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宇宙船は、最もミステリーに適したクローズドサークルである

皆さんは、「クローズドサークル」という言葉をご存じだろうか?
ミステリー好きな方ほど、よく知ってるはず。
そう、アガサクリスティーなんかがよく使う手法だよ。
10名前後の男女が絶海の孤島や雪山の山荘などの閉鎖的環境(警察に連絡がとれない)にいて、その中で殺人事件が発生。
当然のごとく我々の中に犯人がいる!という展開になり、みんな疑心暗鬼に陥っていく、という例のやつさ。
名探偵コナン」や「金田一少年の事件簿」等で、このパターンを一体何度見たことか。
あれほど何度も絶体絶命のピンチを経験しながら、それでもなお休暇のたびに孤島や山荘をわざわざリゾート地にチョイスする、コナンや金田一の神経が私には理解できない。
彼らが孤島や山荘に行けば誰かが死ぬのはほぼ確実なので、むしろ最初から警察は同行して事前に警備しておくべきだろうに・・。

この黒い人は誰か?を解くのがクローズドサークルのキモである

さて、そういう「クローズドサークル」系で、かなりいい感じのミステリーアニメを先日に発掘することができたのでご紹介しよう。
タイトルは「LILY-C.A.T.」、1986年のOVA作品である。
監督は鳥海永行
あの「ガッチャマン」を手掛けた人であり、押井守の師匠に該当する人でもある。
彼の作品には名作が多く、特にOVA版「エリア88」は日本アニメ大賞のOVA部門最優秀作品賞受賞という逸品なので、一度見とかないと損ですよ。
で、そんな鳥海さんがサスペンス・ミステリー系を手掛けるのは結構珍しいことであり、そういう意味でも「LILY-C.A.T.」は見逃すことができない。

「LILY-C.A.T.」

これ、鳥海さん以外のスタッフもなかなか豪華なのよ。
脚本が「機動戦士ガンダム」のチーフシナリオライターで知られる星山博之さん、キャラデザが後に米国などでブレイクすることになる梅津泰臣さん、モンスターのデザインは後にアート界のカリスマとなる天野喜孝さん、劇伴は音楽界の大御所・井上艦さん。
これだけのメンツが揃えば、まぁ堅いわな。
これの舞台となるのは宇宙船で、非常に分かりやすいクローズドサークルである。
乗組員全13名が揃って航行中20年間の人工冬眠から覚めたところ、寝ている間に本部から「その宇宙船に身分を偽った密航者がふたりいる」という緊急連絡メールが入ってたことに気付く。
ただし、その密航者たちの氏名を告げた録画部分が作為的に削除されており、おそらくその密航者の仕業だろう。
ほどなくして、宇宙船内にて不審死、また行方不明者が続出するという異常な事態に・・。
まぁね、ミステリーで犯人をネタバレするのは野暮なので、これ以上内容に触れるのはよすことにしようか。
とにかく物語中盤以降はドンデン返しにつぐドンデン返しで、このアニメが原作なしのオリジナルというのはマジ凄いと思った。
イメージ的には、
映画「エイリアン」(1979年)+映画「遊星からの物体X」(1982年)
といったところ。
う~む、やっぱ宇宙船という閉鎖空間、クローズドサークルとしては最高だね。
孤島や山荘とは、閉鎖の次元が違うわけで。
いっそ「名探偵コナン」も、早いこと宇宙編に突入すべきだと思うぞ。

「彼方のアストラ」

この「LILY-C.A.T.」のストーリー展開を見て、これって「彼方のアストラ」に似てね?と思った人はいるだろう。
うん、確かに。
「彼方のアストラ」も、「この中にスパイがひとりいる!」系のミステリーとしてなかなかの秀作だった。
あと、宇宙船ミステリーといえば、萩尾望都先生の不朽の名作として有名な「11人いる!」の存在を忘れてはいけない。
この原作漫画は1975年に発表されており、「エイリアン」や「遊星からの物体X」よりずっと古いんだ。
少女漫画初のSFらしい。
萩尾先生の本作、ならびに竹宮恵子先生の「地球へ・・」は女性漫画家SFの古典である。
この世代の先生方はきっと手塚先生の影響が強く、女性読者からのニーズはさておき(女性からSFのニーズがあったとは思えん)、彼女ら自身が漫画家としてどうしてもSFを描きたかったんだろうなぁ・・。

