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知れば知るほど、納得できなくなる。
グループ会社に、江戸時代から続く老舗、小川屋味噌店がある。小川屋味噌店は、味噌づくりからはじまり金山寺味噌、漬物、惣菜、今では魚の佃煮も手がけている工場だ。
過去に見学をさせてもらった事はあるが、味噌づくりの見学をさせていただいた程度で、これと言って記憶に残っていない。
あれから月日が流れ、とある一本の電話から今回再度行くことになった。ただ、今回は味噌とは関係ないという。であれば、あれしかない。
そう、店舗でも人気となっている【ピリ辛いわし】と言う商品。以前は別の会社で製造されていたものを、今では小川屋味噌店でその事業を引き継いでいる。
『いったい、味噌工場のどこで作られているんだ?』
そんな事を思いながら、製造工場の小川屋味噌店を訪れた。
小川屋味噌店の工場長。
小川屋味噌店に到着し、正面玄関のドアを開けるとその人は立っていた。入社当時のかつての上司との久しぶりのご対面。全身を白衣で覆っているが、その飄々とした雰囲気は健在。小川屋味噌店の石川工場長だ。
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『今日は、何しに来たの?』
知っているくせに、第一声がこの質問である。工場長とわたしは、外見も似ていて、兄弟?と言われることもあるくらい似ているようだ。自分では、そこまでの認識はないのだけど。
さすがに長らくお会いしてなかったのと、入社当時に色々教わったこともあり、わたしはわたしなりに少し緊張気味で空回り気味。大きめにでた声だけフロアに響く。
「ピリ辛いわし工場の見学させて頂きたいです。よろしくお願いします!」
「なんだか、緊張するなー。」そんな事を思いながら、早速ピリ辛いわしの製造現場に案内していただいた。実はわたくし名を吹田と言います。工場を見学するのは好きで、今の世間の騒ぎが起きる以前は、わりとお菓子工場に行ったりもしていたんです。何が好きかって言われると正直わからない。でも見てて何か楽しいし好き!そんな感じです。
そんな軽い自己紹介はさておき、先ほど入った入口を出て、味噌の工場の入り口へと一歩踏み出した時、工場長が「そっちじゃない。こっち。」と誘導してくれたのが、どちらかというと工場の横というか裏側。
「ここは前、倉庫として使ってたところ。」
と教えてくれた目の前に広がる、入り口の広さに心が踊る。「倉庫を改装して作ったんだぁー!スゲー!」でも、中はまだ何も見えない。目隠し的に垂れ下がるカーテンのようなものを手で払いのけ、中をのぞいて見ると思ったよりも人がいるのにビックリした。
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10人チョットだろうか。わたしの目には50坪程度に見える場所に、機械やら乾燥室、その他もろもろ作業する所がある。建物は古くも見えるが、キレイに掃除が行き届いていた。その中で、みんな黙々と作業していた。切ったり、袋に詰めたり、いわしを並べたり。
マスクしているからか、思ったより「イワシの匂い」は気にならない。中は話声が聞き取りづらい程、大きな機械音がする。「よし全集中で話を聞いて行くぞ!」と心に誓い、工場長や現場の方々に話を伺っていった。
実際に知るということ。
まずは、イワシを解凍するところから見させていただいた。冷凍されたイワシの原料は、何匹もが大きな一塊になって工場に入ってくるそう。その塊に、水道水をひたすらかけ続け解凍していく。
ピリ辛いわしに使用するイワシはマイワシになり、全長は長いもので20cmを超えるものも存在するようだ。イワシの知識がない方は、下記サイトをご参照ください。
その中でも、だいたい15cmを超えてくる中羽いわしを選ぶのだとか。あまり大きすぎても、骨や身が硬く仕上がってしまうようで、この大きさにも意味があるのだとはじめて知った。
実際にそのイワシを目の当たりにすると、思っていたよりデカい!ここから、首の部分をカットするのだが、カットしても12、13cm程度。しかもカットする部分は、予想以上に的確にカットされていた。
いわしの甘露煮にする、イワシの下処理のポイントを聞いているところです。『エラの少し尾っぽ側をスパッと切るんです。』と言われても『エラがどこですか?』ってなります。この少しの差が、最終的な大きな差になります。1尾1尾の積み重ねの努力によって、ピリ辛いわしは仕上げられているのです。 pic.twitter.com/m7SMKNqnC9
— やます戦略本部 企画開発チーム (@TeamYamasu) February 16, 2022
解凍された大きさも異なるイワシを手に取り、瞬時に切る場所を見分けて頭を一刀両断。コツは一気に。ノコギリみたいにギコギコやらないことなんだとか。
エラを切ると、硬くて刃が通らないから避ける。この一刀で、仕上がりの見栄えも変わってくるのだそう。確かに、周りを見渡してみると切ってる4人の方々、同じ感じに仕上げている。そのスピードと仕上がりのキレイさにビックリした!
