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山際響
2021年9月1日 17:59
あらすじ 孤独な落書きアートのライター由美はリコと出会う。 二人はともに真夜中に落書きを始めるが…… 誰にでも、人生で時間、空間を真っ白にに塗りつぶしたい時がある。由美にとって、今がその時だった。 由美は無心で線を引く。真っ黒なパソコンモニターに白い線が現れる。無心だったが、楽しいからではない。そうしなければ心が痛むからしている。 いま由美が向き合っているものはCADというもの
2020年7月29日 20:32
あの夏、私は一人の男を穴に閉じ込めた。 私も他の多くの人々と同様に、私の心を深く傷つけるものは、残念ながら死んでも仕方がないと思っている人間だった。 あの日、私は自分の家へと続く畦道を歩いていた。私の両脇から水田に潜む夏蛙の鳴き声が聴こえてくる。一体どうして夏蛙の声はこんなにも私を落ち着かせてくれるのだろう。蛙の鳴き声など、煩いだけだろう、とある友人は言ったが、私はそうは思わない。人の意
2019年8月25日 11:06
沼の畔で行われる花火大会の数時間前の事だった。私は久しぶりに故郷に帰り、実家暮らしの妹とともに、会場へと続く水田のあぜ道を歩いていた。陽は沈みかけていて、藍色の空には灰色に橙色がかった雲が広がっている。雲間からの太陽光線が帯状になり、藍色を背景に幾重にも重なり合っていた。地平線に目を向ければ、雲が創り出す影を受ける水田の稲穂が一面に見え、風が吹くと水を張ったプールのように音もなく揺らいだ。 私