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「ナウシカ」って、SFなの?ファンタジーなの?

SFとファンタジーの境界線は、意外と難しいものである。
よく多くの人が

SF=科学に根差した信憑性あるフィクション
ファンタジー=空想に根差した寓話型フィクション、すなわち「嘘」

と誤解してるんだが、実のところSFだって、その本質は「嘘」である
ファンタジーが「嘘」ならば、SFだって「嘘」。
現実にはありえない物理法則をフィクションの中で実現させてるんだからね。
じゃ、SFとファンタジーを隔てるものは一体何なのかというと、それを隔てる分岐、そのターニングポイントになったのが中世ヨーロッパの「錬金術」である。
錬金術とは空想の産物でなく、歴史上に実在した現実の学術。
これが礎となり、やがて「化学」という新形態の近代学術が生じた。
ただその一方、「魔術」という全くそれとは別形態の学術(?)まで生んでしまったわけで・・。
つまり、欧州の錬金術師たちは、後に大きく2種類に分岐したということだね。

①化学式を書いた錬金術師⇒科学者へ
②魔法陣を描いた錬金術師⇒魔術師へ


①と②は遠いようでいて、実は出発点は同じだということ。
で、①寄りのスタンスがSF、そして②寄りのスタンスがファンタジーであると捉えてみてください。
と考えると、これをきっちりと隔てるのは意外と難しいでしょ?

「風の谷のナウシカ」(1984年)

ところで、「風の谷のナウシカ」はSF?
それともファンタジー?
これは人によって意見が分かれるだろうが、私はSFだと思う。
ポストアポカリプス系のSFである。
映画だけではファンタジーっぽく感じるかもしれないけど、少なくとも原作で開示された世界観は完全にSFだからね。

思えば、これの前に作った「未来少年コナン」もSFだったし、昔の宮崎駿は意外とSF色があったんだよ。
もともとの彼は漫画家志望だったらしいので、少なからず手塚治虫の影響もあったということだろう。
それが「トトロ」以降、すっかりファンタジーの方にいってしまい、その後一切SFっぽいのをやらなくなってしまったなぁ・・。
個人的には、とても残念。

中心人物の宮崎さんがこんな感じゆえ、当然ジブリそのものがファンタジー寄りになっていき、いつの間にやらジブリは日本でも稀有な

「SFをやらないアニメ制作会社」


になってしまった。
「そういうブランドなんです」と言われりゃ返す言葉もないが、でもジブリのメンバーの中には、
俺は宮崎さんの『未来少年コナン』や『ナウシカ』を見て、ああいうのをやりたくてここに来たのに!
という人だっていたはずなんだよ。
というか、実際にいた。

それが今回ご紹介したい、村田和也さんである。
この名前を聞いてピンときた人は、かなりのアニメ通ですな・・。
そう、彼は日本でも稀有な「ジブリ出身のSF作家」である。

彼が監督として手掛けた作品をざっと挙げると

   翠星のガルガンティア(2013年)

      正解するカド(2017年)

    A.I.C.O. Incarnation(2018年)

この3作品、SFファンならご存じかもしれんが、3つともトンデモない傑作である。
本格派SFにカテゴライズされるものだね。

「ジブリ色、ゼロやん!」


と思うかもしれない。
だけど「翠星のガルガンティア」の構想は、村田さんがまだジブリにいた頃から温めていたものらしい。

その頃の彼はまだ新人で、高畑勲監督の「おもひでぽろぽろ」、ならびに「ジブリ若手集団」制作「海がきこえる」の演出助手をやってたらしいんだが、それを終えて次は「平成狸合戦ぽんぽこ」のスタッフ入り、という段階でジブリを辞めたんだってさ。
なんか、分かる気がする。
自分の頭の中では「翠星のガルガンティア」構想がいっぱいな時に、現実ではタヌキがキンタマの皮を広げて空を飛ぶアニメだからね(笑)。

        何か違う・・

「平成狸合戦ぽんぽこ」(1994年)

で、その後は主にサンライズ、BONESといったところで演出の修行を積み、やがて谷口悟朗監督の下で「コードギアス」副監督を務めるまでになる。
そして脚本家・虚淵玄の協力を得ることができ、遂に「ガルガンティア」のアニメ化実現を果たせたわけよ。

