
「本日公休」:お世話になったお得意の先生への出張散髪。人生の節々に振り返る機会はある。
<あらすじ>
台中で理髪店を営みながら女手一つで3人の子供を育てたアールイ(ルー・シャオフェン)は、娘や息子からこんな理髪店は時代遅れだと言われながらも、40年続けた店と常連客を大切に思いハサミの音を響かせている。すでにそれぞれの道を歩んでいる子供たちは実家にはなかなか顔を見せず、頼りになるのは、近所で自動車修理をしている次女の別れた夫チュアン(フー・モンボー)だけだった。そんなある日、遠くの町から通ってきていた常連客の“先生”が病の床に伏したと知り、アールイは店に“本日公休”の札を掲げ、道具を持ち、古びた愛車に乗り込みその町に向かうが……。
評価:★★★☆
(五段階評価:★が星1つ、☆が星半分、★★★★★が最高、☆が最低)
台中で理髪店を長年経営している女性が、長年お得意である常連客の”先生”のために出張散髪に出かける物語。でも、これは作品の中では大きな1エピソードに過ぎず、突然訪ねてくる人気美容室で働く娘であったり、近くに住んでいるが何をしているか分からない息子、娘の別れた元旦那であったりと、普段はバラバラな理髪店家族が群像劇的に集まるお話がバッググラウンドで流れていきます。中国本土に比べ、日本占領下の歴史が長かったことや、中国による同化圧力を嫌う国民も多いので、戦後の台湾はどこか日本の原風景も残る不思議な空間で、日本からでも多くの観光客が訪れています。本作も、言葉や文化は違うものの、どこか日本の田舎でもあるような個人経営・家族経営のお店にあるような情緒を感じることができます。
理髪店って、しばらく行っていないなと思います。最近はめんどくさいのと、節約も兼ねて、自分で髪は切ってしまっている(汗)ので、髪のカットのために外に出ていく(それは1000円カットのお店も含め)ことはなくなっているのですが、それこそ親に切ってもらっていた小学生低学年を卒業して、高学年~中高くらいまでは地元のいわゆる理髪店に行っていました。1つは家の近くにあるところにずっと行っていた(今はなくなったんじゃないかな、、)のですが、高校生くらいからは学校の近くの理髪店に、近くに大きなショッピングモールができてからは、そこの美容室に行くようになってきたのが、僕の短い髪カット人生でした(笑)。理髪店も、美容室も様々だと思うので一概にいうことはできないかもですが、あんまりオシャレ論を切り出すほどカットやヘアケアに詳しくない身からすると、美容室のほうがふんわりこうして欲しいと伝えると結構それなりにしてくれるのに対して、理髪店は結構どこをどうするというのを詳しく言わないとイメージ通りならない感じが経験上しています。だから、(入ったことないけど)1000円カットってなんか怖くて、それこそスタバのトッピングを正確に伝えるくらい綿密に伝えないといけないのでないか(だから、コストカットがあんなにできるんじゃないか)とイメージしかなく、だから行こうとちょっと思えないんですよね。
っと、映画と離れましたが、そんな技術が磨かれる理髪店だからこそ、長年通っている常連客にとっては、座れば自分のしたい髪型なり、マッサージなり、すごい手取り足取りのサービスを受けることができる。逆に、それほど通いつめないと自分というものを形作ることができない、、それはお客もそうだし、髪を切る理容師についてもそうだというのが、翻って、その人たちの人生として綴られていく。これは理髪店に限らず、長年通っている喫茶店だったり、定食屋だったり、バーだったりと、「自分を体現するお店=人生を表現できるお店」というのは大人の人なら誰でも持つものでしょう(そうでない、僕は未だに子どもです笑)。その中で、人生がこれから綴られようとしてたり、いろんな悩みの中で今進行中だったり、もうすぐゆっくりと終えようとしていたり、それがお店自体が大きく呼吸をして息づいているドラマにどっぷりとつかることができるのが、本作の面白い部分だと思います。
(鑑賞劇場)京都シネマにて