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「3月のライオン」NHKアニメの最高峰
NHKで放送するアニメはハズレが少ない、は私の持論である。
実際、名作が極めて多い。
古くは「未来少年コナン」に始まり、あとは「CCさくら」「プラネテス」「電脳コイル」「ふしぎの海のナディア」「バクマン」「ログホライズン」「不滅のあなたへ」「ヴィンランドサガ」「キングダム」「映像研には手を出すな」etc、名作とされるものを挙げればキリがない。
中でも私がNHK史上最高傑作だと思ってるのが「3月のライオン」である。
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原作者は羽海野チカ。
基本的に寡作の人で、長編として描いたのは「ハチミツとクローバー」と「3月のライオン」の2本だけ。
しかし、この2本でありとあらゆる漫画賞を総ナメにし、どちらもアニメ化、実写映画化をされてるから皆さんも一度は見たことはあるだろう。
ちなみに「3月のライオン」はまだ未完なんだが、状況としては不定期連載ということになっている。
色々な意味で、羽海野先生は富樫義弘先生と似てるよね。
未曾有の天才ゆえ、描けば売れるのは確実なのでもっと描いてほしいのに、先生は気が乗らないと描かない。
出版社としては、じっと耐えるしかない・・。
羽海野先生といえば、ノイタミナの名作「東のエデン」のキャラデザインでも有名だろう。
何で「ハチクロ」の作家がこの作品のキャラデザをするの?と当時は違和感を覚えたもんだが、どうやら羽海野先生は押井守の大ファンらしくて、その弟子である神山健治とどうしても一緒に仕事したかったんだろうね。
というか、そんなことしてる暇があるなら、もっと漫画描けよ(笑)。
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さて、「3月のライオン」本編の話を。
この作品の制作会社は、あのシャフトである。
あのクセの強い演出で知られる新房監督が手掛けると、普通は原作が食われちゃうよね。
ところが、この作品はそうなっていない。
もちろん、あちこちにシャフトっぽい演出は見えるんだが、それでも羽海野的世界観を壊してないのよ。
言われなければ、この作品がシャフトの制作だと気付かなかった人すらいるかもしれない。
なんていうかな、羽海野風とシャフト風がいい具合に融合してて、その均衡が絶妙なんだよね。
心象風景の多い作品だからドロドロとした描写は実にシャフトっぽく、その一方でほんわかした全体の世界観は実に羽海野先生っぽい。
これ、いい相乗効果の出た作品だと思う。
聞けば、シャフトを指定したのは羽海野先生らしい。
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この作品の主人公はいわゆる陰キャであり、どっちかというと上の絵みたくドロドロとしたシャフト演出の似合うタイプである。
幼くして両親を亡くし、ずっと孤独に生きてきた境遇、しかも孤独の象徴ともいえる将棋に全てを捧げてきた少年ゆえ、めっちゃ闇が深い。
そんな陰キャがふとしたキッカケで、ある三姉妹と知り合うところから物語は動き始める。
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もうこの三姉妹は見てるだけで癒されるというか、3人とも天使なんですよ。
主人公の零はこの三姉妹の家に招かれて夕食をご馳走される機会が多くなり、アットホームな空気に触れ、少しずつ人間らしさを取り戻していく過程が丁寧に描かれていく。
この三姉妹、あかり役が茅野愛衣、ひなた役が花澤香菜、モモ役が久野美咲といったら大体のイメージがつくだろ?
最強の癒しトリオである。
そして、この3人との対比キャラとして描かれるのが零の義姉・香子である。
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彼女は悪女キャラで、零の将棋の才能に嫉妬し、ことあるごとに零の心の傷をえぐってはそのリアクションを見て悦ぶという、本当にタチの悪い女だ。
実写版では、この役を有村架純が演じてしまったから少しニュアンスが違うものになってしまったが・・。
やがて彼女が棋士の後藤九段と不倫関係にあると聞いた零は、後藤に対して激しい敵意を抱く。
そして、獅子王戦トーナメントで後藤を倒すことを決意する。
というのが、物語の序盤の展開である。
こういう展開なら普通、クライマックスは零vs後藤になるよね?
