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1970年代のギャグアニメは、なんか逆にイイ・・

今回は、ギャグアニメというものについて少し書いてみたい。

「ギャグ」って概念は案外難しいものだが、きっと日本サブカル史において一番最初のギャグはこれだろう↓↓

シェー!(1962年~「おそ松くん」)

正直いうと、これの何が面白いのかは全く分からない・・。
でも、ギャグとはそういうものである。
その時代の空気感とリンクして初めて笑えるものであり、この令和の時代に「シェー!」で笑える方がむしろおかしい。

・・でも、60年代のギャグアニメといえば「天才バカボン」「おそ松くん赤塚不二夫先生の独壇場だっただろうね。

で、やがて70年代に入るとこういうのが出てくる↓↓

死刑!(1974年~「がきデカ」)

八丈島のきょん!(1974年~「がきデカ」)

これまた、当時として一世を風靡したギャグらしい。
「八丈島のきょん!」とか、全く意味が分からないんですけど・・。

で、こういったナンセンスなノリを、今度は少女漫画の方で引き継いだのがこれである。

誰が殺したクックロビン
(1978年~「パタリロ」)

どうやら、これはイギリスの伝承「マザーグースの歌」にある一節「Who killed Cock Robin?(誰がコマドリを殺したの?)」を引用してるらしくて、ベースになってるものは意外と高尚なフレーズっぽい。
それを音頭にして踊るというナンセンスにこのギャグの面白さがあり、私は先日たまたま「パタリロ」のアニメを見たんだが、これが結構普通に今でも笑えたんですよ。
魔夜峰央先生、いいね~。

この独特の世界観がエグい!

言っときますけどこのふたり、オトコ⇔オトコの同性愛ですからね?
こんな淫靡なアニメを19:30~20:00に放送してたという事実は信じ難いが、この時代はまだ倫理規定も緩かったんだろうか・・?

魔夜峰央先生

でも魔夜先生自身は男性であり、ご結婚もなさっていて全くそっちの趣味がない人である。
なのに、作中でクドいほどBL描写をするのって、これは明らかに少女漫画に対するパロディだろう。
萩尾望都先生、竹内恵子先生あたりのね。

そして主人公・パタリロに関しては、その頭身から見て「がきデカ」の強い影響が見てとれる。

やはり、「がきデカ」の存在はギャグの金字塔だったというべきだろう。


赤塚不二夫「バカボン」「おそ松くん」が60年代のビートルズだとすれば、「がきデカ」は70年代のセックスピストルズといったところでは?
後の「クレヨンしんちゃん」なども、そのルーツを辿れば多分「がきデカ」だよな?

「クレヨンしんちゃん」

思えば赤塚先生は、意外なほど下ネタをやらなかったんだよね。
その手つかずのところを、がっつりやったのが山上たつひこ先生ということだろう。
「がきデカ」をアニメで見たい人は、YouTubeで「がきデカ」と検索すれば普通にOVA版3話が見られます。
個人的には、2話目の栃の嵐(発情)のくだりは爆笑したわ。
ジュンちゃんが、めっちゃかわいい・・。

ジュンちゃん

ちなみに少年チャンピオンは、「がきデカ」を連載していた時期に少年ジャンプの発行部数を抜き、少年誌売上の首位に立ったらしいです。


1977~1979年という、ほんの僅かな期間だったらしいんだけど。
・・そうそう、当時チャンピオンで「がきデカ」と人気を二分してたギャグ漫画があって、それが「マカロニほうれん荘」である。
で、興味深いことは、チャンピオン黄金時代はこの「マカロニほうれん荘」の連載開始(77年)⇒連載終了(79年)の2年間がぴったり符合するらしいんだよね。
ある意味、チャンピオン黄金時代を象徴する作品だった、といっていいのかな。
僅かに2年という短期連載だったにも関わらず、この作品は後世にやたらと大きな影響を与えているのも事実なんだわ。

「マカロニほうれん荘」の影響から生まれた作品①
「Dr.スランプ」鳥山明

「マカロニほうれん荘」の影響から生まれた作品②
「ストップ!ひばりくん」江口寿史

なんつーか、こういう80年代<センスいい系>サブカルの規範になったのが、他でもなく「マカロニ」だったらしいのね。
ちなみに「がきデカ」の山川先生は、「マカロニ」の鴨川先生をこう評している。