アニメ「11人いる!」

これ、アニメとしては1986年に映画化されている。
監督は出崎哲。
出崎統のお兄さんね。
弟みたく濃い演出をするでなく、オーソドックスな演出をするタイプといえよう。
キャラデザは、名匠・杉野昭夫さんが手掛けてくれてるのは嬉しい。
この作品、不朽の名作だから日本国民のふたりにひとりは内容を知ってると思うが、一応内容に少し触れておく。
舞台は、宇宙大学入試の最終テスト会場となる宇宙船であり、そこに10名の受験者が集うことになった。
・・はずが、なぜか11名いる!
つまり身分を詐称してこの宇宙船に紛れ込んだ奴がいるわけで、「11人目は誰だ?」と皆が疑心暗鬼になっていく。
試験の条件として外部との連絡手段は断たれており、一応緊急ボタンを押せば救助はくるが、その時点で全員不合格になってしまう。
試験の合格条件は、53日間船内にとどまること。
だというのに、船内では次々とトラブルに遭う。
これは「11人目の陰謀だ!」となり、なぜか主人公が第一容疑者とされてしまうんだよね。
視聴者的には主人公が「11人目」じゃないことを既に知ってるんだけど、登場人物たちはとにかく疑心暗鬼に陥ってるので、ありとあらゆること全て「11人目」のせいにしてしまう、まさに魔女狩り状態。
さあ、主人公はどうする・・?
というのが大まかなあらすじである。
そういや、「六花の勇者」もほとんど同じような展開だっけ。

ミステリー系ファンタジー「六花の勇者」

「六花の勇者」は「11人いる!」を異世界版にアレンジしたものといえるが、ただこれは萩尾先生の偉大な古典を踏まえ、さらにそこからもうひとつヒネリを加えてるという応用編であり(ちなみにアニメ版はそのヒネリ部分にまだ入っていない)、ややこしいので私は基礎編の「11人いる!」程度の難易度が一番いいと思ってるんだけど。
なんか、青春モノとして後味もいいしね。
「11人いる!」を見たことないという人は、ぜひ見てみてください。
これを見ると、いかに宇宙船がクローズドサークル環境として理想的なものかが分かると思うよ。
・・あ、いくら宇宙が舞台といっても、富野由悠季にはクローズドサークルをやらせちゃダメだよ?
あの人の場合、クローズドサークルでもモビルスーツ使って暴力的な解決をしそうだし、あと登場人物が次々死んでいき、「そして誰もいなくなった」というオチに必ずなると思うから。

「無限のリヴァイアス」

富野由悠季作品ではないが、宇宙船を舞台にしたサンライズ系のサスペンスなら「無限のリヴァイアス」がお薦めだね。
サンライズの宇宙モノにしては珍しい、敵軍とロボットで闘ったりしない系の作品である。
ある意味でクローズドサークルなんだが、ミステリーというよりはスリラー系。
銀河漂流バイファム」(←名作!)の派生ともいえて、やはり宇宙空間で危機に陥ること、そして閉鎖環境における人間の業の怖さたるや、尋常ではない。
めっちゃ面白いにせよ、あまりにも内容がエグく、さすがに何度も繰り返し見るのは避けたい作品のひとつである・・。

それにしても、今回挙げた「宇宙船クローズドサークル」4作品
・LILY-C.A.T.(1986年OVA)
・11人いる!(1986年劇場用作品)
・無限のリヴァイアス(1999年TVアニメ)
・彼方のアストラ(2019年TVアニメ)

いずれもが結構エグい内容の割に、エンディングはみんな爽やかなんだよね。
そう、クローズドサークルから解放された時の幸福感たるや、超ハッピーなのよ。
クセになる感じ。
上記4作品、いずれもお薦めですよ。
ぜひ、見てください。

ひとつ言い忘れましたが、「LILY-C.A.T.」はミステリーであると同時にホラーです!


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