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読書録:古墳時代像を再考する

広瀬和雄『古墳時代像を再考する』(同成社)
歴史に関心を持ったのは小学校に上がる頃だが、古墳に関心を持ったのはいつ頃だろうか。歴史の中でも特に古代、分野的には考古学に特化するようになったのは小学校高学年になってからだ。
それ以来、古墳の研究をライフワークにして現在に至るわけだが、恥ずかしいことに、論文などを体系的に読んだことはない。私の知識は様々な本を乱読して身につけたものなので、重要論文を読み逃していることも多々ある。それ故に、研究者を名乗りながら学会などに顔を出せない(トンチンカンなことを言ってしまったら恥ずかしいので)。
本書はタイトル通り、古墳時代像を再考する一冊である。「はじめに」において、著者は考古学における地域研究が発展しつつある中で、無批判に記紀と結びつけた歴史解釈が横溢することに警鐘を鳴らしている。大規模開発に際して発掘調査実施することで調査件数が増え、地方自治体に勤務する公務員研究者の精力的な研究活動もあって、地域の歴史はかなり細かく知られるようになった。そうすると地域ごとに異なる文化の有り様、すなわち多様性が浮き彫りになり、畿内中心主義ともいうべき従来の古墳時代観ではすべての事象を抑えられなくなってきた。もっとも、古墳時代の文化の中心は後に畿内と呼ばれる地域にあるのだが、文化伝播の過程でその地域独特の色が生まれてきたのも事実である。
このように、多様化する古墳時代の文化を捉え直し、新たな古墳時代像を描き出そうというのが本書の意図である。著者は多くの参考文献を用い、研究史をなぞりながら新しい古墳時代像の構築を試みている。
これは我々の反省点だが、博物館の展示などではときおり、最新の研究成果に基づいてアップデートされないまま、古い説明が残っていたりする。新発見があったからと言って、通説が一挙にひっくり返らないのが人文科学の特徴だが、その通説もひっくり返らないとはいえ微修正されているのが常なので定期的にアップデートするよう心がけたい(むろん、自分自身の知識も)。
古墳時代研究を志す学生はぜひ目を通してほしい一冊である。


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