「当時、私はギャグ界の王者でした。
無敵のチャンピオンだった。
しかし、鴨川つばめの絵を見た瞬間自信がぐらついた。
(中略)
私に勝ち目がないのは分かっていました。
圧倒的な絵の技量、疾走感、画面からロックのリズムがほとばしり出るような鴨川つばめの漫画に、私は戦意すら喪失してそこにへたってしまったのです」

「マカロニほうれん荘」

多分ね、「マカロニ」はそれまでの漫画と全く文脈が違うものだったんだと思う。
まだ山川先生の「がきデカ」は<劇画タッチでギャグをやることの面白さ>という分かりやすさがあったけど、鴨川先生の画はそっち系ではない。
かといって、手塚先生、石ノ森先生、藤子先生、赤塚先生といったところの<漫画とは記号である>的な画でもない。
劇画でもなく記号でもない、そこに画の<センス>を表現するという新しい漫画の概念。
画の中にファッションがあり、音楽があり、時代の空気感がある。
こういうのって、正直それまでなかったんだと思う。

ただ、鴨川先生はアシスタントを一切つけずに全て1人で描いてたらしく、有名な話だが連載の終盤には精神が崩壊し、ラスト何話かはマジックペンで描かれていたそうだ(単行本には未収録)。

連載終了直後は、ほぼ廃人みたいになってたとやら・・。
現在、鴨川先生は「枯渇」を理由として漫画を一切描いていないんだけど、後のインタビューでこういう名言を残している。

「ギャグ漫画家の才能は、神様が一生の中で、たった1本だけくれた鰹節のようなもの」

1本の鰹節、深いねぇ・・。

言われてみりゃ、ギャグ系は同一の作家がそう何本もヒット作を連発しないイメージがある。

なお、この作品は今まで一度たりともアニメ化されていません。


伝説のヒット作でありながら、稀有な例である。
まぁ、確か鴨川先生が一時期「失踪」にも近い状態だったとも聞くし、今も業界とはほぼ連絡を絶ってるらしく、おそらく今後もアニメ化されることは99%ないだろう。
残念だけど。
「マカロニ」のアニメ化、見たかったなぁ・・。

1978年「パタリロ」連載開始
1979年「マカロニほうれん荘」連載終了
1980年「がきデカ」連載終了
1980年「Dr.スランプ」連載開始
1981年「ストップ!ひばりくん」連載開始


なんつーか、この時代ってホント激動だったと思うのよ。
赤塚先生のROCKから、山上先生/鴨川先生/魔夜先生のPUNKを経て、80年代には一気に鳥山先生/江口先生によってPOP MUSICに移行した感じ?

60年代ROCK
70年代PUNK
80年代POP MUSIC

でね、多分だけど我々が今接してるサブカルってやつは、文脈でいうとPOP MUSICの線上にあるわけよ。

60年代<ROCK>赤塚不二夫・・少年サンデー/少年マガジン

70年代<PUNK>山上たつひこ/鴨川つばめ・・少年チャンピオン
       (魔夜峰央・・花とゆめ)
80年代<POP MUSIC>鳥山明/江口寿史‥少年ジャンプ

うん、私自身メインカルチャーである少年ジャンプは大好きだけど、一方でその前身である<PUNK>の存在を忘れちゃいかんと思う。
このほんの短期間だった少年チャンピオンの栄華って、やたらと今の人たちに無視されてると思いません?
「マカロニ」はアニメがないからしようがないとして、「がきデカ」ですらなぜかサブスクの取り扱いがないんだよね。
せいぜい、今でもいけるのは「パタリロ」ぐらいだ。
(私の好きなシーン↓↓)

思えば、「パタリロ」にタマネギという名物キャラが出てくるんだけどさ、

これってどう考えても、「マカロニ」のトシちゃんだよね?

この時代って、こういう貸し借りが割と自由とされてたのかな?
なんかスゲー時代だなぁ・・と思う。

とりあえず皆さんに、「がきデカ」&「パタリロ」アニメ視聴を是非お薦めしておきたいね。

なんかさ、やっぱPUNKってやつ、今の時代に聴いても結構イイんですよ!


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