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しかも、一人一日で900カットもする時があるとのこと。無駄に時間や秒数換算してしまう。「一分当たり1.8匹もかよ!それを、ひたすら!?」そんなわたしの頭の中での計算をよそに、イワシを一刀両断し続ける製造の方々。
「見ていると簡単そうだけど、絶対難しいんだろうなぁー!」
そんな事を思いながら、その作業の早さに見惚れてしまいました。
まさに指先一つ。
イワシをさばいた後は、イワシを乾燥させていく。乾燥と言っても、冷風乾燥で一晩寝かせるそうだ。
イワシはその漢字の通り、弱い魚。いくら冷凍されてくるからといって、解凍から時間が経過すればするほど、段々と弱ってしまうそうで、小川屋味噌店に工場を移設してからというもの、その鮮度をなるべく落とさないように、とりあえず焼き加工までする。そんな取り組みというか、意識もしているのだとか。先ほどの捌いていく手つきが早いのも、その仕上がりの風味にこだわるからこそ。と後から知った。
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冷風乾燥中のイワシたちは、その出来上がりを静かに待っている感じだった。切ったイワシを7、8段の網棚に並べて約一日乾燥させる。いわしの数は、一つの棚でザッと600匹ぐらい。繁忙期になると、この乾燥室が目一杯にもなるのだとか。
気になるのは、その仕上がり具合。乾燥といえど、時間で引き出しているのか、誰が確認しているのか気になった。なぜなら、イワシの大きさは一尾一尾違うからだ。その大きさが違えば、当然のように乾燥の仕上がり具合は変わってしまうはず。そんな疑問から…
「この乾燥具合というのは、どうやって確認してるんですか?」
と石川工場長に伺ってみたところ、製造担当の松井課長がメインで確認しているんだそうで、その乾燥具合は松井課長の指先の感覚が頼り。その感覚の鋭さを説明する、工場長もどこか誇らしげ。
工場長も認める。松井課長の「黄金の指」ゴールドフィンガー!
その指先を使って、熟練した技とも言える感覚で、乾燥具合を確認しているとのこと。松井課長いわく「とにかく毎日触る。」そうして得た感覚で、寝かせ過ぎると取り返しがつかないため、常に気に掛けているそう。心配で気になって明け方目が覚める事もあるそうだ。
「まじか。わたしと違い、プロ意識がスゴイ!」
そんな、作り手の想いを感じた瞬間でもあった。
芸術的な、その手捌き。
本来、一晩冷風乾燥をかけたイワシに「焼き加工」が入るのだが、本日はもう終了。ということで、残念ながら見ることはできなかった。
焼き加工は、3、4分で焦げ目が着く程度に仕上げる。この冷風乾燥、焼き加工で煮崩れせず、見栄えよく仕上がるそう。終始、この見栄えというキーワードが出てくるので、イワシを捌くところからずっと、意識している事なんだと感じた。
そして焼き加工まで仕上がったイワシを、今度は煮て味付けを施していく。その煮ている状態を、先にお見せするとこんな感じです。
イワシの甘露煮を作る工程で、焼き上げた後に煮る作業があります。味付けの煮込みをする前に、お湯だけで煮込みます。イワシの臭みをとったりするのに必要で、出来上がりの味わいも違ってくるそうです。イワシは鮮度が命の弱りやすい魚なので、食べて臭みを感じないような製造を続けるのが大事です。 pic.twitter.com/Xm9z6yivjF
— やます戦略本部 企画開発チーム (@TeamYamasu) February 21, 2022
モクモクと湯気が出る熱気ムンムンの釜の中に、網のようなものに入ったイワシがぎっしり!まずは水だけでしっかりと煮ていく。そうすることで、イワシの臭みとなる成分を追い出していくそうです。
そして一度煮込んだ後に、先代から受け継がれた味付けでイワシを煮込んで仕上げていく。これが煮こむまでの一通りの工程。仕上がるのには、3日もかかる。そんな話を工場長としていると、横目にチラッと見えた一人の女性。
先ほどの釜の中に入れていた網に、ひたすらイワシを並べている。その姿にみんなの視線が集中した時、工場長が一言。
「あれ、実はめちゃくちゃ難しいんですよ。」
と教えてくれました。その作業が、こちら。
