唯一無二のブックレビューの書き方⑥
続続・「場面」とは?面白かったシーンを美味しそうに取り出す!
前回は「場面」の工程の2つ目である「見つけた『場面』を美味しそうに取り出す」段階において、「固有名詞を2個(超おまけして3個)までに絞る」ことの大切さをお伝えしました。
この回では、実際に文章を使って、その方法と効果をお見せしたいと思います。
今回は「桃太郎」を例文に紹介します。
「場面」の工程のひとつめが「面白いと思った『場面』を見つける」(=面白いと思ったポイントをはっきりさせ、それが最も表れているシーンを見つける)なのは覚えてらっしゃるでしょうか?
この場合は「桃太郎のお話の中でも、桃太郎が鬼を退治するシーンが好き。なぜなら、桃太郎の勇敢さと格好良さが最も感じられる場面だから」と設定します。
桃太郎が動物を従えて、鬼達と対面するシーンが、とても迫力があって格好いいです。一番強い鬼はジョナサンという名前で、腕力に自信があるので大きな太い金棒を持ってブンブン振り回して攻撃してきます。桃太郎はジョナサンの攻撃をかわす一方で、中々反撃することが出来ないでいます。その間も、桃太郎が従えている動物たちは他の鬼と戦います。動物は3匹で、それぞれ犬のジョセフィーヌ、猿のアンドレ、雉のステファニーという名前ですが、みんなとても勇敢です。それに立ち向かう鬼も3人いて、赤鬼がジェイコブ、青鬼がショーン、黄鬼がマイケルです。ジョセフィーヌはジェイコブに噛みつき、ショーンは手に持った剣でアンドレに切りかかり、ステファニーはマイケルを羽交い締めにしようとします。結果、ジョセフィ―ヌ、アンドレ、ステファニーはそれぞれ勝利するのですが、その間も桃太郎はジョナサンに攻撃が出来ないままです。そこでジョセフィーヌが「桃太郎さん、助太刀をします」と叫んだときに、返す桃太郎の言葉が格好いいんです。「いや、もう勝っている」と言って、ジョナサンに背中を向けた瞬間に、ジョナサンはひっくり返るんですよ。実は桃太郎は逃げているように見せかけて、ずっとジョナサンの足元にバナナの皮を敷き詰めていたんです。
どうですか? 誰が誰に何をしたのか、全くわからないですよね?
この文章の中では、固有名詞(それぞれの名前)が、なんと8個も登場します。桃太郎は一人だけ和名なのでイメージしやすいのですが、それ以外の登場人物は全員が海外ドラマに出てきそうな名前なので、誰が誰なのか全くわかりません。この状況をそのまま描写するには、もはや映像の力を借りるしかないでしょう。
でもこのシーン、言葉の力だけで魅力的に伝えることが可能です。
そのために必要なのが、
①「最も伝えたいところ」だけに固有名詞を使う
②それ以外は「固有名詞(最も伝えたいところ)との関係性」で説明する
ことなのです。
この場面を紹介したい理由は「桃太郎の勇敢さと格好良さ」が最も表れているシーンだからです。中でも、桃太郎がバナナの皮を敷き詰めてジョナサンを転ばせるシーンに、桃太郎の魅力が集約されています。
つまり、この場合は「桃太郎」と、一番強い鬼「ジョナサン」の戦いの様子こそが「最も伝えたいところ」であり、この2人にだけは固有名詞を与えていい(名前で読んでもいい)ということになります。それ以外の動物たちや鬼たちは、全て「固有名詞(桃太郎&ジョナサン)との関係性」で表現するべきです。
それぞれの呼び方は、このようになります。
☆桃太郎=桃太郎(固有名詞)
☆ジョナサン=ジョナサン(固有名詞)
●犬のジョセフィーヌ・猿のアンドレ・雉のステファニー
=桃太郎の部下の動物たち(桃太郎との関係性)
●赤鬼ジェイコブ・青鬼ショーン・黄鬼マイケル
=ジョナサンの部下の鬼たち(ジョナサンとの関係性)
では、固有名詞を整理した上でもう一度先程の場面を描写してみましょう。
