの住人ということだったらしいぞ。
となると、
・アオヤマくん=人間
・「お姉さん」=人間じゃない幻のようなもの
と視聴者は捉えるだろうが、いや、むしろ逆である。
むしろ、ここではホログラフィー原理に基づき、こういうふうに捉えてみてくれ。
・アオヤマくん=人間=つまりホログラム
・「お姉さん」=人間じゃない=つまり実体(原作セカイの原作者)
そもそも、「お姉さん」はなぜ缶コーラをペンギンに変えられたのか、そこをきちんと考えてみてください。
それは、このセカイがホログラムであり、また「お姉さん」がその原作者だからでしょ?
原作者なら、虚構世界で缶コーラをペンギンに変えることなど、造作もないことだろう。
だってペンギンは虚構だし、そもそも、この世界全体がまるごと虚構の世界なんだから。
いや、実際どうなんだろう。
森見先生が「ペンギンハイウェイ」で書いてたのは本来そういうものだったはずなのに、このへんがアニメを介すると「ファンタジー」に変換されて、まるで「お姉さん」=魔法使いのような誤解を与えてると思う。
違うんだよ。
これはファンタジーじゃなく、SFなんです。
それも、かなりキツめのやつ。
大体、考えてみてくれ。
あの「四畳半神話大系」ほどの難解なSFを書いた森見先生が、「うっわ~、ペンギンかわいい~」みたいな易しい「ほのぼのファンタジー」を書くわけないじゃん?
というか、そんなので日本SF大賞受賞できるわけないし。
ということを踏まえた上で、未見の方はもちろん、視聴済みという方も一度「ペンギンハイウェイ」をSF視点をもって見てみてほしい。
もちろん、一番の見所は
お姉さんの形のいいオッパイです。
これはホログラムでなく、セカイで唯一といっていい、ホンモノのオッパイだと理解した上でご鑑賞ください。