【ピリ辛いわし】を製造している工場に行ってきました。この煮る前に網にイワシを並べる作業。一見『並べてるだけでしょ。』と見えるこの作業にも、1cm単位でイワシをずらしたり、並べる時の掴み方や置き方には、初心者ではできない熟練技術に加え繊細さが必要。終始丁寧な加工に、とても驚きました。 pic.twitter.com/Y8lj2v8LUS
— やます戦略本部 企画開発チーム (@TeamYamasu) February 14, 2022
茹でる時に丸い直径70、80cmぐらいある大きな網に、イワシを円にして並べて行く。確かに見ていると並べているだけだから、簡単に見える。イワシの尾の部分を何尾かまとめて掴み取り、まぁるい網の方に並べていく。ただ、それだけのこと。とは言え、その全体像を見させていただくと…
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じっと眺めていると…
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最後の隙間はどうするのか…と思ったら。
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この完成形を目の当たりにした瞬間、驚きのあまり
「キレイ過ぎる。コレは芸術でしょう!」
そんな思いで見つめてしまいました。担当していた方に伺ってみたところ、「慣れないうちは3、4匹ずつ持って並べる、慣れてくると6匹ぐらい一気に並べられる。」らしい。並べる時に尻尾の部分が重なると身が剥がれやすくなるため、それも計算して並べている。
コツは何ですか??と聞いたら、「慣れですね。」と言っていた。どれぐらいやられているのか話を聞いてみたら、一年半前まで味噌の方を担当していて、まったく違うことをしていたらしい。慣れといえど他に任せてないあたり、相当な信頼されっぷり。わたしは何故か、羨ましさを感じてしまった。
そして担当の女性は、もともと魚好きで「楽しいんです。」と言葉少なだったが、携われることへの嬉しさだけは十分に伝わってきたのが印象的でした。やっぱり楽しいと、表情や仕事に出るのだろう。と、ここでも勉強になりました。
どこまで伝え続けられるか。
ここまで一つ一つの工程に一人一人の技術というか、それだけでは説明できない意識の高さを感じた。それは、元々製造していた(株)山甚の社長でもあった大久保さんが伝え続けてくれたこと。
そして、その頃からタレの配合も変えておらず、継ぎ足しながら使われているそう。「秘伝のタレ」ってよく聞くけど、継ぎ足しってだけで何か美味しそうだと感じてしまう。でも家庭でやる人は少ない。「何でだろう!?」そんな疑問もあったが、継ぎ足しのタレと新しいタレを比較したときに、新しいタレというのは、どこか尖った感じを受けるのだとか。
「思春期を迎えた若者みたいなイメージか?」
そんな事を思いながら説明を聞いていくと、タレは継ぎ足す事によって尖りが取れて、まろやかな味わいに仕上がり始めるらしい。
「やはり年を重ねる毎に、まるみを帯びる人と一緒だな。」
この受け継いでいく感じ。「これが美味さの秘訣かぁー。」と、説明をすべて聞き終えた時の素直な乾燥。それに皆さんの仕事が、本当に丁寧すぎて驚きました。このパワーが集まって出来た商品「ピリ辛いわし」だから圧倒的に、お客様から支持されているんだと納得しました。
製造の携わっている方には、本当に頭が下がります。この気持ちを大切に自分には何が出来るか考えよう!売場で何ができる?お客様へ何ができる?改めて販売に携わる人間として、何を伝えて行けるのか本当に考えさせられる一日でした。
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この製造に携わる方を目の当たりにした後に、見るその商品の売り場。良し悪しあるけれど、やはり物足りなさを感じてしまう。あの丁寧な仕事っぷりをどこまで伝えられているのか。
わたしは今まで「何もできないから、できる人に任せるところは任せて。」そんなスタンスで売場づくりに取り組んできた。
売場に飾るのも用意されたものを飾り、見栄え良くしておけば。そんな売場作りだったようにも感じてきてしまった。本来は、与えられたものだけではなく、ただ派手で目を引くだけでなく、もっと他にも伝えなくてはいけない事がある。
そんな事に気付かされた貴重な体験。ありがとうございました!よしっ!商品の良さをドンドン伝えて行くぞーーー!どこまで伝えていけるか、やれるだけやってみます!
引き続き、応援のほどよろしくお願いいたします。