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【福岡旅行記】ヒス女が太宰府に行って良縁祈願した結果、金髪碧眼青年に国籍を迫られた話【日本三大怨霊】

 日本三大萌筋にほんさんだいもえきんといえば、鈴木亮平の大臀筋、ヒュージャックマンの僧帽筋、阿部サダヲの表情筋である(※異論は認める)が、日本三大怨霊にほんさんだいおんりょうとは、日本に伝わる怨霊の中でも特に、菅原道真・平将門・崇徳天皇を指す呼称である、とウィキにも書かれてある。(※ので異論はウィキにお願いしたい)

やんの花言葉は『爆発四散(サヨナラ!)』だと友人らのウィキにもあるように、とかく破滅願望が強く、だいたい0か100でサバイブしている毎日であるので、令和の世においてお前だけが乱世を生きるがごとく、鬼気迫った空気を電話越しに醸してくるので毎度我々も苦しい、即刻息を止めるか静かにスマホでも眺めていてくれないか、と先日クレームをいただいた。

5月末に晴れてこどおば生活を卒業し、6月からは満開の俺を咲かせるんだ!と意気揚々、SPEEDの『マイ・グラデュエーション』を唄っていたのも束の間で、日に日に悪化する原因不明のちむどんどん胸のドキドキで業務に支障しか出なくなったため、これは日本三大怨霊をコンプリートしていないせいかもしれない!(※極論すぎる)と思い立ち、ずっと保留にしていた菅原道真との逢瀬を決行、翌朝イチの飛行機を即座に予約し、リュックに最低限の荷物を詰めたら心ここにあらず故、半休を堂々と申請した(※順番がおかしい)。

いったんちむがどんどん胸がドキドキしてしまうと、いっそ弾けさせてしまおうさぁ~と俺の中のちゅらさん、もしくは比嘉栄昇ひがえいしょうがエイサーを始めるので、そうなるとナイフを掴んで物理的に自らを切り刻むのではなく、目に見えない神や呪いや怨霊によって精神的に自らの(運命のようなものを)切り刻んでしまおうさぁ~とサイフを掴んで神社や心霊スポットに駆け込むのが俺という人間のサガなのだ。レッツビギン!

そうしてこれまで唐突に訪れた日本三大怨霊のうち二大怨霊のご利益(※怨霊に求めるご利益とは)については、可もなく不可もなくといった按配で、出来ることなら、わじわじーするまじムカつくなんだばーなんなのくるさりんどころすよ?と境内でU.S.A.フロムDAPUMPを叫びながらハブ酒を撒き散らかしたかった(※罰当たり)ので、次こそは、次こそは良くも悪くも劇的な結末を所望す!!!と震えるちんすこうを(どこにかは明言しないが)あてがいながら早めに横になった。
なお、さんざんウチナーグチ(沖縄の方言)で罵ったが、菅原道真の聖地は福岡の太宰府にあるので、全部寝言だと思ってさんぴん茶でも飲んでいてほしい。

   \おさらいしよう!/
●これまで訪れた日本三大怨霊●
崇徳天皇・探訪レポ【旅行記】ダメンズクレーンで大物ばかりを吊り上げてしまい無双状態な俺は地元じゃ負け知らず
平将門・探訪レポ依然としてほうれい線はバッキバキであるし、目を離したそばから白髪は量産されてゆく~前編~

ヤンことなきヒビ:https://note.com/yanchan22/


横になって20分、興奮しすぎてガンギマリのため、いったん体を起こしてスマホを触る(※よい子はマネしないでください)。そういえば明日の電車の時刻を調べてなかったと思い出してナビタイム。飛行機の離陸時刻は6:35だ。ざっと見積もって1時間前に到着すれば間に合うはず(※韓国旅行の惨事を繰り返さぬためにも)。

始発を検索する。スワイプした指が一瞬で凍傷になった。始発に乗っても6:26にしか到着しない。俺がイーロン・マスクでもジェフ・ベゾスでも9分で駅からカウンターに爆走し、チェックインして着席するなど到底不可能だ。
“電車は深夜まで走り早朝から動いているものだ”という日本人総社畜思考が染みついていた。ちんすこうなんかで自分を慰めている場合ではなかった。

こうなったら空港で夜を明かすしかなく、あと数十分でその終電さえもなくなるという緊迫した空気の中、ほぼパジャマで駅へと急いだ。(思えば旅立ちはほぼパジャマなことが多い)

