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親魏倭王、本を語る:特別編(お気に入り短編ミステリー紹介)

最近、と言ってもかれこれ7年くらい小説から離れているのだが(読書自体は続けている)、学生時代から正職採用されるまでの約10年間に読んだ中で、割と気に入っている短編ミステリーを少し挙げてみる。 共通の主人公が登場するシリーズ短編が好きなので、ちょっと偏りがあるのは承知している。

「5つのプレゼント」乾くるみ
『六つの手掛り』所収。チャップリンそっくりな探偵役・林茶父(サブ)が活躍する連作の一編で、プレゼントの小箱による爆殺事件が探偵役の回想として語られる。収録作すべてがロジックに力を入れているが、これがいちばんロジカルだった。

「綺麗な薔薇には殺意がございます」東川篤哉
『謎解きはディナーのあとで』所収。死体の移動がテーマとなっている。執事の奇矯な性格と暴言に目が行きがちだが、このシリーズもかなりロジックに力を入れていて、単なるキャラクターミステリーにはなっていない。

「鮎踊る夜に」北森鴻
『志那そば館の謎』所収。ある女性が嵐山の隠れた名刹・千光寺を訪れた翌日に殺される。この事件を追うのは千光寺の寺男。女性が殺された動機がかなりやるせなく、後味が悪い。主人公のキャラクター造形が物語を暗くなりすぎないようにしている。

「シベリア急行西へ」麻耶雄嵩
『メルカトルと美袋のための殺人』所収。毒気が強いメルカトル鮎シリーズではかなりシンプルな作品で、その分、ロジカルさが前に出ていておもしろかった。本格ミステリーのお手本。ただ、毒気がない分、ちょっと物足りなくもある。

「暗黒系」乙一
『GOTH 夜の章』所収。世間を騒がす殺人犯のものと思われる手帳を拾った主人公たちは、未知の死体を見つけ出そうとする。『GOTH』収録作の中で最もミステリー要素が強いと感じた作品。単行本の表題になっていた「リストカット事件」は微妙だった。

「しずるさんと吸血植物」上遠野浩平
『しずるさんと底無し密室たち』所収。草むらに、人知れず出現したミイラ化した遺体。これを密室ものと呼ぶのはちょっと微妙だが、ミステリーとしてはかなりおもしろい部類に入る。同書所収「しずるさんと影法師」もおもしろかった。

「水難の夜」歌野晶午
『放浪探偵と七つの殺人』所収。冒頭で真相を明かしつつ、意外性をも担保したかなり凝った作品。タイトルにある「水難」が何を指すのかがキモ。発表当時から世評の高かった短編らしく、読んで「だろうな」と思った。同書所収「ドア⇔ドア」もよかった。

「密室の富豪刑事」筒井康隆
『富豪刑事』所収。強盗・殺人・誘拐・暴力団の抗争という、それぞれ異なるテーマが扱われた4篇の2篇目。密室での焼死がテーマで、トリックが凝っている。4篇中最も好きな作品。筒井がミステリーにも強い作家であることがよくわかる。

番外:「夜光鬼」高橋克彦
『鬼』所収。平安時代に活躍した陰陽師たちを描いた連作で、伝奇時代小説なのだが、収録作5篇のうち「絞鬼」「夜光鬼」の2篇は怪異が絡まず、純粋な謎解き小説になっていて推理小説的な趣が強い。「夜光鬼」は賀茂忠行が集められた履物から、鬼にかこつけた陰謀を見破る物語。


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