見出し画像

『精神の考古学』(中沢新一著、新潮社)

読了日: 2024/6/23

 中沢新一の著書は初めて読みました。
 洞窟壁画などに代表される旧石器時代の次の段階は新石器時代というより「象徴革命」(ジャック・コーヴァン)とあらわすことができるとのこと。なるほど農業革命や文字の発明(記号の援用)は人類の象徴的思想、あるいは精神的発展が大きくあったのではないかという指摘に冒頭からふむふむとなりました。

 本編の「ゾクチェン」(チベットやネパールに秘密に理にかなり古くから伝わる精神の教え)を習得すべきヨーガや加行(苦しんでなんぼの修業とは異なる)の内容などは難しく、脳に刻むほどの読み方はできませんでした。

 文字や言葉で伝承されるものの実質は体験によってのみ気づかされる事象であって(空など)、とはいえヨーガや加行の方法などは書物として伝えられるものもあるとのこと。この書物の伝承方法こそが象徴的に感じられました。
 パドマサンバヴァによってチベット各地に埋められた教えの数々をテルトンという修行者によって発掘され、あらたに神話的制作によって再解釈されて伝わってゆくということらしい。
 つまり文書あるいは文字そのものが固定物として伝承されるのではなく、時代に揺すられながら常に再解釈され続けて伝承されるということです。
 ケツン・サンポ先生の「巡礼地は過去の聖者たちの祈りと体験が滲み込んでいる土地だから、その土地の息吹に包まれていると、巡礼者の心にも霊感ゴンパが入り込んでくる。これは書物を読んだり、ありがたい説法を聞いたり、一人で修行していいたのでは、得られない体験です。巡礼は瞑想の一種で、土地の霊性ゴンパの働きによって、言葉や思想だけでは得られない力が、その人のうちに注ぎ込まれてくるようになります」(p.364)との言葉と一致するように感じました。

 タイトル「精神の考古学」とは吉本隆明による『チベットのモーツァルト』への寄稿によるもののようです。「精神の考古学」という表現は「精神現象学」(ヘーゲル)と「知の考古学」(フーコー)に根ざしているようです。ヘーゲルのあつかう「精神」についての説明も難しかったです。
 やや余談ですが、レヴィ=ストロースの仕事について何度かふれられており、レヴィ=ストロースの原文あるはい原文に近い解説書を読んでみようかとも思いました。


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集