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親魏倭王の小話集(小説編)

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本、主に小説についての小話集。Twitterに投稿した中でツリーを形成する長文ツイートを転載。
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2024年12月の記事一覧

親魏倭王、本を語る:特別編(お気に入り短編ミステリー紹介)

最近、と言ってもかれこれ7年くらい小説から離れているのだが(読書自体は続けている)、学生時代から正職採用されるまでの約10年間に読んだ中で、割と気に入っている短編ミステリーを少し挙げてみる。 共通の主人公が登場するシリーズ短編が好きなので、ちょっと偏りがあるのは承知している。 「5つのプレゼント」乾くるみ 『六つの手掛り』所収。チャップリンそっくりな探偵役・林茶父(サブ)が活躍する連作の一編で、プレゼントの小箱による爆殺事件が探偵役の回想として語られる。収録作すべてがロジッ

親魏倭王、本を語る その17

【アントニイ・バークリーについて】 アントニイ・バークリーは日本では長く等閑視されてきたミステリー作家で、古くは多重解決ものの古典『毒入りチョコレート事件』と一風変わった倒叙ミステリー『試行錯誤』のほか、フランシス・アイルズ名義の『殺意』ほか数冊しか邦訳されていなかった。 その潮流が変わったのが1990年代で、国書刊行会の叢書「世界探偵小説全集」にバークリーが複数冊収録されたのを契機にその著作のほとんどが邦訳された。それから約20年が経ち、それらが徐々に創元推理文庫に再録され

親魏倭王、本を語る その16

【G・K・チェスタトンのトリック創案率】 G・K・チェスタトンのブラウン神父シリーズはトリックが豊富に用いられていることで知られる。短編ミステリーブームの火付け役となったコナン・ドイルのシャーロック・ホームズシリーズにもトリックが用いられた作品はあるが、19世紀末~20世紀初頭の他の作家と比較して、チェスタトンのトリック創案率の高さは群を抜いているように思える。 この時代の作品は、今まで傑作集という形でしか紹介されてこなかったので、一作家当たり単行本1冊、おおよそ10篇程度し

親魏倭王、本を語る その15

【鉄道ミステリーのアンソロジー】 10月14日は「鉄道の日」だそうで、それに関連した話を。 昔、小池滋編の鉄道ミステリーのアンソロジーが講談社文庫から出ていたらしい。すでに絶版になっているようで、情報が乏しいが、「ミステリー・推理小説データベース」によると、2巻本で14話収録されていたらしい。ただ、当時は活字が小さかったので、今ならもう少し大部になると思うが、2巻を合本しても400ページ程度しかなく、また作品数やそのラインナップを見ても、2巻に分けられている意味が分からない。