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伝説のアニメ「西荻窪駅徒歩20分2LDK敷礼2ヶ月ペット不可」
今回は、ちょっとマニアックな話をしよう。
まず最初に、「数分間のエールを」というアニメのことから書き始めたいと思う。
この映画、知ってる?
さほどヒットしたわけでもないんだけど、そこそこ話題になっている作品である。
というのも、「響け!ユーフォニアム」や「ガールズバンドクライ」などで<オンナノコ+音楽+青春の苦悩>を描いてきた花田十輝さんが、またもや同系統の物語を作ってきたからさ。
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これがねぇ、68分の小作品ながら、結構よかったんですよ。
やっぱ花田さんって、こういうジャンルが名人芸の域だね~。
結構配信されてると思うので、よかったら見てください。
お薦めですから。
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ただ、ちょっと違和感あるのが画の質感だよね↑↑
これは「ガールズバンドクライ」と同様、セルルック系3DCGというやつである。
いや、今回は「ガルクラ」と違って、輪郭の線を消したニュアンスの新しい画風か。
なんか色々試行錯誤してんなぁ・・。
聞けば、これの制作は100studioというところとHurray!というところが共同でやったらしく、どっちも聞いたことない会社名であり、新興なのかも。
何か、意外と少人数のスタッフで作ったらしい。
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私が思うに、アナログのアニメ作画に今以上の進化はないだろうけど、ことデジタル領域については今後もどんどん進化があることはほぼ間違いない。
何より、作成ソフトの進化というやつが必ずあるはずだから。
その恩恵で、めっちゃ少人数、しかも、めっちゃスピーディに作れるようになっていくだろうし、あと価格もいずれ安くあげられるようになっていくんじゃないだろうか?
そのうち、割高な2D、お手頃な3DCG、という時代になるよね。
「職人」系の人たちが2D文化を守る一方、「非職人」系の人たちがどんどん3DCGで新たに参入してくる、みたいな。
・・まぁ、もう少し先のことだとは思うけど。
じゃ、まずは「数分間のエールを」の映像抜粋を見てほしい。
・・どう感じただろうか?
私は「あり」だと解釈するが、「いや~、やっぱ変」という人は一定数いるだろう。
やはり気になるのが、モーションキャプチャーを使っているということと、アニメとしてフルアニメーション(1コマ打ち)というのが大きいと思う。我々が普段見るアニメはリミテッドアニメーション(3コマ打ち)だからね。
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基本、実写映画が1秒間に24フレームを使うのに対し、リミテッドアニメは基本8フレーム。
ようするに、フルアニメは実写映画の動きと同じということだ。
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映像として8フレームより24フレームの方が優れてるのでは?という考え方をする人もいるだろうけど、逆にアニメを見る時の我々の目は8フレームに慣れてる分、変に違和感みたいなものを感じちゃうわけね。
このへんについて、あの片渕須直さんがめっちゃ面白いことを言っていて、それはこういう内容。
「人間が、24フレームのアニメと8フレームのアニメをそれぞれ見た場合、脳が情報処理する部位が各々に異なっていた、という研究結果がある」
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なるほど、脳科学的なアプローチか。
でもさ、この片渕さんの言ってること、分からなくもないなぁ。
ようするに、人間の脳は
①現実世界(3次元)
②虚構世界(2次元)
を分けて<別モノ>として処理してるってことでしょ?
①と②の情報を同じところで処理しちゃったら、それこそ混同しちゃって、<2次元の人物に恋をする>みたいなおかしな現象も起きかねないし。
・・あれ?
そういう人、たまにいるような・・。
まぁそれはともかく、24フレームの動きというのは①のニュアンスに近く、ましてやいまどきはモーションキャプチャーという人間の動きをそのまんまトレースできる技術があり、これを使えば完璧に①になっちゃうよね。
なのに、アニメだからキャラの容姿は完全に②なんですよ。
これによる脳の混乱が、我々の3DCGアニメに抱く<違和感>の要因ということ。
脳としても、多分①課と②課にセクションが分かれてるわけで、変に緻密なフル3DCGを出された日には、①課の課長と②課の課長が双方にらみ合い、「うちのヤマだ!」「いや、ウチのだ!」とモメてるんだろうよ。
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ところで、「ガールズバンドクライ」は楽器演奏シーンが多いから3DCG系(しかも1コマ打ち)でやったと思うんだが、同じ楽器演奏シーンとして、かつて京アニが「涼宮ハルヒの憂鬱」、あれの第何話だったか忘れたけど、学園祭でハルヒがバンド演奏した回って分かります?
