マガジンのカバー画像

親魏倭王の小話集(小説編)

32
本、主に小説についての小話集。Twitterに投稿した中でツリーを形成する長文ツイートを転載。
運営しているクリエイター

2025年1月の記事一覧

親魏倭王、本を語る その23

【ゴシック小説と推理小説】 ゴシック小説が推理小説に与えた影響は「秘密が暴かれる」というゴシック小説のストーリー展開(のひとつ)だけでなく、その舞台設定にもあると思う。それが舞台設定で、いかにも何か秘密がありそうという城館が舞台になるのもその一つだと思う。また、上流家庭内の軋轢から事件が発生する展開もゴシック小説的だと思う。 ゴシック小説的な要素を色濃く受け継いでいるのが、たぶんディクスン・カーだと思う。彼の『髑髏城』『魔女の隠れ家』『曲った蝶番』などはそうしたゴシック趣味が

親魏倭王、本を語る その22

【スペース・オペラとヒロイック・ファンタジー】 1920~40年代のアメリカではスペース・オペラの全盛期で、パルプマガジンに連載された後、単行本化されずに消えていった作品も多いと聞いているが、E・E・スミスの『レンズマン』シリーズや、エドモンド・ハミルトンの『キャプテン・フューチャー』シリーズは今でも人気がある。このルーツはおそらく、エドガー・ライス・バローズの『火星』シリーズではないかと思う。 おもしろいのは、同じ時期にヒロイック・ファンタジーが勃興していることで、代表例は

親魏倭王、本を語る その21

【江戸川乱歩賞受賞作についての雑感】 今までに読んだ江戸川乱歩賞受賞作でおもしろかったのが、 『13階段』高野和明 『脳男』首藤瓜於 『連鎖』真保裕一 『放課後』東野圭吾 『写楽殺人事件』高橋克彦 『プリズン・トリック』遠藤武文 『翳りゆく夏』赤井三尋 あたりである。 1990年代以降は社会性の強い作品が多くなり、格段に読み応えがあるものが増えたが、反面、テーマや内容が重くなり、読んでいて疲れることも増えた。2000年以降の受賞作で最高傑作だと思っているのが『13階

親魏倭王、本を語る その20

【アンリ・バンコランについて】 アンリ・バンコランはジョン・ディクスン・カーが創造したシリーズ探偵で、パリの予審判事である。プロデビュー作の『夜歩く』をはじめとする5つの長編と5つの中短編に登場する。 犯罪者に対して容赦ないことから、悪魔メフィストフェレスに例えられるが、引退後は「かかし」に例えられるほど温厚になっている(『四つの兇器』)。ギデオン・フェル博士のシリーズの1冊『死時計』で彼が言及されており、世界観が繋がっていることがわかる。 ただ、ちょっとソースが思い出せない

親魏倭王、本を語る その19

【南條範夫「華麗なる割腹」をめぐって】 『駿河城御前試合』で有名な南條範夫は主に時代小説で活躍したが、今挙げた『駿河城御前試合』をはじめ、不条理さや居心地の悪さが横行する作品も多く、それらを総称して「残酷もの」と呼んだりする。 母の蔵書に、光文社カッパノベルス編集のアンソロジーがあり、ホラーを含む広義のミステリーがまとめられていた。3巻本だったが、なぜか第1巻だけが無かった。この一つに南條範夫の「華麗なる割腹」という短編が収録されていて、これは三代将軍・家光の死に伴って殉死し

親魏倭王、本を語る その18

【シリーズの終え方】 アガサ・クリスティーは、自分の没後に発表することを条件に、ポアロものとミス・マープルものの最終巻を早い段階で書き上げ、出版社に預けていた。それが『カーテン』と『スリーピング・マーダー』である。前者はクリスティーの生前に発表されたが、その翌年にクリスティーは亡くなる。生前に発表した、事実上の最後の作品は、確かトミー&タペンスが主人公の『運命の裏木戸』だったと思う。 『カーテン』はポアロシリーズの幕引きを企図して描かれたもので、作中で描かれるポアロの死も含め