SaaSの顧客単価向上:あなたのプロダクトはサプリ?それとも薬?
SaaSプロダクトの価格設定は極めて難しい課題ですが、僕が価格を考える時は、前田ヒロさんの記事にある「死の谷」を常に意識するようにしています。
「死の谷」とは、ACV(顧客毎の年間平均契約金額)が年間約50万〜360万であるSaaSプロダクトは売上の伸びが頭打ちとなり成長が止まりやすい、ということを指します。
年間50万〜360万は、クライアントの担当者も自身の予算内か1段上の上長の決裁で通せる金額のため、営業が最も受注しやすい価格帯であり、広告業界でも多くのSaaSプロダクトがこの範囲内での価格で展開しています。
その半面、競合プロダクトの参入障壁が低く、価格競争に陥りやすい領域です。
加えて、"担当者が導入しやすい価格"である為、クライアント企業側のコミットメントが高くならないことも多く、施策の優先順位に伴って簡単にChurnしたり、アップグレードしづらい状態になることも多いという点が「死の谷」である理由かと思います。
では、販売単価を引き上げよう・・・どうやって??
僕らのSaaSプロダクトも見事なまでに「死の谷」でした。
上述の通り、受注率は高かったですが、Churn RateはKPIより悪化し、受注後のアップグレードやクロスセルもほとんど発生することはありませんでした。
単価引き上げに日々翻弄する中で、Moonshot Inc. CEOの菅原 健一(すがけん)さんに
「プロダクトの販売単価が思うように上がらなくて困ってる」
と相談した時に言って頂いたことが、結果的に「死の谷」を脱却するきっかけとなりました。
「単価が上がらないのは村岡くんのプロダクトが顧客にとって単なるサプリメントだからだよ。サプリって安価だし手軽に買えるけど、長く続かなかったりすぐ他のサプリにスイッチしちゃうよね。でも、仮に医者に5年後死にます、この薬飲んでください、って診断されたら高い金払っても薬飲み続けるでしよ?顧客にとっての薬にならないと。」
確かに自分なら、手軽に、いつでも、安く導入できるプロダクトなら、すぐ入れるけど、すぐ使わなくなるし、無くなっても痛くも痒くもないな、と痛感しました。
僕の会社でもzuoraさんやhubspotさんなどの大手SaaSの導入をしていますが、そのどれもが「体を良く保つ為に」導入を決めているわけではなく、未来起こるであろうビジネス上の「病気を治す為に」導入しています。
僕らは「このままだと御社(のビジネス)死にますよ」と診断されたので、いくら価格が高くても導入して活用する以外の選択肢がありませんでした。
SaaSの基本はジョブ理論(Jobs To Be Done)であり、目の前の顧客のJobを代替することですが、
Jobを代替することがゴールなのではなく、その先に経営課題や事業課題の解決を見据えたプロダクト設計をしているかどうか、が一番大切な点になります。
※以下のような整理です
"薬"に向けて改めて見直すポイント
サプリメントから薬への進化を図り、結果的に2018年1年間でACVを2.5倍まで伸長させることができました。その過程で僕が改めて見直したポイントを整理します。
①プロダクトが解決したい業界課題や社会課題を見返す
単価が引き上がらない時は、解決したい課題が足元の業務レベルでの課題解決になっており、手段が目的化しているケースが多いです。
改めて、自分達が向き合う業界や社会が陥ってる課題を言語化することが大切です。
②課題に合わせてプロダクトを表すコピーを再定義する
解決したい課題の規模や状態に合わせてLPや営業資料、ピッチで使われるプロダクトのコピー文を見直すことで、プロダクトの認識のされ方を変革することができます。
顧客との最初の接点で、どんな印象を持ってもらうか、がその先の予算規模を左右するので、コピーは実際提供可能な価値よりも多少大きく表現したほうが良いと思います。
③課題やコピーに合致した営業資料やピッチ内容、サービスレベルを再定義する
改めて整理した課題やコピーに今の販促物や提供しているサービスレベルが合致していないことが多いので、改めて整理し、再定義します。
サービスレベルに関しては、これまでの既存の手法以外のサービスも付与する必要が出てくるが多いのです。
④幅の広い複数のプライスラインを用意する
現状の価格を下位プランに位置づけ、数倍高額な最上位プランで最も販売を伸ばしたい価格帯を中位プランとして、サンドイッチのように挟むようなプライスラインを準備しましょう。③の通り、営業ピッチの改善を図っていれば、違和感なく顧客は中位プランを選択する可能性が高まります。中には下位プランを選択する顧客もいますが、全社が下位プランを選択することは間違いなく無いので、最終的に単価は引き上がります。
単価が上がらない時は、
・市場を小さく定義している
・適切な課題を持つライトパーソンにあたってない
・営業時の訴求内容や実際のサービスレベルが、解決したい課題に合致していない
の3点のうちどれかが原因になっていると思います。
もし、あなたのSaaSプロダクトが「死の谷」にいて、単価の引き上げに苦しんでいるのであれば、
自分たちのプロダクトはサプリメントか?それとも薬か?
を追求してみると、勝ち筋が見えてくるかもしれません。
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