桃太郎が動物を従えて、鬼達と対面するシーンが、とても迫力があって格好いいです。一番強い鬼はジョナサンという名前で、腕力に自信があるので大きな太い金棒を持ってブンブン振り回して攻撃してきます。桃太郎はジョナサンの攻撃をかわす一方で、中々反撃することが出来ないでいます。その間も、桃太郎の部下の動物たちは、ジョナサンの部下の鬼たちと戦います。互いに噛み付いたり、剣で切りかかったり、羽交い締めにしたりするのですが、最終的に桃太郎の部下たちが勝利します。でも、その間も桃太郎はジョナサンに攻撃が出来ないままです。そこで桃太郎の部下の1人が、助太刀しようと叫んだ時に、返す桃太郎の言葉が格好いいんです。「いや、もう勝っている」と言って、ジョナサンに背中を向けた瞬間に、ジョナサンはひっくり返るんですよ。実は桃太郎は逃げているように見せかけて、ずっとジョナサンの足元にバナナの皮を敷き詰めていたんです。
読んでみるとわかると思うのですが、「桃太郎の部下の動物たち」と「ジョナサンの部下の鬼たち」の戦闘シーンが大きくカットされています。これは、固有名詞(名前)が取り上げられ、「部下」という関係性でしか呼ばれなくなったために、自然と、動物たちや部下の鬼たちの「個性」が消えて、大きなくくりでしか表現できなくなったためです。
その代わりに、俄然存在感を増したのが「ジョナサン」です。桃太郎は元々目立っていたのですが、他の登場人物の名前が消えたことで、ジョナサンにスポットライトが当たるようになりました。ジョナサンが出てくる部分は最初の文章と全く変えていないにも関わらず、です。
前回の《おまけ:わかりやすさの哲学》でも少し触れましたが、「固有名詞(ひと、もの、こと、ルールなどの名前)には「注目させる効果」があります。大切な存在であれば、生き物でなくても名前をつけたりしますよね。(ちなみに、うちの観葉植物は「ダイアナ」という名前です)これは、名前が与えられたものは、そうでないものよりも「特別感」が出るからです。「固有名詞が与えられたもの」は「与えられなかったもの」よりも、優先順位が自然と高く感じられるのです。
この場合、桃太郎と並んで一人だけ名前を与えられたジョナサンのことを、読み手は無意識に「重要人物」として扱い、その結果ジョナサンは輝いたのです。そして、ジョナサンが輝いたことで、桃太郎がジョナサンを倒したシーンがより一層引き立つことになりました。
これが「固有名詞を2つ(超おまけして3つ)まで」に絞る効果です。
ちなみに、ここでは「引用」という手法も使っています。桃太郎の格好良さが最高に集約されている部分「いや、もう勝っている」という台詞のところです。このように、場面の面白さがマックスに高まっていると思う箇所をピンポイントで引用すると、さらに「美味しそう」なレビューができます。
※「引用」に関しては、著作権に基づいたルールがあるので注意が必要です。こちらのサイトがわかりやすかったのでご紹介させていただきます。(TOPCOURT LAW FIRM という法律事務所のサイトに飛びます)
「場面」の書き方は以上です。
3回に渡って解説しましたが、「一番面白いのはどこかな」「もっと簡単に言い換えられないかな」という気持ちをルール化するとしたら、こうなりますよ、ということです。
「場面」が出来ていないレビューは本当に多いので、逆に出来ているレビューは「超♡面白そう」に見えます。良ければ是非試してみて下さいね。
【結論】
Q.「場面」とは?
A.「自分がこの本のどこを面白いと思ったか」を、本の中からピンポイントでピックアップする工程。①面白いと思った場面を見つける ②見つけた場面を美味しそうに取り出す の2つの段階がある。①については「本の魅力が最も表れている場面を見つける」、②については「固有名詞を絞る&引用を使う」ことがポイント。
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