7月5日23:40、日中の気温は30度を優に超え、いよいよデストロイヤー・サマーが本格的にリングで屈伸をし始めた初夏の折、見苦しいほど汗だくになりながら羽田に到着した俺がいた。

布団で6時間Netflixを見続けることは容易いのに、空港で6時間待機しなければならないということは不安でしかなく、マスクとメガネとカチューシャ(※耳にかかるえげつない負担)も相まって一向に頭痛が治まらない。

とりあえずベンチに腰掛けて待とうか…と思っていたら、警備員さんが近寄ってきた。不安的中。

「ベッ、ベンチの使用は合法ですよね?!そうですよね?!公共のものですよね?!」と思わずヒスを起こしそうになったが、どうやらこのターミナルはもう閉鎖するから国際線のターミナルに移動しろ、とのことらしかった。もう腰が鉛だよ!

こんな危険物(ヒス女)をタダで運んでくれて感謝しかない
皆の行先に思いを馳せようとするが如何せん頭が痛い、
バファリンめいたものを探しにコンビニへと走った
異国の方も大勢いて、
異国なくつろぎ方をしていた
みんな自由でみんないい
治安の良さに震え、
いつまでもスマホが放置される国であってほしいと願った
猛暑のデッキから夜景を眺めていたら、
最悪24時間営業のラーメン屋と寿司屋で
ドカ食いして軽く気絶すればいっかぁ…と開き直れた

何をするにしてもまずは俺専用ベンチを見つけねばと奔走する。
幸運なことに人が少ない階を発見し、3席ほど連なっているベンチに横たわった。“中東の男性と向かい合わせで寝る”というグローバルな点以外は至ってノーマルであったが、そもそも“ベンチで夜を明かす”という行為自体が初めてで、いつかホームレスになった時に困らないようしっかり予習しておこう…と固く目を閉じた。

枕代わりにしていたリュックがどうにも心地悪く、
どうなってんねん!と開けたらそうやったわ、
どうせ神社行くなら返そうと思って入れとったわ、
護摩札

横になって目を閉じたはいいが、元来不眠症である俺がこんなイレギュラーな空間でそう易々と眠れるはずもなく、早々に寝ることは諦めてアニメを見たり本を読んだり、ワンチャン向かいの中東人と何か(何だ)起こらないかな~と血走った目くばせをしながら(※迷惑)時間をつぶした。

明けて7月6日5:30、背中バッキバキでのっけから満身創痍の状態で朝食をとる。炭水化物に全振りしたメニューのお陰で血糖値スパイクがその力を遺憾なく発揮し、まばたきした瞬間あの世が見えかけた。

なんとか6:35、定刻通りに離陸した飛行機はこれまた初のLCCローコストキャリア。安さに釣られて選んでしまったことを、席に座った瞬間後悔した。

リクライニングできねぇ!ガッチガチやないか!

座席も狭くうっすらと汚れており、モニターなんてあるはずもなかった。
離陸時の揺れも酷く、せめて少しでも飛行機で仮眠を取って神社に参戦だ!と目論んでいたのに出鼻をくじかれた。
総じて金を渋った俺が悪い。

8:30福岡空港に到着。HPもMPもほぼゼロではあるけれど、ようやく目的地にたどり着けた高揚感でなんとか歩を進める。

色っぽい看板に告げられる文言は
まるで人生の縮図
空港を一歩出たらセミが荒々しく鳴き
本格的に殺しにかかってきた猛暑福岡
はじめまして
7月下旬にようやく福岡と同じ気温になった我が神奈川
俺は東にしか住めそうにないと悟った2024年
夏は2週間ぐらいで十分
(上にはモザイクを入れたのに下の列が全部無防備で
全然意味を成していない川崎市民とは俺のこと)