ところが、そうはならないんだ。
零は決勝で後藤と当たる前に、準決勝で島田八段に敗れる。
えっ?と驚いたよ。
こういう展開、明らかに一般的な漫画のセオリーから外れている。
最初に仰々しく因縁の宿敵を設定しておいて、なぜか羽海野先生はこの後、零と島田八段との交流の方を物語の中軸に据える。
そして後藤九段との対局はその後も実現されることなく、いつの間にか後藤との因縁はフェードアウトするんだよね。
普通、こんなプロットあり得るかい?
だけど、この一連の流れが実に違和感なく運ぶ。
こういう全く予想外のミスリードも含めて、やっぱ羽海野先生って天才だよなぁ。
ちなみに、実写版では分かりやすくvs後藤九段の対局がクライマックスになってたが、あれは映画オリジナル脚本なんですよ。
原作は違う。
オススメしたいのは、やはり映画でなくアニメの方である。
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羽海野先生は「後藤」という名前を「パトレイバー」の後藤隊長からとったらしく(彼女は押井守ファンだから)、その事実からして後藤を悪い人とは設定していないようだ。
実際、後藤と香子の関係は不倫というより香子の一方的な片想いっぽい。
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つまり、零は後藤が悪い男だと思ってるけど、実は違うんだよね。
むしろ、めっちゃカッコイイ男である。
例の後藤と香子がひとつのベッドで寝たシーンって、これは押井守ファンの羽海野先生が「パトレイバー」で後藤隊長と南雲隊長がラブホテルで一夜を明かした回のオマージュとして描いたんだと思うよ。
あの回の後藤隊長は何もしなかったわけで、つまり後藤九段もそういう人なんですよ。
零がそのへんを何も知らず、ただ勘違いの怒りで後藤と対局させるのは展開としてよくないと思うし、あそこで島田八段に負けたのは逆に会心の一手だったかもね。
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アニメでは三木眞一郎で、これが実にいい!
「3月のライオン」は零が中心の話に見えて、実は群像劇のスタイルである。
だから主人公がよく変わり、時には島田八段が主人公になったり、柳原棋匠が主人公になることもあった。
しかし中でも最も印象深いのは、ひなたが主人公になった時のイジメ編だろう。
この編では完全に将棋そっちのけになり、エグイほど真正面からイジメ問題を描いてたよね。
この編は羽海野先生が作家性で描いたのではなく、きちんと現場を取材して描いただろうことは節々から伝わってくるよ。
イジメる生徒、イジメられる生徒、傍観する生徒、見ても見ぬふりをしたい教師、イジメる生徒の家庭、イジメられた生徒の家庭、イジメられて学校を去った生徒と家庭のその後、それらを全部詳細に描いていて、その解決後も何かすっきりしないところとか、やたらリアルである。
そもそも、イジメた生徒は断罪されても「はいはい、すんませんでした」的な謝罪で終わり、特に反省はしてない。
多分、この子たちはこの後もこうやって生きていくんだろうし、やさぐれたままで生涯を全うすると思う。
根がネガティブな人間ほど、ポジティブな人間を引きずり下ろしてやりたい精神構造を持ってるらしい。
それはもうどうしようもないとして、ただ主人公のひなたと対比して彼女らを見た時、イジメる側に立った人間は生き方として醜悪で、彼女らは生涯において負け組なんだと痛感させられる、ただそれだけである。
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羽海野先生の取材力の高さは、この「3月のライオン」を描くまで先生自身は将棋のルールすらよく知らなかったという事実からしてご理解いただけるだろう。
羽海野先生は天才であり、その作家性だけで描いても「ハチクロ」のような名作は生み出せる。
しかし「3月のライオン」はそれに付け加え、綿密な取材により創作されてるのさ。
アニメではさらにそれに付け加え、シャフトの演出力までプラスに作用している。
NHKアニメ史上最高傑作というのは、まんざら大袈裟でもないんだよ。
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なぜか料理の解説コーナーがたびたび挿入され、この作品はグルメアニメと化す
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この名シーンの再現を、花澤さんは見事にやってくれた