あのシーン、実はモーションキャプチャー使ってたらしいんだよね。
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だけど、それの仕上げ作業してるとアニメーターさんから「ここを修正してみたい」という要望が続出して、で、その通りにしてみたら実際よくなったし、じゃんじゃん要望を聞いていったら結局モーションキャプチャーの原型があまり残らなかったという・・(笑)。
いや、少しは名残りがあるんだろうけど。
結局、中途半端はよくないということなんですかねぇ・・。
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そういや、押井守はこういうふうに言っていたわ。
「(モーションキャプチャーでは)モーションアクターの生理的な時間が映ってしまう」
「絵の向こうに、アクターが見えてしまう」
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確かに、それスゲー分かるわ・・。
で、このての話の権威みたいな人が、前述の片渕須直さんである。
では話題を最初の「コマ打ち」に戻すとして、片渕さん自身は「コマ打ち」にどういう考え方を持ってるのか?ということね。
これが意外なことに、片渕さん自身は「8フレーム派」だという。
いや、むしろ「この世界の片隅に」なんて滑らかな動きのアニメだったし、あるいは彼って古き良き東映のフルアニメーション志向?と思ってたんだが、実際あの映画では8フレームと12フレームのブレンド、どっちかというと8フレームの方に重きを置いていたという。
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でね、そんな片渕さんが大絶賛してるアニメに、いうなれば
「究極のリミテッドアニメーション」
とでも表現すべき作品があるわけで、それがこれ↓↓
「ジュゼップ 戦場の画家」(2020年)
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これはセザール賞、リュミエール賞、あとは東京アニメアワードのコンペでグランプリを獲った超有名作なんだが、その内容云々以前に、多分これ見た人の多くは
「作画枚数、足りてないやん!」
と心の中でツッコんだに違いない(笑)。
じゃ、それがどんな映像か、ご覧いただこう↓↓
どっちかというと、「紙芝居」と「アニメ」の中間みたいなイメージ?
ただ、この「作画枚数、足りてないやん!」的なアニメは1939年の<回想>シーンのみで(それが大部分なんだけどね)、21世紀の<現代>シーンでは普通に2コマ打ちのアニメなのよ。
このへんが、うまいところである。
つまり、片渕さんがいうところの2種類の「脳の情報処理」(①と②)を、ひとつの作品の中で意図的に使い分けてたのさ。
あ~、こういうやり方もあるのか~、と私はちょっと感心してしまった。
どうやら、最近は「コマ打ちの変則」を海外もやるようになってるらしく、基本ハリウッドの3DCGアニメは2コマ打ち固定が多いらしいんだけど、あの絶賛された「スパイダーバース」なんかは、めっちゃコマをイジってるらしいじゃん?
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しかし、そのての「変則」にかけてはハリウッドより日本の方に一日の長があり、いうなれば日本のお家芸。
このへんは宮崎駿のような大御所クラスより、むしろ下の世代の方に強みがあるっぽいぞ。
特に、金田伊功派と称する、旧ガイナックス勢が得意とするところなんじゃない?
彼らは1コマ打ち、2コマ打ち、3コマ打ちはおろか、4コマ打ち、6コマ打ちというのも混ぜるので、ちょっとワケ分からんものになってるらしい。
本田雄&前田真宏に至っては「7コマ打ち」ってのをやったらしいんだが、総フレーム24に対して「7コマ」はツジツマが合ってない気も?
そのへんの意味は私にも分からん(笑)。
で、その「伝説の7コマ打ちアニメ」というのが、これなんです↓↓
「西荻窪駅徒歩20分
2LDK敷礼2ヶ月ペット不可」
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原案/キャラデザ/原画:本田雄
演出/絵コンテ/原画:前田真宏
<他スタッフ>
安藤雅司、井上俊之、大平晋也、沖浦啓之、橋本晋治etc
正直、ここまで豪華なメンツで作られた短編、私は他に知らんよ。
きっと、この作品はプロのアニメーターが見れば驚愕するような技術が複数詰まってるのかと。
論より証拠、実際に本編見てもらった方が早いし、YouTubeで上のタイトルを検索してもらえば見られるので是非どうぞ。
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ただしこういうのって、「作った本人でなきゃ出来ない技術」っぽいんだよね。
ようするに、簡単に伝承できない類いのスキルだということ。
いうなれば古典芸能における「人間国宝」みたいなもんであり、もしその人が死んだら技術はこの世から永久に消える、みたいな・・。
それこそ、こういう特殊技能を絶やさない為には、古典落語家さんのところみたく、弟子が師匠と寝食を共にして身の回りの世話をすることから始めるべきかも(笑)?
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でさ、私が面白いなと思ったのが、宮崎駿が本田雄をカラーから引き抜いたことなんだよ。
よく考えたら、宮崎さんはアニメ黎明期の人で、東映の「1コマ打ち」時代からキャリアが始まってる人でしょ?
その巨匠が、なぜか「コマ打ち変則」の本田雄に惚れ込んだのが逆に面白くない?
ジョン・ラセターを寵愛してるのと同様、巨匠は「自分にはできないことをする人」ほどリスペクトする人なのかもね。
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