空港からバスで30分、車内は韓国人団体、中国人団体、俺ひとり、という圧倒的疎外感に満たされ、あれよあれよと太宰府天満宮へ。

大宰府名物:梅ヶ枝餅の店が軒を連ねる。
なお、梅の味はせず。
そこかしこで開催される中国人らのフォトセッション
その図々しさが逆に清々しい
鳥居でラップバトルをする小学生の兄弟に
「太宰府家政婦モザイクママif…?」
とカチコミたかった
なんと生まれ年のおなじ御神牛、
擦り切れるまで撫でまわしてきた
韓国人のフォトセッションも負けてない
それを盗撮する日本人(俺)も負けてない
博多のド根性で咲いていた紫陽花
心臓破りの階段に慄く39歳独身
(独身は関係ない)
タイミングよく七夕まつりがやっていて思い出す
七夕生まれの一族のおり姫ちゃん・祖母
昔住んでいたシェアハウスで
良かれと思って風鈴を飾った101号室のA吉さんが
住民に騒音で訴えられた件を
俺は忘れない
本殿に辿り着くまでに息が
さすがにこれにまたがって撮影する猛者はいなかった
麒麟像・鷽像
やっと本殿!と握ったガッツポーズで
突き破りそうになった立て看板
本殿が改修し終わるまでの仮殿
期間限定とのことで
ある意味タイミングがいい
旅立:さわりありまくりで早速おみくじがハズレる
メインイベントのご祈祷案内所で
今日1テンションが上がったが
いくら包めばこの思い伝わる…?
と俺の中の西野カナが震えた
無難に心願成就かしら…いや、
すべては縁!縁に尽きる!と思い直して
豪快になぞった【良縁】

ご祈祷の時間は30分後ということで、各々が神社細部を愛でたり像と記念撮影をしたりの中、キンキンに冷えた待合所でじっと虚空を見つめていたのは俺だ。加速度的に上がる気温の中、やっとの思いで辿り着いた太宰府ではあったが、目的地に着いたら即帰りたくなる気持ちは毎度押さえきれずこの胸に溢れるので、あと少しだ頑張れ耐えろ女を見せろ俺ならやれる稀代の戦国武将の血が流れているきっと…!と小さな松岡修造を召喚して鼓舞し続けた。

11:00、ようやくメインイベントである祈祷の時間がやってきた。
続々と仮殿に人が集まり、用意された椅子に座ってゆく。

一般参拝者からも丸見え、
360度サラウンドシステムの仮殿
(※祈祷されし者は赤丸のイスに一列に座る)

だいたい10人くらいが集まったところで、涼しげな水色の袴をはいた宮司さんが恭しくご登場。祈祷の手順はだいたいどこも同じなので心得ているが、(ものすごくざっくり記すと、宮司さんが祝詞のりとを読みながらお祓いし、祝詞奏上のりとそうじょうを行ったあと玉串奉奠たまぐしほうてんをして終了)仮殿はオープン施設のため猛暑直撃であり、正直一連の儀式に耐えうるかが不安で仕方なく、出来れば巻きでお願いしまーすと不届き者ムーブで早々と退場したい気持ちすら湧いていた。

では始めます…うやうや、と宮司さんが一礼すると、「すみませーん!」と観光ガイドらしき男が慌てて祈祷エリアに上がってきた。

「遅れて申し訳ございません!こちらの方々も申込者ですので、お願いします!」

ぞろぞろと上がってくる男女たち。ざっと20人。
あのでかいミートボールのような男が代表か…?

「社長、あと二人きてませんが…!」
「かまへんかまへん、進めてもらお!遅れてんねんから」
「(LINE着信音)」
「おい誰や~携帯切っとけよ~」
「すいませーん!ほら、スマホの音切らなあかんやろ」
「おいお前ら~はよ座らんと皆さんにご迷惑やろが~」
「「「 座り切れませーん!!! 」」」
「ほな詰めて座らんかいな~」
「Y田とN峰がいませーん」
「ほっとけほっとけ!あいつらはもうかまへんからさっさ座れ~!」

がやがやがやがや
いらいらいらいら
しくしくしくしく

怒りは悲しみへ代わり、絶望というため息となって肉体から放たれる。

なんでや!お前らどこまで図々しいねん!
神聖な祈祷をなんやとおもてんねん!
地元の商工会議所ちゃうぞ!
こちとらオールして朝イチの飛行機でこのためだけに来てんねんぞ!
俺の覚悟と時間をなめんといてほしいわ!
こうなったら戦じゃ!
大人は殺してわらべは奴隷、冷酷無情の化身と化す!
のろしをあげぇぇぇぇぇぇい!