もし、彼があのままジブリに残っていたら、「ガルガンティア」という作品は世に出なかっただろう。
この作品は、「未来の地球は一体どうなってしまうのか?」というシビアなシミュレーションである。

「ガルガンティア」に出てくる謎生物・クジライカ

この「クジライカ」の正体を知った時には、かなり驚愕したね・・。
村田和也って、トンデモない未来をシミュレーションする人だよなぁ。

で、この「ガルガンティア」以降も村田さんはさらにSF色を強めていくわけで、最新作の「A.I.C.O. Incarnation」もまた強烈だったわ~。
村田さんって、割とドンデン返し系のプロットが好きなのかな?
緻密にミスリードを誘い、最後の最後でそれをひっくり返す系のやつ。
私はそういう系統が好きなので、村田さんの作品はどれも例外なく面白い。
で、彼の作品は科学考証も比較的しっかりしてるのよ。
もちろん、そこで語られる科学は「嘘」なんだけど、それでも嘘っぽくないところが私は好き。

「A.I.C.O. Incarnation」(2018年)

で、ちょっと興味深かったのは、この「A.I.C.O.」が富山県黒部を舞台にしたSFだということ。
<富山県黒部×ボーイミーツガール×ミリタリー>という組み合わせは、偶然だろうが「クロムクロ」と全く同じなんだよね。
2016年「クロムクロ」、2018年「A.I.C.O」、実は富山県黒部ってアニメ業界的に今ホットな場所なんだろうか?
まさかな(笑)。

「A.I.C.O」でバトルの舞台となった黒部峡谷
「クロムクロ」でバトルの舞台となった黒部峡谷

さて、先ほど村田監督作品に「ジブリ色がない」と書いたが、実は彼の劇場公開作品デビュー作には、しっかりとジブリ色があるんですよ。
敢えて「ラピュタ」色といった方がいいかな?
それが、この作品↓↓

「鋼の錬金術師 嘆きの丘の聖なる星」(2011年)

これは超メジャー作品の劇場版ゆえ、見たことある人はかなり多いだろう。

ぶっちゃけ、大傑作ですわ!


テレビシリーズ本編からは独立した話だし、未見の方がいらしたら是非見ておいてほしい。
一度見たことあるという人も、「これは元ジブリの人が作った作品」ということを念頭に、再視聴してみてほしい。
意識して見ると、ちょいちょい宮崎駿オマージュが見え隠れしてるのよ。
でもって、何よりこの作品が取り扱ってるのは「錬金術」だからね。
まさに魔術と科学の分岐点、そしてファンタジーとSFの分岐点、ともいえる錬金術。

なお、本作は制作スタッフが一流揃いで、監督の村田さんはもとより、脚本が人気作家の真保裕一さん(「ホワイトアウト」「アマルフィ」等)、演出が夏目真悟さん(「SonnyBoy」「四畳半タイムマシンブルース」等)、
アニメーションディレクターが押山清高さん(映画「ルックバック」等)、もちろんメカデザインは荒巻伸志さん(「攻殻機動隊」「アップルシード」等)が携わってて、このメンツ、正直テレビアニメ本編よりも豪華なんですよ。
そして、それも納得のクオリティ。

「約束の七夜祭り」(2018年)

じゃ、最後にダメ押しで村田監督作品をもうひとつ。

約束の七夜祭り

これは、正直かなりマイナー作品かもしれない。
ぶっちゃけタイトルがパッとしないし、↑↑の通りサムネもややダサいので、敢えて見ようというモチベが湧かないです(笑)。
だけどこれ、内容はSF、しかもゴリゴリのサイバーパンクなのよ。
つくづく、村田さんはSF作家やなぁ、と思わせてくれる作品である。
しかも時間が約60分とお気軽に見られるボリュームだし、村田さんの作家性を伺うにはウッテツケの小作品である(原案・絵コンテ・演出・監督の全てを村田さんが務めてるから)。
YouTubeで「約束の七夜祭り」と検索すれば普通に無料動画を見られるはずなので、興味がある人はどうぞご覧下さい。

・・それにしても、もしもあの時、村田さんがジブリに残ってたら、その後ジブリもSFを普通に作る会社になってたということはないかな?


<if>をいってもしようがないけどね。
まぁとにかく、稀有な「ジブリ出身のSF作家」として、村田和也という才能は今後注目するようにしておいてください。


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