先ほどまで巻きでお願いしようと思っていたことなど棚に上げ、遅れてきた闖入者ちんにゅうしゃに戦国武将の血が騒ぎまくっていた。

「暑いですね、人いっぱい来ましたね、社員旅行ですかね」

ふいに話しかけてくれた隣の青年がイケメンちんすこうじゃなかったら、今頃太宰府は血の海となり、俺は憤死していただろう。

「あっ…はい…その…そうですね」(※チョロい)

なんとか団体客が静まり、改めて宮司さんが一礼して儀式がスタートする。

いやちょっと待って冷静になろ?
全部で30人おるってことは祝詞奏上も30人分ってことやんね?
(※祝詞奏上では、各人の住所(マンション名までハッキリと)・氏名(もちろんフルネームをバッチリと)・願い(それはもう赤裸々にシッカリと)・その願いを神に伝えるための言葉(宮司さんが気持ちを込めに込めてシットリと)などが述べられる、だいたい1人につき2分~3分)
平熱35度の俺にとって外気36度なんてただでさえしんどいのに、そんな状況下で30人分の諸々とか聞けんの?!
俺は軽装やからまだええとして、あんな重装備の宮司さんとか大丈夫なん?!
しかも俺なんてフラついたら最悪隣のイケメンちんすこうに寄りかかるチャンス来たアイム・ア・ラッキーガール!で済むけど、宮司さんは袴脱いで全裸で隣の宝物ほうもつ掲げながらアイム・ア・バッドボーイ(※とにかく明るい安村調で)じゃ済まんやろ?!
え?いける?いけんの?あかんで!無理せんとき!無理はキンタマ、いやキンモツやで!

そんな心配をよそに宮司さんが一人目の祝詞を述べ始める、うやうや。
5番目にまわってきた順番(※たぶん受付順)により、俺の住所も氏名も良縁を願う赤裸々な気持ちもすべて公に晒され恥もへったくれもなかったが、そもそも他人の祝詞など誰も聞いちゃいないので何の心配もいらないのであった、杞憂。

だいたい10人分の祝詞が終わったあたりで、いよいよここから団体客20人分の地獄の祝詞が始まるんか…と(あるはずのない)金玉が縮みあがる。すでに体は干上がっており、このまま即身仏となって太宰府に祀られるか燃やされる運命さだめやもしれん…と覚悟を決めてチンポジを直した。

その間も宮司さんは汗一つかかず、淡々と祝詞をあげている。
そういえば女優はどんなに暑い日の撮影でも絶対に汗をかかない(※根性で)と聞いたことがあったが、宮司さんはまさに女優だった。
あんた!あんた名女優やで!
嗚呼涙が止まらない。いや、汗だったかもしれない。
頭もボーっとしてきて、いよいよ宮司さんの後ろ姿が真矢ミキに見えかけた瞬間であった。

「大阪府〇〇区××~株式会社M本工務店~代表取締役社長・M本〇〇でかいミートボール~社員の皆様を代表しての御祈願となります~△△××~」

いやったぁぁぁ!!!20人分一括祈願キター!!!

1200万の借金を毎月5万ずつ20年かけてリボ払いで返済予定が、道ですれ違った裕福なでかいミートボールに見初められ一括返済してもらえることになった(どんなシチュエーション)ぐらい嬉しく、俺とイケメンちんすこうは顔を見合わせ、小さくガッツポーズをし合った。

「あきらめないで!!!」
たしかにそう、真矢ミキが叫んだ気がして水色の後ろ姿を凝視したが、そこには宮司さんのプロフェッショナルな背中しかなく、M本工務店の商業繁栄祈願はものの2分で無事終了、こうして祝詞奏上は幕を閉じたのであった。

やん「この後はどこか観光ですか?あ、ランチかな?やっぱり福岡だと明太子とかラーメン?ですかね」

下心のみを携えてジャブを打つ。

ちんすこう「そうですね!連れを待たせてあるので、合流してご飯食べに行きます!では~」

秒でKOされた。

なんやねん!良縁祈願したやん!道真様なんでなん!
1万円じゃ足りんかった?!
でかいミートボールとか言うてディスったから?!
だいたい怨霊指定されてる人に良縁とか祈祷する俺って何?!
普通に考えておかしかったわ!
何しに来たんや!もう帰ろ!

どちらにせよ、来たらすぐ帰るマインドな俺なので、福岡空港行きのバスにさっさと乗り込み不貞寝を決め込んだ。

「ありがとうございました~終点・博多駅で~す」

ハッとして目を開けたらすでに空港は過ぎており、終点の博多駅に到着していた。

ここに来て昨夜のオールナイトがアラフォーの心身を拷問する。もう修造メンタルだけじゃ持ちこたえられない。

博多駅から福岡空港は電車で1本で行けるが、離陸時刻まであと3時間はある。よし、ここはガツンと博多豚骨でも食って活力注入だ!
検索すると上位に上がってきた豚骨ラーメンの有名店が駅の近くに本店を構えているという。願ったりかなったり!

ちょうど博多祇園山笠の時期で
漫画ワンピースとのコラボ飾り山笠が展示されていた
ルフィ以外知らない非ジャンプ民だが
でかいものは総じて好きの部類に入るので写真に収めた
盃と槍を持った黒田節銅像
民謡にちなんだ像らしいが、
飯はまだかとせがんでいる父にしか見えない
目的地の一幸舎総本店、
太宰府天満宮に続きこちらも改装中
炎天下の中30分ほど順番待ち
流れる汗で豚汁が作れそうだ
泡系豚骨ラーメンと呼ばれるだけあって
たしかにブクブクはしているが
泡系という言葉からは高級ソープしか思い浮かばないので
バブルラーメンとかにした方がいいかもしれない
(※あくまで個人の風俗感です)
切り落とされた小指サイズの餃子に戦々恐々とする
これはギョウザ=GYOZA=ではなく
ケジメ=KEJIME=なのでは

着丼の瞬間から、いや、店に入った瞬間から感じていたことがある。

豚がいる!!!目には見えないが確実に豚の存在を感じる!!!

スープを啜った刹那、鈍器で殴られた衝撃を受けた。
今まで食べた豚骨ラーメンは豚骨風味のフランス料理か何かだったのではと思うほど強く、激しく豚の味が迫ってくる。
人はよく頭が真っ白になるという言葉を使うが、本当に真っ白になることがあるのだとこのラーメンを啜って痛感した。

誕生から屠殺、そしてこのラーメンに至るまでの豚の一生が走馬灯のように脳裏に駆け巡り、暑いだけではない汗がドバドバとあふれ出す。
米一粒に七人の神様が宿っているように、この豚骨ラーメン1杯にも豚の神様が宿っているのだとしたら一体どんな形相で何頭いるのだろうか。

残してはならないし全体に残せやしない!!!汁の一滴まで啜り上げないと祟られてしまう!!!

強迫観念にも似た思いが押し寄せ、無我夢中でラーメンを食する。
博多といったらバリカタだと知ってはいたものの、玄人ぶる勇気がなく無難にカタにしたのに、それでも麺がカタすぎて嚙み切ることができず、ラーメンは飲み物!ラーメンは飲み物だから!と生粋のデブっ子ムーブでなんとか完飲した。

全国のポストが全部これだったら
出生率も上がるだろうか
地下鉄のスポンサーも博多らしい一店

豚骨界隈の公式解答を得られて満足した俺は、いよいよ倒れそうな身体を引きずって空港へ直行、チェックインまでの時間をソファーでくの字になったりのの字を書いたりと、ひらがなに擬態して過ごした。

15:40、待望のチェックイン開始。あとは帰るだけという猛烈な安心感で眠気が最高潮に達する。散々己の不眠癖を嘆いてきたが、オールして疲れればどんな不眠の猛者だって歩きながら眠れるということを学んだ。

誰かの許可を取らないと用を足せないという状況が心を圧迫するので、席は通路側を取ってある。どんな乗り物でも絶対に譲れない条件だ。
前方に自分の席を発見するが、真ん中の席から何やら筋肉が溢れかえっている様子が窺える。前述したようにLCCの座席は驚くほど狭く、比較的標準体型の日本人ならまだしも、真ん中の座席にはガタイのよろしい金髪碧眼の外国人男性が着席しており、見るからに苦しそうだった。

そうか、俺の旅は中東の外国人に始まり西洋の外国人で終わるんだなぁ…と妙な感慨を覚えつつ、はみ出た筋肉がこちらの二の腕に触れる感覚が心地よくて幾度も寝かけては彼の上腕に頭をしこたまぶつけ、そのたびに彼は「you ok?」と心配そうに俺を気遣うのだった。

短絡的な俺は、(も、もしや良縁祈願のご利益は…これかもしれない!)と色めき立ち、眠い目でチラチラ彼の様子を盗み見ながら話すチャンスを探っていた。

彼はtiktokを見たり鬼滅の刃(漫画)を読んだり写真を眺めたりとごく普通の青年然とした振る舞いで俺を引き付けたのだが、膝に乗せてあるカウボーイハット、バカでかいバックルのベルト、R&BシンガーがデカデカとプリントされたTシャツに、それジョントラボルタしか履かんやろ!みたいなデニムのパンタロンがどうも気になって仕方なかった。
「彼氏の服装が気になるなら一緒に買い物に行って自分好みに変えればいい」と恋愛指南書に書いてはあったが、そんなつよつよメンタルを持ち合わせているならこんなことにはなっていないのだと切に訴えたい。

そうこうしていると、無事定刻通りに着陸。にもかかわらず一向に機体が空港に向かわない。がやがやし始める機内。流れるアナウンス。

「現在雷の影響で地上スタッフが誘導作業をストップしております。そのため、今しばらく機内でお待ちいただき…」

怨霊パワー炸裂

15分ほど経過した頃だっただろうか、ふと隣のカウボーイ君が俺の左手を指さしてスマホの画面を見せてきた。

えっ!!!やっぱ運命感じちゃった?!良縁キタ?!
少女コミック歴30年のベテランヒロインに突如訪れる落雷的ロマンス?!
お母さんやったで!!!誰かが国際結婚してくれたらお母さんの英語も活かせるのになぁ~(チラッ)って殴りたくなるような呟きしてたよな?!
もしかしたらそうなるかもしれへんで!!!

はやる気持ちを抑えきれず差し出された画面を覗くと、“あなたの腕のタトゥーは何の模様ですか?とてもきれいですね…”と打ち込まれていた。

タトゥー入れててよかったーーーー!!!

日本ではまだまだ偏見の眼差しも強く、興味を持たれることなど皆無だったタトゥーであるが、国が違えば価値観も変わり、話のネタにも恋のタネにもなり得るのだ。

俺は熱弁を振るった。全身のタトゥーの意味を、この旅の意味を、現在独身である意味を、そして貴方に出会えた意味を!!!

カウボーイ君も負けじとプレゼンを展開する。

僕も一人旅で、今回は佐世保の友達に会ってきたんだ!普段は横須賀でミリタリーをしている28歳独身だよ!サンフランシスコ育ちで、イタリアとアメリカのハーフなんだ!兄弟は3人で、家族はみんなサンフランシスコにいるのさ!LINEしてる?交換しようよ!嗚呼、僕の作ったイタリアン料理を早く君にも食べさせたいな~!

話が早い!もうLINEも手料理もいただいちゃったよ!

君はどこに住んでるの?ああ、川崎なんだね、車で迎えに行くよ!ドライブをしよう!ところで君はいくつぐらいだい?僕の見立てだと…29歳ぐらいかな?ええっ?!39歳?アンビリバボーだよ!とっても若く見えるね!僕は年齢は気にしないよ!国籍はもちろん…日本だよね?

おや…?国籍…とは?

実はあと1年以内に日本国籍の女性と結婚しないとアメリカに帰国させられちゃうんだ。悲しいよね?君と結婚出来たら、僕はとっても嬉しいな!

とにかくあかるい国際ロマンス詐欺やないか!!!

肉体でもお金でもなく、国籍を求められるなんて初めてだ。
徐々に失速する恋心と引き換えに、天候はだんだんと回復の兆しを見せ始め、19:00過ぎ、ようやく我々の機体は空港に入ることを許された。

帰りの電車が途中まで一緒という情報を事前に入手していたので、ボーディングブリッジを渡り終えるとそっとフェードアウトし、そうは言うても失礼やったか…と小さき胸が痛んだので一応謝罪の言葉を送っておいた。

自分の写真をせがまれて
3歳の時の写真を送る俺も俺で俺だ

結局あの日以来彼に会うこともなく、母を喜ばせることも、ましてや国籍を分け与えることもなかったが、絶対何かしらのご利益があるはず!だってあの暑い中わざわざ博多くんだりまで行ったんやもん!三大怨霊コンプリートしたんやもん!必ずや結果にコミット菅原道真・太宰府天満宮!という根拠のない自信が漲り、虎視眈々と日々を過ごしていたある日、唐突にそれは訪れた。

派遣切りである。

『縁を結びたければまず(余計な)縁を切ること』

これまで訪れた神社で何度も聞かされた言葉だ。

うそうそうそうそ!!!
やだやだやだやだ!!!
無理無理無理無理!!!

驚愕、困惑、混沌を経てようやく諦念の境地に至った俺は今、再び子供部屋に舞い戻って、猛然と就職活動に勤しんでいる。
道ですれ違った裕福なでかいミートボールに見初められ、正社員に起用される夢を見ながら。


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